第6話 想いの行き先は……
学校で少し、噂が立ち始めているのを実は聞いていた。
リーダム先輩は、同じ学校に通う幼馴染と恋仲だと。
正直なところ信じてはいなかった。
学校にいるときに、二人で過ごしているところを見たことはないし、先輩方の話を聞いても二人がそのような関係とは思えないほど会話することもないらしいと聞いて、安心していた。
しかし、先日カフェにいるときに見てしまった。
まるでスキャンダルに怯えるように顔を伏せながらも、二人が仲睦まじそうに手をつないでいるところを。
直視したくなくて、咄嗟に先生を置いて席を立ってしまった。
休日が終わって今日は学校。
先日までの気力はなく、確かめたいようで知りたくないようなそんな気持ちがせめぎあっている。
次の講義の準備を教師から依頼され、旧校舎から裏庭へと続く人気のない道を一人でとぼとぼ歩きながら思考が巡る。
「この間も話してたけど、エナの日の贈り物を断るって、本当なの?」
ふと、その声は聞きたくもないのに、突然耳に飛び込んできた。
反射的に建物の壁側に身体を寄せ、声のしてきた方に視線を向けると、そこには他の同学年の画学生よりも背が高く、軍人家系で肩幅が広いリーダム先輩と、カフェでも見かけたストレートな黒い髪がシャープな印象を与える幼馴染の先輩が向かい合いながら、真剣な表情で話していた。
「本当だよ、レティ。実家で義理を通すために黙ってきたけど、面子のためだけに卒業まで恋人関係を黙っていろ、なんて本末転倒もいいところだ。本来、想いを伝えあって、結ばれるための行事なのに」
「まっすぐな気持ちはわかるけれど、それで白い目で見られたりとか、どうするの?」
「どうもこうもしないよ。そんなことでしか人を評価できない奴とはお近づきになりたくないから、むしろいい指標になる」
「もう……」
心配するレティ先輩に対して、リーダム先輩はからっと爽やかに笑ってみせた。
「ただ、あなたのことを慕って準備してくれてた女の子のことはどうするの?」
「心配ないよ。こんな変わり者な奴なんて好きになる奴なんて君ぐらいなものさ」
自分のことをわかってくれるのは、間違いなく目の前の君だけだ。そう言わんばかりなリーダム先輩の言葉に、ちくり、と私の胸が痛む。
「はあ、女の子が目に留めないような男なら、実家もあえて黙ってろ、なんて言わないわよ。まったくあなたの言葉をキーリスが聞いたら怒りそうだわ。……うん、最近のこともあるし怒るわね、確実に」
レティ先輩がため息をつきながら嘆くが、リーダム先輩は相変わらず合点がいかないのか首をかしげる。
「ともかく、もう決めたよ、レティ。心に決めてる人がいるって僕は言うから」
固い決意をもった言葉。
(本気なんだ……)
それだけレティ先輩のことを想っているのだと理解して、私は気づかれないよう、そっとその場を後にした。
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