第75話 武具
「いやはや、さすがに成長が早いですね」
「あんたほどじゃない。あんたは多分俺より才能があるし、俺よりもずっと強い」
「ええ、けれど私には最も重要な向上心が欠如しています。努力の出来ない私を追い抜くのは、貴方ならば容易いことでしょう」
明確な欠点を知りながら、それを克服する術を知りながら、実行することはできないと言う。
「それはちょっと腹が立つ」
薙刀を大きく回転させサティーに刃を向ける。
「お前は熱くなれないからこれ以上強くなれないってそう言うんだろ?なら、俺に対する熱量も、大したことはないのか?」
地面に山積みにされた武具の数々。
剣や槍といったよく見かけるものから、見たことも聞いたこともない武具までそこにはあった。
そしてそれだけの武具を用いて日夜戦い続ける。
技術は盗むもの。
基礎を覚えればあとは自然と辿れる。
「どうでしょう。ただ、貴方は強くします。必ず私よりも強くします」
「そう。じゃあ、始めようか」
ミカは薙刀を回転させ投げた。
ブーメランの如く飛ぶ薙刀をサティーは難無く防いだが、ミカが薙刀に追いつき、掴み、防いだはずの攻撃はその威力を増してに連撃となった。
地面に跡を作り押されるサティーだが薙刀を身体の横で縦に回転させ叩きつけた。
反応し避けるが、薙刀が叩き付けられた地面は砕かれ、回避に失敗した際の惨状を理解させる。
だがそれは恐れには繋がらない。
むしろミカの戦意は増していく。
手加減されないだけ強くなったのだという証明だから。
薙刀を一回転させ勢いを乗せて一撃目を放つ。
回転の流れに身をまかせ、勢いを殺さず二撃目を、三撃目を、加速していく薙刀を振り回し、上から下てへ、サティーは避けるが当たった地面が砕かれた、サティーの攻撃と同じように。
あんたと同じことが出来るとでも言いたげな攻撃を無視して、大振りな一撃の隙を突く。
横薙ぎの一撃を焦りながらも状態を逸らしギリギリで回避しながら倒れそうな体勢で地面を蹴り身体を回転させながらサティーの背後に回る。
空中で地面に突き刺した薙刀に力を込め身体を捻りサティーの方を向くと、地面から抜いた薙刀を振り下ろした。
「嘘、今の避けるか」
完全に不意を突いたつもりだった。
背後を取り死角からの一撃は、地面を砕くに留まる。
「冷めきっているのもだめですが、熱くなりすぎるのもそれはそれで駄目ですよ」
「そうですか‼」
手に持つ薙刀をさも投げ槍の如く投げると、数歩の踏み込みを以てさらにもう一押し、投げられた薙刀は加速した。
簡単に払えた薙刀も脅威に至るがそれでもサティーにとっては大きな問題ではない、さらなる追撃がなければ。
ミカの手に握られたるは鉈。
重心を前に、地面を力強く蹴り自分が投げた薙刀も無視して突き進む。
投げた薙刀含め前にある全てを圧し斬りながらの直進。
柄で受ければ叩き切られるのは自明の理であり、瞬時に手に持つ薙刀を引き刃で逸らす。
バランスの崩れたミカの背を柄で叩き地面に倒れさせるがミカは手に持っていた鉈で倒れながらも反撃を仕掛ける。
大した攻撃ではないが、一瞬の牽制には十分。
追撃のない一瞬があれば体勢が立て直せる。
それどころか、反撃に打って出ることも。
取り出した槍を振り向きざまに穿とうとしたその時、悲鳴が聞こえた。
突き出した槍をサティーの眼前で停止させる。
「今日は引き分けにしといてやる」
槍を引き握り直すと森の中を悲鳴の元へ駆けて行く。
「主よ、確かに人は神を討つことが可能かもしれません」
駆けるミカの背を見つめ言葉を溢す。
サティーは最後の一突きに対応することが出来なかった。
ミカはすぐに調子に乗る、すぐに油断する。
それさえなければ、全力で戦えばもうサティーの実力を超えている。
そんなことを考えていたサティーはふと思った。
もしかすれば、ミカはわざと油断しているのではないかと。
本来であれば格上にこそ油断してはならない。
実力が拮抗していたとしても相手の一挙手一投足にまで気を配らなければならない。
そのはずなのにサティー相手に調子に乗り、油断する。
わざと負けるようなその行動。
よぎった考えは、森の外、戦うミカの姿を見て確信に変わった。
人を襲っていたのは石造りのゴーレム。
ミカは槍を構え投擲する。
ゴーレムの胸に突き刺さった槍。
動きの止まらないゴーレムの胸目掛け、刺さった槍目掛け、飛び蹴りを放った。
刺さった槍はゴーレムの胸を砕き大きく穴を空けた。
「大丈夫?」
地面にへたり込む女性は立てそうにない。
そして背後のゴーレムが再び動き出そうとする。
その瞬間ゴーレムの頭は砕けた。
振り向きざまの一突き。
まだ動いてはいない。
見えていないミカが気付けるはずがなかった。
それでもミカは気付き、槍で一突きの内に破壊した。
やはりミカに、油断などなかったのだ。
「ミカ…………」
英雄ミカエリスの登場に見ていた人々は大いに喜んでいたが、ただ一人、自分の力不足を察し別れの切り出し方に頭を抱え始めた。
「はぁ、教団には碌なのがいないな」
日の光を反射しながら飛来するナイフを槍で叩き落す。
甲冑を身に纏い、抜き身の剣をミカに向ける。
「ゴーレム使って俺をおびき寄せたってところか?あんたらの仕業だってわかってたらわざわざ槍使わなかったってのに」
ローブの下から無数の鎖が出現し騎士風の男たちを襲う。
圧倒的な力の差。
三人の騎士風の男たちは鎖に応戦するもそもそもの鎖との数の差に、速度の差、圧倒的な手数差によって一瞬にして鎖に身体を縛られていく。
小さな鎖は鎧の内側に入り鎧を砕いた。
「あの日襲われた時俺は決めたんだ。あんたらは鎖で倒すってね」
襲って来るのなら勝手にどうぞ。
あんたらの狙うこの鎖で、見せつけるように倒してやる。
あんたらが悪であると知らしめるために。
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