第16話 vs黒田

銃声が轟いた。


黒田:

「よせッ! 何をする!!」


叫び半狂乱になりながら、散弾によってヒビが入った培養液カプセルを庇う。

的確な意志を持ってクイーン・ノーミンを狙い撃ったのは、ショットガンを持った

宮部だ。


「……何故だ、何故!! 何故お前はあの苦しみに戻るのだ! 何故心を満たす山を

登らぬのだ!! それこそが完全な喜びの始まりであり、その理でもあると言うのに!!!」


宮部:

「………私からすれば今のおじさんは、私を虐めていたクラスメイト達と

大差ないんですよ。あなたこそ人の人権を無視し虐める様な愚か者です。

もうこれ以上罪も無い人達を巻き込まないでください。……世の中の為に、

何よりもあなたの為に、楽になってください……」


黒田に銃口を向ける宮部の目は決意した想いと、悲しみの想いを交錯していた。


落合:

「宮部さん……」


山田:

「止めは俺が……。これ以上貴女に、悲しみを背負わせません」


宮部:

「……太郎、さん………」


宮部にショットガンを下ろさせ、拳銃を黒田に向ける。

黒田は尚も三人を見下し続けるが、その眼差しには怒りが込められているように

見受けられた。引き金を引こうとした瞬間、何かがぶつかる音がした。


黒田の真後ろからだ。培養液カプセルのガラスにヒビが入り、それに動転した

のであろうクイーン・ノーミンが、ガラスに頭突きを何度も当てる。

その度にヒビが大きくなっていく。黒田が慌ててクイーン・ノーミンに向き直る。


黒田:

「ああ、我が子よ落ち着いてくれ。すぐにコイツらを排除するから、大人しくしててくれ。これ以上は頭が傷付いてしまう!」


さらに身を乗り出したその直後、クイーン・ノーミンがガラスを割り

黒田の首に絡み付いた。


「ぐわあああーーー!」


血しぶきを撒き散らし断末魔を上げながら、黒田は機材の後ろへ倒れる。

機材の隙間から大量の血が流れ広がる。


山田:

「………因果応報、自業自得とは皮肉だな………」


宮部:

「これが、あなたの終わり方なんですか?……叔父さん………」


落合:

「まぁ、何ともあっけない終わりですけど、終わりよければ全て良し!

ここから脱出しましょか?」


落合に賛同して歩みを進めようとしたその時、機材の影から何かが飛んで、三人の

目の前に着地した。


黒田?:

「まだ、終わっていないぞ……」


落合:

「な、何だ?!」


宮部:

「叔父さん………」


山田:

「ウソだろ、おい……」


そこにはボロボロになった白衣を着た黒田がいた。

首にはクイーン・ノーミンであろう大きな、コブが出来ていた。そのコブを軸にして顔の右半分に、赤黒い血管の様なものが浮き出ていた。

そして右目は大きく丸くなり、赤く光るように。右手には大きな鉤爪、右足はノミの足、口にはノミの注射器の様なものが出来始めていた。


灰色の肌になった黒田が、憎しみの目を向け哮った。


ノーミン黒田:

「終わらぬ終焉を見せてやろう」


喉が大きく膨らんだかと思えば、口から白濁した何かを勢いよく吐き出した。

山田達は咄嗟に避け、吐き出された何かは壁に叩き付けられた。

山田は肩越しに壁に叩き付けられた、何かを見てギョッとする。

それは無数のベビー・ノーミンで蠢いていた。


落合:

「気色悪い化け物め! 大人しくしてりゃ今すぐに、あの世にいる奥さんの所に

送ってやるよ!」


ノーミン黒田:

「ガハハハハハハ! 我妻が死んだと言うのか? 死んではおらん、蘇るさ。

何度でも蘇るさ!! その為の寄生虫なのだぁぁあああーー!!」


黒田は跳躍する。

ノミの寄生虫だけあってそのジャンプ力は、人間の能力の限界を超えていた。

黒田が山田の真上に落ちて来る。山田は前へと身を投げた。

その瞬間黒田が彼がいた場所に鉤爪を下ろした。


激しい動きをして左肩に痛みが走った。

だが気にしては埒があかない、傷みを無視し山田は黒田に向き直り、銃口を向ける。

しかしそれよりも早く黒田は、床に刺さった鉤爪を掬い上げ、床の破片を山田に

投げた。瓦礫に当たり後方へ倒れる。


追撃しようとした黒田に落合がショットガンを連射した。

背中を撃たれていた黒田は降り返り際に、近くにあった機材を振り投げた。

落合はそれに当たり、壁に叩き付けられる。


もう一つ機材を投げようと、手に触れた瞬間、後頭部に数発の銃弾が貫いた。

振り返り撃った宮部に、寄生虫入りの弾を吐き出す。

それに当たった宮部はベビー・ノーミンに塗れて床に倒れる。


宮部:

「きゃああ!!」


ノーミン黒田:

「貴様には失望した、そのまま果てるが良い下女が!」


山田:

「その言葉を訂正しろ、老害が!」


拳銃で黒田の側頭部に連射する。さらに引き金を引こうとした瞬間、鉤爪を振り回し銃を弾いた。そして鉤爪を大きく振り上げ、真横に振り下ろした。

が、空間を切り裂いただけで山田には当たらず。

山田は後退しながらショットガンに持ち替え、胴体を撃ち続けた。


ノーミン黒田:

「おのれぇ、ちょこまかと鬱陶しい。……下等生物が!!」


再び喉を膨らませ寄生虫の弾を吐き出そうとしたが、落合が黒田に

スリーパーホールドを決めた。しかし数秒で黒田の肘打を食らい、

スリーパーホールドから解放してしまう。山田に向き直った黒田が鉤爪を、下から

掬い上げて山田の持っていたショットガンを、バラバラに破壊した。


すかさず山田が黒田の顔面に、右ストレートを入れた後左フックを食らわせた。

だが効く筈も無く山田は黒田の裏拳によって、地に伏してしまう。


倒れた山田の胸を踏みつけながら言った。


「何か言い残す事はあるか?」


山田:

「……あんたへの恨み節しか無いな」


鉤爪を振り下ろそうとしたその瞬間、プチッと奇妙な音がした。


黒田が肩越しに振り向いた。落合が何かを踏んで、したり顔をしている。

良く確認すると、先ほど黒田が吐き出したベビー・ノーミンの一匹だ。


落合:

「おっとすまない、これあんたの次男坊か? じゃあこっちが長女かな?」


そう言って次々とベビー・ノーミンをプチッ、プチッ、と踏みつぶしていく。


「次女に三女に三男かな? しっかし大家族だな~、誰が誰だか分かりゃしねぇ。

それぞれ名前がついてんのか?教えてくれよお義父さん」


怒りの形相で落合を睨み、傍まで近づき目の前に立つ。

鉤爪を大きく振り上げ落合を引き裂こうとした。

振り下ろそうとしたその瞬間、黒田の首に刃が貫いた。


背後から山田が首に寄生した、クイーン・ノーミン目掛けて刀を突き刺したのだ。

クイーン・ノーミンだったコブから大量に血潮が舞い、黒田が悶え苦しんだ。

苦しみながら勢いよく振り返り、山田を引き裂こうとした。


しかし目の前に銃口が見えた。


宮部:

「さよなら、叔父さん」


宮部は引き金を絞った。


ノーミン黒田:

「ぐぉぉぉおおおおーーー!!!」


右目を撃抜かれ空間が揺れる程の断末魔を上げた後、黒田は仰向けに倒れる。

宮部は倒れた叔父を数秒凝視した後、目を逸らした。

山田が宮部の方に手を置き、宮部は山田を無言で悲しそうな表情で見つめた。

すると警報音が鳴り響き、室内が赤く点滅する。


アナウンス:「汚染レベルが限界に達しました。これより10分後に爆破します。

所員は速やかに避難してください。繰り返します___」

山田:

「………本当に潮時のようです、ここから出ましょう」


落合:

「そうですね、もう邪魔して来る奴はいないでしょうし、もうここに用は

ありません。行きますか」


宮部:

「はい……」


培養液カプセルの裏にあった、屋上用と書かれた扉を開け三人は階段を

駆け上がった。

黒田の指が僅かに動いたと気付かずに。





・KSコーポレーション屋上(ヘリポート)


17:50


長い階段を駆け上がり、屋上へ繋がる階段室の扉を勢いよく開け放つ。

案の定雨ざらしになった三人は、即座にびしょ濡れになる。

濡れるのを気にせず目を見開いて、当たりを見渡し注意深く見ても、屋上には

何もない。


落合:

「………クソ! ヘリが無いってどういうことだ!

どうやって脱出すればいいんだ!!」


宮部:

「まさかヘリがあると思ってここまで来たんですか?!」


落合:

「大企業の屋上なんですから、ヘリくらいあるってそう思うでしょう!」


宮部:

「緊急事態の時にヘリを使って、逃げたに決まってるでしょ!

無計画すぎるんですよあなたは!!」


落合:

「じゃああなたはどうやって、ここから脱出するつもりだったんですか?!

まさかわざわざ戻ってエレベーター乗って、一階のロビーから出ようとでも

思ってたんじゃないんですか?あなたの方が無計画ですよ!!」


宮部:

「あなたより単純な思考じゃありません!!」


落合:

「あー!言ったな!言っちゃいけない事言ったな! あなたはね黒田さんと

同じように、時々偉そうなんですよ!でも一階に戻って出られると考えてる所を

見ると、黒田さんよりかは馬鹿みたいですけどね!!」


宮部:

「叔父さんと私を同一視してるあなたの方が、馬鹿ですよ!!」


2人の不毛な喧嘩を止めさせようと、山田が声を掛けようとしたその時、

激しい爆発音が聞こえた。振り返ると遠くの方で大きな火柱が見える。


山田:

「………(あそこは確か、発電所があった場所だ。 あんな燃え方見た事無い、

何か爆発物でもあったのか?)」


一瞬心の中でそう考えたが、対象の興味を引っ込めて、今するべき事を優先した。

バカバカと言い合っている2人をなだめる為に、山田は近づいた。

すると上空から強烈な光に照らされ、轟音が轟いた。

薄目で上空を見ると、黒塗りのヘリがホバリングをしていた。


持っていた無線から声が聞こえて来た。


無線

:『……ザザザ……。 こちら三木だ、通信出来るなら応答願う』


山田:

「大佐! 無事だったんですね!」


無線(三木):

『それはこちらの台詞だ。無線から君の声が聞こえてまだ生きていると、

確信して戻って来た。無事で何よりだ。……ところで黒田博士は会ったか?』


宮部:

「……叔父さんは、もう………」


無線(三木):

『……そうか、残念だ。 取りあえず今からヘリを下ろす、

少し離れてもらえると………』


その直後だった。階段室を破壊しながら、ヘリポートのど真ん中に跳躍して来た。

撃たれた右目は赤い丸い目が再生し、周りに小さい目が出現していた。

肌は赤黒くより筋肉質になり、筋肉の繊維が所々剥き出しに。

人間の名残だった左手は収縮して、鋭い槍の様なものが生えた、さらに変異した黒田がそこにいた。


ノーミン黒田:「……グォォオオオ!!」


無線(三木):

『な、何だ!この化け物は!!』


山田:

「……黒田です!」


無線(三木):

『何?! コレが黒田博士なのか? 何て恐ろしい………。 ここからの援護は無理だ、着陸も出来ない。済まないが君達だけで何とかしてくれ 』


落合:

「おいおい、こちとらただの一般市民だぞ? 無茶ぶりも良い所だぜ」


宮部:

「でもやらないと、やられるのは私達です」


落合:

「そ、それは分かってますけど……」


宮部:

「ここまで乗り越えて来た三人なんです、脱出する為にケリをつけましょう!」


山田:

「ええ終わらせましょう。 これが俺達の最後の戦いです!」

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