第2話 道中
馬車に揺られて、リュージュ達三人は村を後にしていた。馬車と言っても、それだけではない。兵士が二人馬に乗って先導し、その間に兵長が乗る馬車、続いてリュージュ達が乗る馬車、最後に
村を出たことのないラルドとミリアはワクワクしながら、時折窓から顔を出しては外を眺め、また座り、そしてまた外を見るの繰り返しだった。リュージュといったら、ずっと外に出ていなかった割りには外への興味をあまり示していないようだった。
「……二人とも、少しは落ち着いたらどうだ? そのままだと、リーガル城に着いた頃にはへとへとになっていると思うが」
「でも、村から出たことないから、こういうの楽しくて……リュージュはそんなこと思わないの?」
ミリアがいきなりリュージュのことを呼び捨てにしたので、リュージュは少し面食らったような表情を浮かべていたが、直ぐに元に戻して、話を続ける。
「……私はずっと昔に、政治をしていたことがあったからな。リーガル城にも数え切れないぐらい出入りしたことはあるし……」
「お城勤めだったの? すごいなあ……」
目をキラキラ輝かせながら、リュージュを見つめるミリア。
すっかりミリアとリュージュは打ち解けているようだった。
それに比べてラルドは、未だ少しぎこちない感じが残っている。やはり、そこは性別の問題なのかもしれない。意外と性差は超えるには大き過ぎる。
「……ラルド、あんたが最初にリュージュと出会ったのに、全然打ち解けていないよね?」
「ミリアはそういう性格だから仕方ないけれどさ。僕は直ぐ打ち解けるなんて出来ないから」
「それは努力不足よ。努力しないから、そう出来ないだけで」
「まあまあ、それについては長々と言わないで良いだろう。……で、どうだ?」
「どう、って?」
「村を出たのは初めてなのだろう。……村以外の景色を見るのはどうだ? とは言っても、田畑しか広がっていないが」
確かに、窓の外に広がっている景色はずっと田畑となっている。遠くには山並みも見えるが、もうリュージュが居た塔は見えなくなっている。
「リーガル城までどれぐらいかかるんですか?」
「ざっと半日といったところでしょうね。夜には到着するでしょう。謁見は次の日になると思う。流石に王様も夜通し謁見なんてしたくないでしょうから」
「でも、何で僕達も連れて行くんですか?」
「……魔女の良い交渉材料とでも思っているんでしょう。残念ながら、あなた達とは今日出会ったばかりなのにね」
「それを認めようとはしないと思います。仮に使えなかったら……その時は、」
「容赦なく、殺すでしょうね。……今のハイダルクは、昔程温情ではない」
「えっ、それじゃあ逃げないと……」
「逃げたらもっとあなた達の立場は悪くなる。そう、例えば……あの村を処分する可能性もあるでしょう。魔女を匿った村だ、と言って。今まで全く関わったことがないというのに」
「そんなの、ひどすぎる」
「それが人間の本性ですよ。魔女という究極の存在を手に入れるためならば、どんなものでも使おうとする。それが人間という生き物ですから」
「人間って……醜い生き物なんですね」
「そう。だから私は……人間と関わろうとしなくなった。それが、私にとって一番の選択肢だと思ったから」
しばらく進むと、城塞のような場所に到着した。遠くまで城壁が続いており、街道に門が置かれている。
「ここは……?」
「ここは関所、だね。ここから先はリーガル城が直接統治している区画……だったはず。そして、外から変な人間が入らないように、変な人間が外へ出て行かないように、監視する場所がこの関所、という訳」
「私達、中に入れるの?」
「入れるでしょう。何せハイダルクにとって私は最重要機密。そしてあなた達は私と話した相手として、一緒に扱われることは間違いないでしょうね」
魔女という存在は、それ程までに重要だった。
それは、魔女という存在を伝承でしか知らなかった二人でさえも、理解していたのかもしれない。
「あ、動き出した」
止まっていた馬車が、ゆっくりと動き出す。
馬車の窓から、門に居る兵士が敬礼しているのが見える。
「何をしているんですか?」
「敬礼、ですよ。大方私達の前に居る兵長が偉い存在なのでしょう。権力に溺れている、というのは言い過ぎかもしれませんけれど」
「……兵長って、兵士と何が違うの?」
ミリアからそう言われたリュージュは頭を抱えた。
「……それから説明しなければならないのか……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます