壊💔理性ラヴァーズ!
御手洗あんこう
第1章 池場谷カイと五つの約束
第1回 『池場谷カイ』
1-1
——かって『約束』を交わした。
「ねえ、カイちゃん!」
「なに? どうしたの?」
「『ヤクソク』、しよう?」
「ヤクソク?」
「うん……ゼッタイに『サイカイ』するって!」
「サイカイ?」
「また会うってこと!」
「うん、わかった! ヤクソクしよう。ゼッタイにサイカイして、そしたら——」
「「ケッコンしようね!」」
……幼い頃の、他愛ない誓い。
そんなものは時が過ぎれば忘れられ、消え去ってしまうものがほとんどだろう。
だが、それでも信じていたいと思う。
あの日交わした『約束』に込められた想いは——紛れもなく、『真実』であったと。
だってあの時、自分は知ったのだ。
それを人は——『恋』と呼ぶのだと。
「ん……夢、か?」
いつかどこかで過ごした——そんな懐かしい日々の夢から覚めた瞬間だった。
「ほら兄さん! 起きてください!」
「どぉぉあぁぁぁぁ!」
ベッドに包まっていた俺は、突如としてシーツを引き剥がされ、無理やり眩いばかりの陽射しを見せ付けられた。
「目は覚めましたか? 兄さん」
「……おはよう、サトル」
強制的に起床させられた俺を、『弟』のサトルがジト目で見つめる。
すごく可愛らしい見た目なのでよく女の子と間違えられるが、紛れもなく俺の弟である。
「はい、おはようございます兄さん。それじゃあ早く着替えて朝ごはん食べてください! そしたらすぐに学校! ……まったく、今日はハナさんが来ないからってさっそく寝坊ですか。いくら終業式で授業がないからって学校はあるんだから、ちゃんとして下さい!」
「ふぁ~い」
まったく、こないだ中学の卒業式を終えて一足先に春休みだって言うのにホント俺と違ってしっかり者だよなぁ……
サトルに急かされた俺は、そんなことを考えながら身支度を整えると食卓へと向かった。
「行ってきまーす!」
ソッコーで朝ごはんを食べると、俺は急ぎ学校へ向かった。
——俺の名前は『
……えっ? そんなテンプレ自己紹介はどうでもいい? 何か特殊能力とかないのかって? ねえよそんなもん! どこにでもいる普通の高校生って言っただろ!
えっ? 面白くない……? 知るかよんなこと! ていうかさっきから俺に話しかけてるの誰だよ!? いきなり人のこと面白くないとか失礼にも程があんだろ!
ともかく! あんたにはどうでもよくても、俺の方は今日という日を並々ならぬ決意を持って迎えているんだ! いいから放っておいてくれ!
「やべぇ、ギリギリじゃねえか。急がなきゃ……」
よくわからない天の声のようなものとの会話を終えた俺は、気を取り直して学校へと向かう。今日は終業式で明日から春休みを迎えるわけだが、そんな日に盛大に寝坊をかました俺は、遅刻を免れるために速足で歩を進めているところである。
——そんな時だった。
「ちょっと、そこのアナタ」
「はい?」
急いでいるところだっていうのに、何やら怪しげな女性が俺を呼び止めてきた。
……なんか黒魔術でも使いそうな人だった。全身を覆うようなローブを被っている上に、口元も隠している。ともかく非常に怪しい。
「もしかして俺のこと呼びました?」
「そう、アナタです」
「すみませんけどちょっと急いでるんで、勧誘なら他を当たってくれませんか?」
「……失礼な人ですね。そんなに私が怪しく見えますか?」
「鏡見てから言ってもらえません?」
「……」
不審がる俺の態度に女性は不機嫌そうな様子を見せるが、俺から言わせれば只でさえ遅刻しそうなこの状況で不審者に構っていられるかという心境である。
「もういいですか? 勧誘ならもう少し人通りの多いとこでやったほうがいいですよ」
「待ちなさい!」
「だからいい加減に……」
去ろうとする俺を、女性が尚も引き留める……正直鬱陶しい。
「今日という日は、アナタにとってとても重要な……『運命の分かれ道』となります」
「いや、何言って……」
「今はわからなくてもいいです。ただ、それだけは覚えておくように」
「はあ、どうも……」
なにやら意味深なことを告げると、女性はその場を去っていった。
「……一体何だったんだ?」
って、それどころじゃない! このままじゃ遅刻しちまう!
「うおおお、間に合えぇぇぇ!」
そう叫びながら俺は、学校までの道を全力で走り出した。
——そうやって走り去る少年の姿を陰から見つめる、一人の少女がいた。
「フフフ……見つけましたよ。とうとうお会いできるのですね。カイ様」
そう呟きながら、少女は自らの髪に飾られた髪飾りを愛おし気に撫でていた。
キーンコーンカーンコーン。
「よっしゃ、セーフ!」
「セーフ、じゃない! 遅いわよ、池場谷くん」
朝礼の始まりを告げる音とほぼ同時に教室に駆け込んだ俺を、女性の声が呼び止める。
「はは、ごめんサヤ姉……じゃなかった、松原先生」
「全くもう……いいから早く座りなさい。朝礼始めるわよ」
「はぁーい」
うちのクラスの担任である松原先生に注意を受け、俺は頭を下げる。
松原先生こと『サヤ姉』は、俺が小さい頃近所に住んでいて、何かと面倒を見てくれたお姉さんだ。大学に行くからとこの町を出て行って久しかったが、去年の春からこの高校に赴任してきて今に至る。
「起立! 気を付け! 礼!」
「おはよーございまーす」
「着席!」
「ふう、なんとか間に合った……」
「今日も慌しいね。池場谷くん」
「あっ……」
号令を終えて一息つくと、ふと隣の席から声を掛けられ、俺はそちらを見る。
「お、おはよう。天橋」
「うん、おはよう」
今話しかけてきた子は、『
成績は学年トップ。スポーツをすれば陸上部の短距離エース。さらに学内一の呼び声も高いその美貌——まさに文武両道にして容姿端麗を地で行く優等生であり、そういったあらゆる賛辞を周囲から向けられる、学園のアイドルと呼べる存在だ。そんな彼女に憧れる奴は山ほどおり、俺もまたその中の一人というわけである。
「あ、あのさ。天橋……」
「ん?」
天橋が首を傾げる。かわいい……じゃなくって!
「今日の放課後って時間貰えな……」
「こらそこ! お喋りしてないでちゃんと話聞きなさい!」
「す、すみません!」
遅刻ギリギリの上に朝礼中にコソコソ話をしていたことを咎められ、バツの悪くなった俺は思わず大声で先生に謝罪する。
「ふふ、怒られちゃったね。ごめん、話はまた後でね」
「あ、うん。そうだな」
こうして思わず訪れた俺の幸福な時間は、突如として終わりを告げた。
うおー! そうだなじゃねーだろ! 折角朝イチから天橋と話せたっていうのにもっと気の利いた返事ができねーのか俺は!
「朝っぱらから表情豊かだな。戒」
朝礼が終わると、一人で百面相をしていた俺に声を掛けてくる存在があった。
「なんだ、
話しかけてきたのは、俺の中学時代からの友人である『
「ハハ。そんな不機嫌そうにすんなって。それより、今日勝負かけるんだろ? ……さっきみたいなのでホントに上手くいくのか?」
「うっせえ、ほっとけよ……」
先ほども言ったように、今日という日を俺は並々ならぬ決意で臨んでいる。
なにせ今日俺は、一年間ずっと憧れていた天橋雪に告白をするつもりなのだから。
それを思うとなかなか寝付くことができず、今日は寝坊してしまったというわけだ。実際こうしている今も、緊張してなにも手がつかないのである。
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