第97話 最高の悪友
大吾の話によれば、俺が死んですぐに大吾はこの世界に召喚されて来たらしい。
そして召喚した神様とやらと出会い、俺がこの世界に生まれてくると知った大吾は俺が生まれてすぐに死んだりしないように世界平和を目指すと誓い、神様から勇者の力を与えられたそうだ。
動機が微妙な気もするが、大吾らしいとも思って笑っちまった。
「結局魔王は討伐できたんだがよ、残党連中がしぶとく反乱勢力として生き残ってやがって完全に平和そのものとはいかなかった、すまねぇな」
そう言って大吾は俺に頭を下げた。
その下げた頭を俺は軽く叩く、周囲がぎょっとして見てるがこんなの俺たちでは日常だった。
「謝るんじゃねぇよ、俺が出来るだけあっさりと死なねぇように頑張ってくれたんだろ?この通り俺は生きてるし気にすんな」
しんみりしてる大吾を笑い飛ばすように言うと、大吾の目からは涙がこぼれた。
「俺ぁ、ずっと後悔してたんだ…………俺が余裕かましてたせいで、お前を死なせちまって…………けど、この世界に刀祢が生まれてくるんだって知って――――嬉しかった。今度こそ、絶対にお前を死なせて堪るかってジジイになるまで生きれるような世界にしてやるんだって……………」
声と肩を震わせて咽び泣く大吾、そんな大吾を家族全員が気遣い、そっとその背に触れていた。
ホント、仲の良い家族だな。
だからこそ俺もそんな雰囲気に絆され、するりと素直に言葉が出て来る。
「ありがとな?大吾。お前が世界を平和にしてくれたおかげで、俺はこうして生きてるよ」
「当たり前だろうが!!お前とは散々バカやって、無茶もして、喧嘩もした!最高の悪友なんだよ!!無茶ぐらいさせろ!!でなきゃ俺は勇者になった価値が無え!!」
がっしりと握手をする俺と大吾はどっちも悪びれて笑い合う。
最高の悪友か………その通りかもな?
興奮気味になった大吾を一旦落ち着かせてる間、フェリシアさんが穏やかに話始めた。
「ルシード君と呼んでも?」
「あぁ、はい。そっちの名前でお願いします」
自分でも不思議なんだが、刀祢はどうもしっくりこねーからな。
仕事してるみてーな感覚になっちまう。
「それじゃあルシード君、中央府へ来る気は無い?」
「え………………?」
フェリシアさんがあっさりと言ってのけた言葉に、理解するまでに時間がかかった。
中央府はあらゆる最先端の物が揃うこの国の中枢部分、そんな簡単に行けるような場所じゃないって事くらいは俺でも解る。
「――――――と言うか、来て欲しいんだ」
唖然とする俺に付け足すようにアーサーが申し訳なさそうに言う。
「僕は父から英雄の――――――勇者の力を色濃く受け継いでいて、大抵の事はすぐに出来てしまうんだ。だけどそのせいで僕の周囲では人が育たない、もうすぐ高等部に上がるというのに側近と呼べる人間の一人も居ないんだからね」
アーサーが本気で人材育成すりゃあ他所の人間なんて足元にも及ばねーくらいの人間が出来そうな気がするんだが、それを言わないって事は単にやる気が無いんだろうか?
「お兄様の場合、優秀過ぎるのです。みんながみんなお兄様の様に何でもスラスラと出来る人たちばかりではないというのに、お兄様は自分と同じレベルを求めるんですから」
「そんなつもりは無いよ?ただ加減が難しいのは確かだね」
どうやらやる気が無いわけじゃなくて、他人が何故出来ないのかが真に理解できてないだけらしい。
そしてそれはアーサーのように立場上、人の上に立つような人間にとってはかなりの痛手だ。
例え別の場所からどれだけ優秀な人材を引っ張って来ても、アーサーがそれを理解していない限り結局は使い潰されたと思われるのがオチだろうからな。
「俺が行きたいと言ったって簡単に行けるようなところじゃないでしょう?」
最大の難点を指摘する、スティレット家はまだ地方の中級貴族、中央府の下級貴族よりも下の家格なのに、中央府に行ける格じゃない。
「それなら問題無いよ。今回のベルスターたちを成敗するのに協力した功績として、スティレット家を中央府の中級貴族に格上げしてくれるらしいから」
詳しい話はこうだ。
禁止薬物の開発をしているという情報を確認するためにシバキアに赴いていたアーサー、現地で恋人を容疑者と思しき組織に囚われてしまっていた俺と協力して事件を解決に導いた。
という筋書きらしい。
「因みに、ルシード君が彼女を助けようとしたお話は既に美談と成って書籍化されて、世の女性たちに旋風を巻き起こしているわよ?」
そう言ってフェリシアさんに渡された本を開いて読んでみると、なるほど人物設定は俺とマリーに酷似しているが、名前が違う。
そして何より、俺はこんな恥ずかしいこと言った覚えは無え!!ってセリフが散見された。
女性向けに幾つか――――――いや、かなり脚色されているその物語の著者はニーアさんだった。
娘が拉致られた話を書籍化してやるなよ……………。
怒りに震えるマリーが容易に想像できるわ。
「それにね?オーズさんがルシードの事を中央府でもべた褒めしていたおかげで、ルシード・スティレットの名前は中央府でも結構知れ渡ってるんだ。あのオーズさんが直々に鍛え、褒めるほどの逸材だってね?既にルシードが卒業するタイミングで自分の派閥に取り込もうと画策してる人たちもちらほら居るみたいだよ?」
…………なんか、スゲー巻き込まれた感があるんだが?
オーズさんはそんな俺の心境も知らず、白い歯を見せてニッと笑った。
あぁうん、有難いんだよ、有難いんだけどな。
俺は突然降って湧いた話に、気分がだんだんイラついて行くのを感じた。
アーサーたちにしたって自分たちの側近、つまりは俺を部下にしようとしてるんだろ?
「俺としちゃこの話を受けてほしい、他の奴らにお前の命を好き勝手に使われてたまるかってんだ!アーサーの側近てことにすりゃ、かなりこっちでも融通を利かせられるんだ」
それに、と大吾が話を続ける。
「これは親としての俺の我儘なんだが、アーサーの背中を守ってやって欲しい。魔王と討伐して勇者だ英雄だと言われたけど俺一人の力じゃねぇ、仲間が居たからこそできた事だ。魔王が居なくなっても魔族の連中全員が大人しくなった訳じゃねぇ、これから先アーサーの傍にお前が、お前の傍にアーサーが居てくれれば俺も安心できるんだ」
目を閉じて頭を下げる大吾、部屋には沈黙が降りた。
「アナタ、そんな結論急がせないの。ルシード君もすぐに結論を出さなくても良いわ、そうねぇ……………ルシード君が初等部を卒業するまでに答えを聞かせてくれるかしら?」
フェリシアさんの気遣いに心の中で感謝する。
そうして時間を創ってくれたことで、大吾を諫めてもくれた。
マジで良い奥さんじゃねぇかよ……………。
大吾の頼みには応えてやりてぇけど、こんな大事な事を俺一人で決めて良いわけがない。
「家のみんなと相談して決めようと思います」
「うふふ、それが良いわ」
「良い返事を期待してるよ」
俺は特に何かした覚えも無いんだが、アーサーからは既に信頼されてる気がしてむず痒い。
大吾の奴俺の事どんな風に周りに話してやがったんだ?
ふと、そんな事が気になった。
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