第98話 日常

街をふらついているポケットに入れていた携帯が鳴る。


「ボス、炎の異能力を持った人間がタワーから南で放火。理由は私怨のようです」


この街を監視しているソルトからの連絡。

数秒思考し返答する。


「アリッサを向かわせろ」


「了解しまし…………もう一軒事件が発生しました」


「見えてる、僕が行く」


「ではいってらっしゃいませ」


電話を切りポケットに入れると狐の面を付け、道の先に突如地中から現れたビルよりも高い巨大生物の討伐に向かった。


まずは知性の有無の確認だな。


何処からともなく取り出したナイフで巨大生物の両足を切断する。

被害が広がらないように倒れる巨大生物を既に被害の出ている範囲に向けて誘導するように殴り飛ばす。

大きな頭を持ち上げ瞳を覗き込む。


…………感情の揺れはあるが、知性はない。

種族名簿に記録の無い種族なのは確かだし、こいつはどちらかと言えば野生の動物に近いものか。


「残念だ」


ギルティは小さく呟くと、巨大生物の首を斬り落とした。


「殺したのか?」


「見ればわかるだろ?」


遅れて到着したアストライアにギルティは静かに答えた。


「この子は害獣扱いを受けるだろうし、捕まえておく檻もない。最終的には君だってこの子を殺したはずだ。僕の選択は間違ってないだろ?」


「その選択に間違いはない。あるとするなら、動くのが早すぎた。お前はまた、罪を犯したんだぞ」


「じゃあ、捕まえる?」


「…………ああ、当然だ」


拳を構え地面を蹴り距離を詰める殴り掛かってくるが、冷静に捌かれ首を掴まれ、足を掛けられ、地面に叩け付けられた。

仰向けの体勢から起き上がり殴り掛かるが上から殴られ再び地面に落ちる。

顔を上げた時にはもう、ギルティはいなくなっていた。


「悪いね。理由もなしに君と正面から戦う気は僕にはない」




アリッサは連絡を受け火事の現場に来ていた。

放火犯は既に補足し、先に火を消そうとしているところ。

本から取り出したるは一つの団扇。


「火を消すなら芭蕉扇、そう決まってるのよッ」


団扇を一度仰ぐだけで、風が炎を掻き消した。

そして団扇を本の中にしまうと、次は本の中からいくつかの輝く短剣を取り出す。


「追え、光の剣」


短剣を放ると放火犯を追って高速で飛んでいく。

まずは足を刺し貫き、倒れたところで手を貫き動きを封じた。


「ご苦労様」


短剣を一つ一つ本の中にしまうと、ハープを取り出し美しい音を奏で痛みに苦しむ男を眠らせた。


「…………犯人はどうしよう」


警察に届けるにしても、行けばアリッサも狙われる。

かといってこの治安の悪い街で地面に捨てたままというわけにもいかない。

その時バタバタと多くの足音が聞こえ、完全にアリッサは取り囲まれた。


「警察なの?だったらちょうどいいわ、この子頼んだわよ」


そう言うと本から一つ棒を取り出す。


「伸びろ如意棒‼」


地面に突き立てると如意棒は一気に伸び、アリッサは雲の上へと消えていった。

すぐに如意棒も縮み完全に後を追えなくなる。

様々な道具を本から取り出し戦うという情報はすぐに街に広まった。

躊躇う事無く自身の力を使う者達。

アストライアすら恐れない最も強き者が率いる、何者にも縛られず人を助ける最も自由な集団殺し屋ギルドとしてこの街で名を上げた。

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