フハハハハ!ようこそ、リッチー・モンド『アンデッド農園』へ!! ~胃袋掴んで目指せ世界征服~
NeKoMaRu
プロローグ
物語は大陸の奥深く、魔物の森と呼ばれる樹海の奥……魔王城にて始まる。
「ほぉ、儂を四天王から降ろすと申すか……」
低い男の声が魔王城の廊下に響きわたる。
その男の姿は全身が骨……まるで、人体の骨格標本のような姿をしていた。
多少の知識を持つ者が見れば、その骨をスケルトンという魔物の名で呼ぶことだろう。しかし、この骨は違う。通常、スケルトンには意志など無く、召喚した者の命令のままに動く操り人形のような存在だ。それに、骨なのだから声帯などあるはずもなく、喋る事は出来ない。
しかし、この骨はしっかりと己の意志で動き、どこから声を出しているのかは謎だが、しっかりと喋ってもいる。
「勘違いをしてもらっては困るな、リッチ・モンド卿。いや、リッチ・モンド……貴様を、魔王軍から追放すると俺は言ったのだよ」
動く骨と対話しているのは、若い男。赤い髪で頭には黒い羊の角を有している。蛇のような目を持つその顔は、酷薄な笑みを浮かべていた。
「ふむ、ダルキシアスよ。四天王筆頭である貴様が言うのであれば、儂は素直に従おう。しかし、聞いてもよいか? この件は、魔王様や他の四天王も了承しておるのか?」
リッチ・モンドと呼ばれた骨はカタリと小首を傾げる。
「当然だろう? ここに魔王様からの命令書もある。くくく、魔王様もようやく貴様の無能さにお気づきになられたようだぞ?」
「……ふむ?」
リッチ・モンドはダルキシアスの差し出した書類を受け取り、それを確認した。したのだが、どうにも目の前の男の言っている事と書類に書かれている文章に差異があるようだ。
『リッチ・モンド、これまでの永きに渡るまさに粉骨砕身の献身、骨身にしみる感謝だ。ゆっくりとその骨の身を骨休めしてくるがよい、骨だけに! 骨だけにな!!』
ーー魔王様……さすがに、お寒ぅございます。
脳など存在しないはずの頭に痛みを覚え、リッチ・モンドは深々と溜息をついた。
『リッチ・モンド様へ、リッチ・モンド様が人何十倍も働いて居ては、後進が仕事の場を奪われ中々成長しません。なので、しばらくはどこかでゆっくりとお休み下さい』
『リッチ・モンド様……居なくなる、お菓子貰えない……でも、魔王様がちょっと休ませてやれって……ぐす』
ーーアーミラとカミルか、この二人は儂に好意的であったからの……というか、この三枚だけでも割と好意的な文章なのじゃが、何故に追放となるのじゃ?
リッチ・モンドは内心首を傾げるばかりである。
「さらに、こちらには貴様を追放するのに賛同するという旨の署名がある」
そう言って、ダルキシアスは別の紙の束をリッチ・モンドに突き出した。なるほど、こちらには確かにリッチ・モンドの追放に関しての書面であり、賛同する者の署名も書かれてはいる。
--見事に子飼いの連中の署名ばかりであるな……はて、このこわっぱはここまで阿呆だったかの?
せめて少しは隠そうとせよ、とリッチ・モンドはダルキシアスに対し注意をしようと思ったが、何かもうそれも面倒に思えてきた。
それに……。
--確かに、儂ももうここ三百年程は外に出ておらんしの……しばらくは、どこかでのんびりスローライフとやらを送ってみるのも一興か……。
と、考えてしまったのだ。
「ふむ、あいわかった。では、儂は四天王の座を次代の者へと明け渡すこととしよう。そして、追放じゃったな? それも了解した。これより、我が身を遥か遠方の地へと転移させる事としようではないか!」
そう考えたのなら、リッチ・モンドの行動は早い。何せ、その身はただの骨。魔力さえあれば食事を必要とせず、その骨の身には服すら必要ない。故に旅立ちの用意など、何も必要ないのだ。
「貴様……貴様は、このおれに魔王軍を追放されるのだぞ? 悔しくはないのか!? 自分が惨めだとは思わないのか!!?」
そんなリッチ・モンドの態度が気に食わないのか、ダルキシアスは苛立ちを露わにし、骨に群がる野犬のようにリッチ・モンドに食って掛かった。
「フハハハハ! 特に思いはせんよ。そのような物より、儂はこれからのスローライフな毎日にワクワクしてきておるのじゃ! では、儂が抜けた後の魔王軍は任せたぞ、
「ま、待て! せめて貴様の仕事の引継ぎをしてから……!!」
ダルキシアスは手を伸ばし、魔法陣を浮かべ転移の準備を始めるリッチ・モンドを止めようとした。しかし、テンションアゲアゲ状態となったリッチ・モンドを無理矢理引き止める、それだけの実力をダルキシアスは持ってはいなかった。
その日、リッチ・モンドは転移の魔法により、魔王城より消え去ってしまったのだ。尚、魔王城内では例え四天王であろうと魔法を使えないはずなのだが、何故リッチ・モンドに使用出来たのかは謎である。
『まぁ、この術式作ったのあいつだしな……久方ぶりの外の世界、存分に楽しんでくるがよい。我が最古の友よ! ってか、あいつ先々代以上前から仕えてたって記録あるけど、今何千歳なんだ?』
……一部の者以外には謎なのであった。
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