60-2
「「「「「「「「「「せーの‼‼‼‼‼」」」」」」」」」」
カチャッ!!!!!
「「「「「えっっっっっ?????」」」」」」
――伸ばされた10本の腕に巻かれたリストバンドのうち『5つ』が、戸惑いの声と共に取り外される。
「今だ!」
「ああ!」
「おらぁっ!」
「さあ、『χ』!」
呆気に取られる女どもをよそに、愚鈍どもが自身の手首に巻かれたリストバンドごと、それらを宙に投げる――無論それは『我』と風神の分も例外ではない。
「任せておくがいい!」
右手を翳し、宙に舞う10個の塊に狙いを定める。
そして、数秒の後—―
「
我が『異能』の力により……『爆弾』は大きな爆音を上げ、木っ端微塵となった。
「……フッ、決まったな」
伸ばした右腕を翳したまま、顔を上げる――我らを襲おうとした『悪』……即ち『爆弾』は、たった今を以て我が異能の力により葬られた。やはり最後に決めるのは、この天光に導かれし王者というわけである。
そう……『世界』は偉大なる『我』の力により、救われたのだ。
「え……?」
「なんですの? 今のは……」
「爆、発……?」
「まさか、あのリストバンドが……?」
「……どういうことですか?」
上空を漂う爆煙を呆然とした様子で見つめながら、女どもが目を丸くする……突然目の前で爆発が起きたのだ。無理もないだろう。
「「「「ふぅ~~~~~」」」」
それを見届けると、愚鈍どもが4人揃って溜息を吐きながら座り込む、まったく情けない――と言いたいところだったが、斯くいう我も完全に疲労困憊であり、釣られるようにその場へ座り込んでしまった。
「……ごめんな、ユキ」
「……悪かったな、ルナ」
「……すまなかった、ハナ」
「……悪く思うな、風神」
「……わりぃな、サトル」
—―5人それぞれに謝罪の言葉を口にする。
「えと、それはいいんだけど……」
「なんなのですか、さっきの爆発は!」
「そうよ! どう見ても爆弾か何かだったじゃない!」
「……ちょっとアナタ達?」
「……どういうことか聞かせて貰いましょうか?」
すると女どもは、堰を切ったように説明を求めてきた――まあ流石に当然の反応だと言えよう。
「……そのつもりだよ」
「……もう隠す必要もないからな」
「ああ、本当に心臓に悪かった……」
「ふん……どいつもこいつも我の足を引っ張ってくれたものだ」
「……よく言うぜ」
5人続いて口を開いた後—―我らは『ことの次第』を説明し始めるのだった。
—―屋上から子供たちの騒ぐ声が聞こえる。
内容まではわからないが、こうして聞こえてくる以上、全員無事な筈である……どうやら『息子』達は上手くやったらしい。
「……残念だったな。爆弾は無事に処理されたようだぜ」
それを見届けると、『池場谷景』は安堵の溜息と共に眼前の男—―『耶馬敬』へと語りかけた。
「フン……敢えて誘導に乗ったふりをして、裏でしっかりと正解に辿り着いていたか……何が『信じる』だ。相変わらず息をするように嘘ばかり吐くのだな、お前は」
それに対し『敬』は、表情は崩さないながらも、不愉快さを隠しきれない様子で皮肉を吐く。
「いいや、『信じた通り』さ」
「なんだと?」
「信じていたさ……お前がどれほどに性根の腐った野郎かってことは、他の誰よりもよくわかっているからな」
そして『景』もまた、それに対して皮肉たっぷりに言い返す。そう、『そこ』から考えれば――これ以外の『結論』はなかった。
「ククク……なるほど。物は言いようだな」
「ああ。お前の言う通り、さっきの回答はわかりやすく記されたミスリードに敢えて乗っただけのもの……『正解』はもっと単純だったんだよ」
先ほどの言葉の真意を理解したのか、不敵に笑う『敬』へと向けて『景』は再び口を開き――『真相』を語り始めるのだった。
「天国を一番近くに感じる場所……『近い場所』じゃないのがミソだな。天国を感じるのは誰かっていったら、そりゃあ『あいつら』だ。で、その『場所』がどこかっていったら、別に特定の地名を示すわけじゃあない。だってあいつらが天国を感じるとしたら、それは……『惚れた女の隣』しかねぇだろう?」
—―まずは第一のヒント。
「で、当然『場所』が変われば後のヒントの意味も違ってくる。『其の両輪』っていうのは時計の針じゃなく、あいつらが手首に巻いたリストバンドのことだ。それが重なりし時……つまりゲームクリアの瞬間に、わざわざ『時の停まり』を願う――
そんなことを望む理由は、『その時』に爆弾が爆発する以外にないってことさ……違うか?」
—―そして第二、第三のヒントについての『本当の意味』を答える。
「……」
「『実の息子』が『愛する女』の元に辿り着いたその瞬間に、諸共始末する……か。しかも女たちは揃って俺の『娘』で、なおかつその眼の前でっていうおまけつきだ」
反応のないその男を睨めつけ、精一杯の『怒り』を込めながら告げる……自分にそう名乗る『資格』があるかなど、今はどうでもいい。
「……どんな腐った性根してたらそんなシナリオを書けるんだ? この三文小説家さんよぉ?」
『池場谷景』にとっては、目の前の人物がそう名乗ることは絶対に許すことができない――ただそれだけの話だ。
「どの面下げてテメェは……『
最愛の女性と、『
「クククク……」
「?」
――だが『景』の怒号に対し、『敬』は応えない。
「ハハハ……『実の息子』だと? まさか『あいつ等』のことを言っているのか? あんな、『出来損ないども』のことを?」
「……なんだと?」
それどころか、笑いを堪えるので精一杯といった様子であり……その言葉を疑問に感じ、『景』は思わず聞き返す。
「笑わせるな……あんな連中、私は一度たりとも『息子』と思ったことはない。私が望むのは、そこに眠る『我が息子』だけだ!」
「何を言ってやが……」
しかし一方の『敬』は、それに対して一切取り合うことなく何かを喚くばかりであり――
「フン、まあいいさ……まだ『機会』は幾らでもある。精々あの無能な『息子』共と仲良くやるんだな!」
「おい、待て!!」
その意図が理解できずに呼び止める『景』を置き去りにしたまま……
「消え……た?」
『敬』は、『景』の前から姿を消したのだった。
—―同時刻、時計台屋上。
「爆破、予告……」
「各イベントでの優勝によってヒントが貰えた、ですか……ようやく合点がいきましたわね」
「うん……変だと思ってたのよ」
「ええ。だからみんなしてあんなに勝ちたがっていた、と」
「……そういう理由だったんですね」
爆弾に関する経緯を話すと、女性陣は色々と腑に落ちた様子で頷いている。なんだかんだで俺たちの様子がおかしいことには皆気が付いていたようであり……よく見てくれているんだな、と空気を読まず嬉しくなってしまった。
「でも、何とか無事に処理できたな……」
「まったくだぜ」
「ああ、一時はどうなることかと思ったが……」
「結局最後に決めたのは『我』だがな」
「あーすげーすげー」
5人揃って、プレッシャーから解放された安堵を口にする……予告状が届いて以来、本当に苦難の連続だった。だが何はともあれ、こうして誰にも被害を出すことなく解決することができたわけであり――本当によかったとしか言いようがない。
ズドーン!
そうしてゆっくりと過ごす中—―大きな音と共に、花火による閃光が俺たちの眼前に姿を現し始めた。
長かった学園祭も、これにて終了だ。本当にまあ、色々と大変だったが……終わってみれば、全ていい思い出である。
「綺麗だな……」
「うん……」
「……なんか開始遅れたか?」
「確かに予定より少し遅いですわね」
「……多分さっきの爆発のせいだろう」
「ああ、そういうこと?」
「まあ打ち上げているのだから、大した問題ではないのだろう!」
「……そうね」
「ひゅ~、いいじゃねえか」
「ええ、とてもいい眺めです」
—―そうして穏やかな時が流れる中、空を見上げる。
空に輝く『祝福の光』……その下で『俺たち』は、大切な人と手を重ねながら、『天国を一番近く』に感じている。
そしてこの瞬間、『俺たち』は—―
紛れもなく、『時の停まり』を望んでいた。
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