第16話 由緒正しい劇場へ足を運んでみました



「その話、ぜひ詳しく!!」


 彼女はノーラ、クリスティア姫様とディアナが話していたロザリー歌劇団の脚本家らしい。次作のネタを求めて街を徘徊していたところ、子どもたちの歌声が聞こえてきてフラフラ近づいてみると…


彼女も異世界のお伽話に魅了された1人になった。


「お願いします!その物語うちの劇団で上演させてください!!あぁ…まずはロザリーに話してから…行きましょう!さぁさぁ!!」


 おとなしそうな見かけをしているノーラは案外押しが強い。

 勢いのままミコトはロザリー歌劇団劇場“テアトリージョ”まで連れてこられ、団長ロザリーと面会することになった。


♢♢♢


 テアトリージョは歴史的建造物の1つでもあるそうだ。しかしあまりにも古く老朽化が進んでいたため使われていなかったところをロザリーが目をつけ、工事を行い、今では花の都の代名詞としてまで名を馳せたそうである。大きな石柱が何本もそびえ立つように全体を取り囲んでいる四角い建物、中に入ると赤い絨毯が敷かれたロビー。周りの石壁は数々の花々が彫られており見ていて飽きない。劇場は扇型で声や音楽が反響して躍動感のあふれる舞台に、また席によって違う角度で楽しめるため何度見ても新たな発見が楽しめるような作りになっていた。


(なんでだろう…すごくドキドキ?する不思議な感じ…)


 もともとミコトは神社仏閣や遺跡が好きだ。

 何を思ってその時代の人が作ったか、思いを馳せながら歩くのは、肌がビリビリするような妙な緊張感があって高揚してくる。その劇場の醸し出す雰囲気にただただ圧倒されていた。



 応接間のソファーに腰掛け、団長ロザリーと面会する。


「ロザリー団長聞いて!すごいんですよ!孤児院で子どもたちが目をキラキラさせてこの少年の話を聞いていたんです。1つじゃありません!いくつもあるんです!どの話も今までに聞いたことがなく斬新で!それでも教訓もしっかり入っていてどこか考えさせられるような…きっと舞台化するとロングセラー間違いなし!次世代の新しい舞台を、そしてこれから先もずっと愛される舞台を作ることができますよ!!次の舞台はこの子の話をぜひ!!うずうずしてたまりません!どう話を展開していくか次から次にアイデアが止まらないんです!!!」


「落ち着いてノーラ、この坊やがたかが子どもに向けて話していた話だろう。とてもじゃないけど信じられないよ。」


「たかが子どもされど子どもです!!!子どもたちの感性は鋭いんですよ!それに孤児院中の多くの子どもたちが夢中になって!1人や2人じゃないです!20名以上の子供たちがですよ!!!大人だって誰しも童心を持っている、子どもにウケるならアレンジ次第で大人にもきっと!これは絶対売れる!!!」


「へぇ〜、信じられないけど…どんな話なんだい、坊や。」


 ロザリーは足を組み替えながら興味深そうにミコトを見た。ストレートな深緑の髪が首を傾げた時にサラリとかかる、口元の黒子が色っぽい、スカートからチロリとのぞく脚がもう…

(エロいよ!!フェロモンすごいよ!!!)


 ミコトは色気に当てられ、思わず護衛として控えているアルとユキちゃんをチラッと見てしまった。平然としてる。解せぬ…


(しかし困ったなぁ〜、私が話したら異世界人ってバレちゃうんじゃないかな〜、しかも私が作った話じゃないしなぁ…著作権侵害って異世界でも罰せられるのか…そもそもお伽話の作者って誰?著作料って誰??)


 国民の混乱を避けるため、ミコトは聖女としての立場を隠すようにしている。どこまで話していいのか判断がつかなかった。


 ミコトがおろおろしながら口ごもっていると


「あの~、まだ話時間かかりそうですかね。僕疲れてしまって…座っていいですか?」


 ユキちゃんがいきなり切り出した。


(まぁ確かに私は座ってるけどアルとユキちゃんは立ってるしなぁ…あれ?それって護衛だからだよね?まぁ気を使うし立っていてほしいわけでもないけど…ユキちゃん自由人…ロザリーさんもノーラさんも面食らっているじゃん…)


 お坊ちゃんユキちゃんはさも当たり前のように、ミコトの隣に座って紹介(というか売り込み?)していたノーラをロザリーの隣に移動させ、ミコトの隣に腰掛けた。そしてミコトをはさんで、ユキちゃんの反対側にアルが座る。


(んんん?)


 おかげでソファーがきつい。


(前に私が誘っても護衛だからって直立不動で立っていたアルも座った!?どしたん??)



 ロザリーへの返答も、アルとユキちゃんの行動もよくわからない。

 劇場に来てから緊張感のような動悸はするしもう訳が分からん!お手上げだ!!と半ばあきらめるように視線を前に戻すと


(ふぇっ!?)


【すみません、私の祖父が幼い私に眠る前に話してくれたものでして…祖父の許可がないことには話せません。】



 並んで座るロザリーとノーラに見えないよう、後ろの天井からカンペをもったニッキーがぶら下がっていた。


(忍者かよ!!!!てかアルもユキちゃんもわかってたの!?)

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