第19話 episode 16 求める物と未来を詠む者

 驚愕しているあたし達を楽しんでいるかのように、笑みを絶やすことなくファルは話を続けた。


「そう、私が緑の賢者と呼ばれている者だよ。とは言っても自慢する気もないから、生きていることはおおやけに晒したくはないがね。

 それと不老不死とは言ったものの、肉体が若返っただけで手段を止めると普通に年は取ることになるし、肉体に多大な損傷を受けると死ぬことにはなる」

「え、えぇと、そ、そうなんだ……」


 頭が混乱しているのか話が中々入ってこないが、ゆっくり整理するとある手段を用いて肉体を若返えらせているだけだと。


「そんなことが可能だったのね。どうやったの?」

「それは秘密さ。

 ただし、簡単に説明すると神秘力カムナを極限まで高めた上で反発する魔力マナをぶつけ吸収するといったところかな。

 単なる研究の一環で自身を用いた人体実験をしたまでなんだが、結果としてこうなってしまったというわけさ」

「要するに簡単に出来ることじゃないし、お薦めは出来ないってことね」

「そういうこと。

 たまたま子供の肉体で収まったから良かったものの、下手をすると胎児にまで戻りやがて消滅しても不思議ではないからね。

 完全な理解が出来る者でなければやらないほうがいいだろうな」

「他の人達も同じような不老不死なわけ?」

「いや。これは私だけで他の者は違う。

 私の友である五人の英雄の一人は神のとがを受け不老不死にさせられた、真の不老不死と言える存在であるからな」

「それはもしや、最後の一人である業を背負った者では?」

「レディだったね、貴女はよく知り物事を見極める力があるようだ。

 その通りだよ。神に反逆し、人の行く末まで見守り続けさせられることになったのだから。

 その話はまた別の機会で知るといいさ。

 それで、私に何の用があってきたのかな?」


 その言葉で我に返ったかのように何の為に来たのかを思い出した。


「そうよ、そうよ! あまりの出来事に目的を忘れるところだったじゃない。

 あたし達はある武器を探しているの。

 それがね、あった場所から持ち去られていたんだけど、どこにいったのか世界を見渡せるなら何か知ってるんじゃないかって」

「ほう、なるほどね。もしかしたら心当たりはあるかも知れないね。

 だとしたら、それを知ってどうするんだい?」

「それを使って魔人を倒すのよ。その為に探しているんだもの」

「魔人を倒す武器、か。

 ただの魔人であれば魔力か神秘力が備わってさえいれば難しいことではないが……。

 もしや、復活した魔人王を滅ぼす程の武器ってことかな?」

「知っているのね!?」


 ここまで来てようやく手掛かりが見つかったと、テーブルから身を乗り出してしまった。


「そういうことか。それでライズを救い此処ここへ来たと。

 では、それを滅ぼしたら結婚するのかな?」


 一瞬、聞き間違えたのか耳を疑ったのだが、目の前の男の子は穏やかな表情のまま何も変わりはなかった。


「んんと、今、何て言ったのかしら?」

「魔人王を滅ぼしたら結婚するのかと聞いたのだが?」

「ん? 結婚? 誰が誰と?」

「え? アテナとライズとだが?

  違うのか?」


 どうやら聞き間違えてはなかったようだが、全く意味が分からずファルとライズを交互に何度か見ると、ライズは明後日の方を向き出した。


「あたしがライズと!? 一体いつからそうなったのよ!?

 はぁ!? 結婚???

 あたしが!?」

「しないのか? では、いつ?」

「いつもへったくれもないわよ!! 結婚するなんて、はぁぁぁぁ!?

 ちょっと待って!」


 頭の整理をつけようとミーニャとレディも見るが、一人は口を抑えて驚きを隠そうとしているし、もう一人も口を抑えてはいるが目が既に笑っている。と、ライズをもう一度見るとあることに気がついた。


「あーーーー!! もしかして、あんた! さっき口ごもったのってこれのことでしょ!?」

「あっ、いや、まぁ、オレの中ではそうなりーー」

「そうなりたいとかなるとか聞いてるんじゃないわよ!! そう、そういうつもりで連れて来たのね!?

 ファル! 言っとくけど、あたしはライズと結婚はしないからね。

 どういう紹介を受けたかはしらないけど、結婚はしないしそれで来たわけじゃないんだから」


 あたしが眠っている間におかしな説明をしたライズ。彼に怒っているのではないが、否定だけはしておきたく言葉が荒くなる。


「そ、そうか。ならば、ライズの思い違いというわけか。

 残念だな」


 悲しそうな顔を見せるファルにあたしは少し戸惑った。


「思い違いも何も……。

 彼は良い男だし、悪いとこはないと思うけど。

 違うのよ、あたしは結婚とか。

 それに出会ったのは数日前なんだから」

「では、もしかしたら時が経てばそれも有り得ると?」

「いやいやいやいや、そ、そうじゃなく。

 恋心も抱いてないのに結婚もくそもないでしょって話で」

「しかしな、時が経てば恋心が芽生えるかも知れないではないのか?」


 上手く返したつもりがそれの上を行かれている気がして、あたしの返す言葉が徐々に削がれていく。

 このままでいくと、あたしは結婚の約束をさせられてしまうと内心焦りが見え始めていた。

 どうすべきか、どう返すべきか悩んで言葉を探しているとレディが声を掛けてくれた。


「ちょっといいかい?

 あたいが思うに、結婚やらお付き合いってのは互いの自分本位エゴだと思っている。

 この人が好きだから一緒に居たいってね。

 それをお互いが思っていて成立するのが結婚なのかなとさ。だから政略結婚とかは否定的ではあるんだがね。

 今の話だとアテナの想いがまるでないし、これだとただの自己中心的発言エゴイスティックさ。

 それは確かに時が経てば分からないが、分からないからこそ約束も出来ないんじゃないかな?

 ま、あたいは笑わせて貰ったから良いんだがね」


 場の空気が険悪な方へと進むかと思ったが、そんなことはなかった。


「はっはっはっはっ!

 レディ、君は本当に聡明だね。それは間違いではないと思うよ。だからこそ楽しくもあり苦しくもあるんだよ人生ってのは。

 ではこの話は聞かなかったことにしようか。

 予言者でもない私に君たちの未来を決めることは出来ないからな」


 ファルは終始にこやかに話し、それにあたしは安堵のため息をいたのだが、レディはさっきよりも真剣な眼差しになっていた。


「今何と言った? 未来を読む予言者がいるというのか?」

「おや? これは口が滑ったかな」

「本当にいるんだな?」

「ねぇレディ? 予言者って予言の書とかのあれ?」


 立っていたあたしは座り直し、レディに書物の身振りを見せていた。


「ああ、そうだよ。

 にわかに信じられなかったがね、各国に大概と存在している噂話の類いさ。

 しかし、今の口振りからするとその者が存在する、していたと聞こえたからね」

「さて、どうだかね。

 武器のことについてはライズと出会った縁でもあり教えることは出来るが、それについては答える義理も義務もないが。

 それに、居たとしても君たちには何の影響もないと思うが?」


 確かに居たとしても居るとしても、あたし達の未来には特に変化はないと思う。


「いやっ!

 ……違う、何でもない。

 そうだな、個人の未来など時の流れから見たら些細なことだろうからな」

「レディ、君はつるぎよりも向いていることがありそうだね。

 私はね、人間のすることは私の手を借りずに解決して欲しいと思い、関わることを避けているんだよ。

 魔の者や亜人がこの世界に関わるならば動くことも辞さないと思い世界を見渡している。

 だから魔人王を滅ぼすのならば手を差し伸べることはするが、予言者に関して言いたくはないのさ。

 しかし、君は予言の流れに呑み込まれた一部かも知れないと思っているのだね。だとしたら、半信半疑に終止符を打ってもさほど変わらないか。

 ……予言者は……この世界に今もいる」


 あたしは言葉の重みを理解することは出来なかったが、レディにとっては違ったのだろう。目をつむり一度軽く頷いていた。


「この話もこれ以上はする気はない。

 武器のことが聞きたいんだろう?」

「あたしはそうだけど……。

 レディは大丈夫?」

「あぁ、あたいのことはもういいよ。

 剣のことを聞こうか」

「では。

 かの魔人の襲来時よりも前に創られた武器の一つで、それは神秘力カムナまとわせた魔を打ち消す剣、煌神刃ディバイン・ブレイド

 その力を持ってして魔人王ドラキュリアを封じ、復活を案じた勇者が地中に隠しておいたのだが魔人襲来時にその剣を借り受けた者がいた。

 その者もまた、その剣により魔人王を滅ぼしたのだがその地を浄化するには至らなかった。そこでその者はその地にとどまり、剣を頼りに民を守る為に力を尽くした。

 アテナ。

 君の求める物は『渇いた地が果てしなく続き、聖なる王が還る先』にある」

「は?」


 何を言っているのかさっぱりだった。

 あたしはてっきり、この場所のあそこの誰々が持ってるよと教えてくれるものだと思っていたのだ。


「私が言えるのはここまでだよ。考え行動するのは君たちなのだから」

「いや、そんなこと言われても……。

 ミーニャ意味分かった?」

「き、急に私ですか? 全く分かりませんよ」

「だそうよ?」


 ………………。

 ………………。

 ………………。


 黙って待ってみたらちゃんと教えてくれるかと思ったが簡単にはいかなかった。


「私は人間を観察していて人の可能性に興味を抱いているのさ。

 それには考え行動することが大事であると思っていてね、小さな助力はすれども大きな手は差し伸べてはいけないと感じている。

 アテナ、答えは君が持っているのだよ。

 さぁ行きたまえ」

「んんん……。

 分かったわよ。これ以上は何を言っても教えてくれそうもないものね。

 ありがと。手掛かりがあっただけでも助かるわ」


 ファルが立ち上がったのを見て、話す気はないと察したあたしも立ち上がり両手を交わすと部屋を後にする。

 少ないながらもあった手掛かりに満足しつつもそれは満たされるものではなかったが、ライズに休んでいた部屋まで送ってもらうことにした。

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