第21話 大樹海の幽霊
「わっ、ちょ、クロン、行くわよ!」
「は、はい!」
クロンとラビは、カエデの突然の行動にあっけにとられたせいでかなり出遅れてしまう。そうしてカエデを助けるために加勢しようと向かうも。
すでに
「余裕。ぶい」
「嘘ぉ!?」
ラビは自分が見ているものが嘘ではないのか、夢ではないのかと疑うも、そんな都合のいい結果にはなりようがない。カテゴリー2中位は
それを一瞬で倒してしまう目の前の少女はいったいなんなのか。クロンがボコボコにされる程度とは聞いていたがここまで強いとは思っていなかった。そう思いクロンを問いただそうと彼へ目を向けるも、クロンも同様に驚愕が顔に張り付いている。
これは聞いても答えられそうにないな、と考えそのままふたりでカエデの元まで向かう。
「えーっと……カエデ? こんなに強かったっけ?」
「わたしがくーちゃんを傷つけられるわけない。普段は手加減してる」
「えぇ〜?」
あんなに一方的にズタボロにされるのに傷つけられないとか言われてもとか、あれで手加減してたのかとか、どこでそんな強くなってるのとかいろいろ聞きたいことはあるが、そういった疑問を問う前にカエデが言う。
「そもそも外界に出るのは初めてじゃない。何度も出てる」
「「えぇ!?」」
ふたりは更なる爆弾発言に先ほど同様驚くも、その方向性は違った。ラビの驚きは何度も一般未成年を外界へ連れていくような、ライセンスの乱用をする冒険者が外区にいた—もちろん自分は例外だと思っている—ということに対して驚いていたが、一方でクロンはそんなすごい人がいるならなんで僕も連れてってくれなかったの!? などという見当違いな方向の驚きと怒りが入り混じった感情をしていた。
「なんで僕も連れてってくれなかったのさ!?」
クロンは我慢できず口から出してしまう。幼馴染だけがそんないい思いをして悔しかったのだろう。するとカエデはそれに対し返答する。
「そもそもくーちゃんが今まで自分の夢を秘密にして、誰にも相談せず勝手に冒険者になっちゃったからこうやって自分の力を見せることになった。くーちゃんが地元から出ずに生きてくれればわたしは冒険者になる必要もなかったし、くーちゃんと一緒に死ぬまであそこで暮らしてた。それもこれもくーちゃんが悪い。そもそもわたしはある人にくーちゃんを守ってほしいって言われてたから、強くなるためわがまま言って外に連れてってもらってただけ。文句ならその人に言って」
「ある人って誰!?」
「それは秘密」
あっ、これはクロンの失踪した父親だななどとラビは答えに辿り着くも、
「......はぁ、わかったよ。カエデが強い理由はわかった。でも本当なら教えてほしかったな。幼馴染なのにさ」
「それはこっちのセリフ。くーちゃんだってなにか隠してることくらいわかる」
「そうだけど、それは自分の身を守るためだし」
「わたしのこときらい?」
「嫌いじゃないし、僕のことを殺すことはないってわかってるけど、それ以外の部分で身の危険を感じるから」
「そう。でもわたしはこうやって理由を教えた。だからくーちゃんもこんどちゃんと教えて」
「はぁ……わかったよ。ラビには教えちゃったし信頼してて、同じパーティーにいて知らないのは不公平だからね」
そうクロンが妥協すると、カエデは小さく喜ぶと倒したクロスホーンディアの石を拾う。
「結構大きい。きれい」
「そうね、強さや種族に応じて色とか透明度とか大きさとか変わるから、石集めも結構楽しいわよ」
そんな会話をしながらゲートまで戻ろうとしていた時だった。
いけ……テイケ……
風の音に混じりなにか声のようなものが聞こえる。ラビの顔から血の気がなくなる。
「ちょっ、ちょっと。なんか変な声聞こえない?」
ラビは他の人に比べて少し耳がいい。ちょっとした物音でも聞き逃すことはない。しかしクロンとカエデはそうではないため、ラビの発言の真意がよくわからない。
「いや、特には聞こえないけど」
「わたしも、心地いい風の音だけ。索敵範囲内にも
「そんなことない! 聞こえるわ。ね、ね、急いで帰らない?」
「そんなに急ぐ必要はない。入り口だから強い
「僕もカエデと同意見だな。だいたい昼に出る幽霊ってなんだよ。夜に出るから幽霊は怖いんじゃないか」
ラビの怖がりようをふたりは楽しみながら、ラビの提案をことごとく無視していく。しかし、ラビの聞こえる声はどんどん近づいてきていた。ついに、クロンとカエデの耳にも入ってくる。
『デテイケ〜、デテイケ〜』
サァッ、と、風のせいであるだろうが周囲の木々が大きく揺れ、若干肌寒くなったように感じたころ、3人は明確に出て行けと言う声を聞いた。ギギギと、クロンとカエデはラビの方へ首を回す。
「ラビ」
「だっ、だから言ったじゃない! 急ごうって! 急ごうって! それなのに! それなのにぃ!」
「走ろう、ラビ、カエデ!」
そうクロンが言うと、ふたりは首を縦に素早く振り、ゲート【8】へ向けて幽霊に会う前になんとか逃げようとした。しかしそれは叶わなかった。視角の端で見てしまったのだ。森の奥側に立つ白いワンピースの女を。
『今すぐ、この森から、でていけぇ!』
「「「でたーーーーーーー!」」」
その後はもう3人は死に物狂いだ。たまたま幽霊がゲート【VIII】側でない方向に出たのが幸いし、そのまま普段では絶対出ないような速度で3人はひた走り、そのまま勢いよくゲート【VIII】へと転がり込む。ラビが一足早く着いており、少し遅れて残りのふたりも転がるように中まで入る。
「で、でた! でた!」
クロンはラビ以上に怖がっており、声は出さないまでも横でカエデも震えているのを見て、ラビは逆に冷静になってしまった。ゲートという人間が作った構造物まで戻ってきたと言う安堵感も大きく、ラビは意趣返しとばかりにふたりに追い打ちをかける。
「なーんだ。ふたりとも怖いんじゃない。行く前はさんざん私のことバカにしてたくせに、とんだ強がりだわ」
「本当に出るとは思ってなかったし、なんかあの幽霊迫力がすごくて」
「わたしの索敵に引っかからなかったってことはゴースト型の
ラビはそうふたりがしどろもどろに言い訳をしている姿がおかしく、ふふっと軽く笑うとそれくらいで勘弁してやるかと考えそのまま話を戻した。
「そういうことにしておくわ。それにしても
「それは新人戦まで秘密」
「そう、じゃあ楽しみにしてるわ。クロンもいつまでも怖がってないで、帰るわよ」
そうして3人は帰路につく。会社に着いたのは西がほのかに明るく、空が暗くなりはじめたころであった。
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