第77話 黒スーツマフィアはお好きですか?

 

「花の都の劇場、風の都のダンジョン、そのどちらもスムーズに至宝に辿り着けないように邪魔されていました。今回の海底都市も、貴女が助けてくれていなかったら、俺たちも歴代の戦士や巫女も無事ではなかったはずです。」


 ジークがその優秀な頭脳を使った推理を披露しているが、ミコトの心中はそれどころではない。


「俺たちは50年前から、突如として現れた渦に巻き込まれ、連れてこられた海底都市に、至宝があると踏んでいましたが……実は海底都市に誘うための魔導具ではなく、貢ぎ物を捧げる小島へ人を寄せ付けないための魔導具だとしたら、辻褄が合います。小島に辿り着いて、至宝を見つけられる前に可能性は排除する……ある一定範囲内に船が接近すると渦を起こして、沈没させる魔導具という感じでしょうか。今回の至宝のありかはそこですね。」


 オカマに責められながら真剣な顔で話す正統派イケメン……核心に迫る大事な場面なのに、何故2人はこうも艶やかな雰囲気を醸し出しているのだろう。小学生名探偵も名探偵のじっちゃんがいる高校生も、こんなに色っぽい推理シーンはしていない。思わず口元がニヤケてしまいそうで、慌てて手で覆いかくす。


「あら、あれだけのヒントでここまでたどり着くなんてすごいじゃない。聡い坊やは嫌いじゃないわ♪ 」


 顎に添えた手はそのままに、片方の手でジークの頭を愛しそうに撫でるマッチョ。気のせいか通常よりも低められた声……これまでの人生で培った妄想力を活かして、オカマとジークをミコト一押しシチュの黒スーツに脳内補完する。


(敵対するマフィアの抗争……歴史あるマフィア・ファミリーの次期ボスと、勢いにノってる新興マフィアの切れ者幹部!! )


 中々に美味しい設定じゃないか!? 今すぐロザリーたちに伝えて上演してもらいたい。少しでも情報を得るために目の前の光景を目に焼き付ける。


「案内してくれませんか? 俺たちには至宝が必要なんです。」


 アクアローラの手を跳ねのけもせず、淡々と受け入れながらジークが話を続ける。敬語な感じと責められているのに余裕そうな感じがポイントです。その顔が歪むところがぜひ見たいです。


「それだけでいいの? もっと欲しいものがあるでしょう。いい子の皮を剥いで……素直になりなさいよ♪ 」


(ぬおぉぉぉぉぉっ! )


 高得点です、花丸です、女神様っ!! ママよりも強烈なタイプのオカマに始めは怯んでいたが、こんなに美味しいものを見せてくれるとはありがとうございますぅっ! ジークの整った眉が少し寄せられ……本音を見破られたことによる動揺と焦りの表情に今後の展開を期待してしまう。ジークは攻めだと思っていたけど、受けも全然ありじゃないか!!


「なぜ、聖女の儀式や至宝についての情報がこんなにも伝わっていないんですか。至宝を破壊したり国外に持ち出すのではなく、なぜ魔導具に……シビス・マクラーレンは一体何を考えているんだ! 」


 吐き出された若きマフィアの本音……幼い頃から大人たちに囲まれ、人を顎で使うことを覚え、血なまぐさい抗争の日々から誰にも心を許さなくなった青年の心の声。


「俺たちはなんで……疑問を抱くことさえ出来ない……」


 振り絞ったような弱々しい声。いつも笑顔でのらりくらりと躱していた青年の本音を、青髪の美丈夫が暴きだす。腕の中のターゲットのその姿がお気に召したのか、男は満足そうに微笑んだ。


「残念だけど、そのすべてに答えることは出来ないわ。干渉しすぎることはルール違反になってしまう。でもママが……創世主エルカラーレが伝え忘れたことを教えることならできる。聖女の力の使い方を。」


 青年の目が零れんばかりに大きく見開かれる。


「本当か――っ!? よかったなミコト!! 」


「はい! 何でしょうか、十代目っ!! 」


 その場の空気が一瞬にして固まった。


(やっべぇぇぇぇっ! 集中してなかったことがバレた!! )


「アハ、アハハハハ…………」


 ポカンとした顔で見てくるジークやニッキー、ユキちゃんにアル。ただ一人、アクアローラだけが愉快そうに口元をニヤつかせていた。


(図ったな……胸毛人魚っ!! )

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