なんでこうなった……

 ゆっくりと意識が戻ってきた。なにやらとても居心地の良いベッドに寝ているようだ。ウォーターベッドより少し固めだが心地よい柔らかさと温かさがあり、左右からも絶妙な柔らかさで包まれているような感じがする。しかも頭から背中にかけて一定のリズムでえもいわれぬ刺激があり、このままずっとここで寝ていたい衝動に駆られる。天国じゃないだろうな?

 目を開けて見るとベッドの端からはピンクの壁が見えるので、やはり駄メルの部屋だと確認をする。上を見るとそこには残念な胸越しに駄メルの顔が見えた。何かだらしなく顔をニヤケながら手を俺の頭から背中に動かしている。


 背中をさすられる気持ちにあらがえない……


 なんだこの気持ちよさは……


 ん?


 ふと手を上げる……


 そこに見えるはずの俺の手は……


 人間の手では無かった……


 おれの記憶ではその手はどう見てもネコの手……


 足の方を見てみるが、やっぱそこにはネコの足が……


 もしかして、俺は人間ではなく猫になってしまったのか?


 完全に意識を取り戻して起き上がる。駄メルの膝の上で立ち上がったようだが、顔の位置が駄メルの残念な胸のあたりだ。『おい! 駄メル! コラー 返事しろー』一生懸命話しかけるが、聞こえていないようだ。


 「ニャーニャー言っているけど、何言っているかわからないわね。話ができるようにしたら、文句を言われそうだし……このまましておいたがいいのかもしれないわね……」


 駄メルはそんな事を言いやがった!


 クソッ! 引っ掻いてやるか! 爪を立てて引っ掻こうとするが爪が出ない、ツルツルの手触りの生地のためか、振り回す腕が空すべりしてしまう。くそーどうするか……


「この服高いんだから引っ掻かないで! ちゃんと意思疎通できるようにしてあげるから引っ掻かないで!」


 駄メルは手を上げて少し長めの呪文を唱えると、俺の体は白い光で包まれた。やがて光がだんだん小さく縮小していき完全に消えた。


 「これで念話ができるようになったから話も出来るわよ、ネコが人間の言葉を話したら絶対に捕獲案件だから、念話だけで話が出来るようにしておくわね。でもどうしてもの時には魔法で声が出るようにしてあるから練習しておいてね。でもできるだけ使わない方がいいと思うよ!!同族のネコちゃんや異種だけどワンちゃんとは普通に意思疎通できるようにもしているから生活するのには困らないと思うよ!」


 『よし、これで話が出来るようになったのかにゃ?』

 自分では普通に話したつもりだが、何故か語尾が変わっていた。


 『なんで普通にしゃべれないにゃ? どうしたんだにゃ? 大体ネコは同族じゃないにゃ!俺は人間だにゃ』


 駄メルはニヤニヤしながら

 「やっぱりネコちゃんはこの喋りが可愛い!! その言葉使いは人間と話をする時だけでネコちゃんとかワンちゃっんとは普通の話し方で話が通じるようになってるから安心してね!! それからそのネコちゃんの体はトラちゃんが向こうの世界で苦労しそうだったらトリアムに送ろうとして作った特別な体になってていて、魔法特性も高く、向こうで覚えた魔法はすべて使えるし、魔力も無尽蔵のままだから日本で何でも出来るわよ!なにより子猫ちゃんだから誰からも好かれると思うの!! 可愛いは正義って言うんでしょ?」


 どこ情報だよ……


 「じゃ魔法はあんまり目立たないようにね!! それではトラちゃんの元の部屋へ送るわよ?」


 『ちょっと待つにゃあああああ』


 『なんでさっさと送ろうとしてるにゃ? まだまだ聞きたい事がたくさんあるにゃ』


 「もう時間ないから送るわよ!」


 くそー絶対逃げたいだけの理由だろ……

 また意識が遠のき始めた。意識があるうちに聞かないと……

 これだけは聞いておかなければ……


 『どのくらいで新しい体ができるにゃ? いつ人間に戻れるにゃ?』


 駄メルはチラッっとコミックとラノベの山を見ながら


 「作るのは結構大変だからもしかすると2~3年かかるかもね!」


 ああああああぁぁぁ

 こいつ読み終わるまで絶対に作る気ないな……


 こりゃ駄目だ……

俺は最後の力を振り絞って、アイテムボックスから、異世界で作った大きな姿見を駄メルの前に放り投げた。


 『このままの生活を続けると、ブタになるにゃあああ!今の姿を良く見てさっさと体を作るんだにゃああああ』


 駄メルは鏡で自分の全身を見て


 「ぎゃああああああぁぁ」


 最後は意識が飛んで聞こえなかったが、これでちゃんと作ってくれれば良いのだが……

 人間を駄目にするソファーシリーズが女神をも駄目にするとは恐ろしいな……

そう思いながら意識が完全に無くなった……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る