2月14日

 昨日、宅急便の不在届がポストにあった。昔付き合っていた人からだった。今日、コンビニ引き取りで荷物を受け取った。小さい箱で、開けてみるとチョコレートがあった。コンビニで売ってるなんてことない板チョコである。

「ありがとう、でもなんでまた」

 僕はかつて付き合っていた人に電話をした。なにせラインのなかった時代に付き合っていたのだ。

「あなた絶対家にいないから14日に受け取るだろうと思って13日着にしておいたの、当たりだったね」

 彼女は質問の答えになっていないことをおかしそうに話した。

「どう、最近は」

 彼女が訊ねた。

「あんまりよろしくはないね」

「いつものことか」

「そうだね」

「あなたを思い出したから手紙でも書こうかしら、って思ったんだけど、そういえばじきバレンタインだなと思って」

「板チョコなら封筒で送ってくれても」

「Amazonの箱余ってたし、突然宅急便できたら驚くでしょ」

「そんなことのためにわざわざばかにならない代金払ったのか」

「まあね。でも一緒に送るはずだった手紙を入れるの忘れてた」

 なんだそりゃ、と僕は思った。

「何書いてくれたんだよ」

「あなたと昔、将軍塚でデートしたとき、やたらキスしようとしたり、なんなら野外でどうにかしようとしててあれほんとウザかったって」

「しょうもない」

「あなたとの思い出、だいたいしょうもないもの」

「それ送ってよ」

「切手代ないわ、宅急便代、ばかにならないものね」

 電話が切れた。

 僕は出されなかった手紙について考えてみた。

 だが、届くことのない手紙にはなにが書かれていたか? チョコレートのほうが甘いのなら、知らなくてもいい。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

「今日はなにー?」

「今日はバレンタインデ〜」

チョコレート会社の陰謀とか、そういうの抜きに、チョコはおいしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る