実家での騒動
第50話 帰省
試験が終わってからは目立ったイベントは無く、俺たちはそのまま平穏無事に年末の長期休暇に移行した。
俺はシルヴィオに、朝から里帰りの準備をする為から起こしてくれと頼まれていた。
そのシルヴィオはと言うと、目の前ですやすやとまだ寝息を立てていた。
何故かシルヴィオは俺のベッドで寝たがるようになってしまった、まあガキが二人で寝てもまだ余裕があるから俺も特に何も言わない………温かいしな?
年中涼やかなこの土地で温かく眠れるのは何物にも代えがたい。
「シルヴィオ………起きろ。里帰りの荷支度するから起こしてって言ってただろ?」
「うー…………ありがとう、起きる」
肩を揺すって起こすと、まだ寝ぼけてはいるようだが眼を開けてくれた。
そのまま起き上がりクローゼットを開けて着替え始めたので、俺はそのままベッドで二度寝しようと目を閉じた。
試験後くらいまではシルヴィオが着替えの時はトイレか風呂場かに移動していたんだけど、シルヴィオが「態々移動しなくてもいい」って言うので今では顔さえ背けていれば移動する必要がなくなった。
そのおかげでこうして惰眠を貪ることが出来るってわけだ。
荷支度しなくて良いのかって?俺の実家はまだ近場だからな、朝早くに出る馬車じゃないからゆっくりでも良いんだ。
「きゃっ!」
うつらうつらと
驚いて眼を開けると、視界いっぱいにピンク色でますます混乱した。
「ごめんね!?すぐに退くから!」
そうして視界にあったピンク色が退いて、見慣れた天井が現れた。
「ズボンを履くときによろけちゃって………ホントにごめんね?」
どうやらさっきのはシルヴィオの尻だったようだ。
「次やったら浣腸な」
「うぅ……ホントにごめんってばぁ………」
こんなに情けないシルヴィオが見れるのは寝起きの時くらいだろう、いつも張り詰めてるから俺もあまりとやかく言うつもりもない。
幾ら不注意でも寝てる他人様の顔の上に尻を置くのはさすがに怒るわ!
俺は念のため着替えを継続してるシルヴィオを薄目を開いて確認する(覗きたいわけじゃない)、まだ寝ぼけてる感じのシルヴィオならやり兼ねないからだ。
そして案の定、
「きゃっ!」
さっきと同じような声を上げて、シルヴィオの尻が迫って来た。
俺は咄嗟に冗談のつもりで右手中指を立て――――――、
ぶちゅり!
「ひゅぁっ――――――!!!!」
突き立てた指に
俺は咄嗟にシルヴィオの尻をもう片方の手で支えて指を抜き、
「大丈夫か?悪かった、まさかこんなに綺麗に突き刺さるとは思ってなかったんだ」
シルヴィオをそっと俺のベッドに座らせてすぐに土下座する。
シルヴィオはお尻を抑えてふるふると震えていた、その目には涙が浮かんでいる。
「ルシードのえっち!変態!私のお尻―――……あんなこと本当にするなんて!!」
ようやく正気に戻ったシルヴィオは俺に避難の言葉を浴びせてくる、まだまだ怒ってるらしく顔が赤い。
確かに俺は怒られて仕方のない事をした、けどさシルヴィオ……………いい加減ズボン穿かないか?その………目のやり場に困るんだが?
ガキには興味ないが、だからってガン見して良いものでも無いだろ?
折角早起きしたってのに、それが無駄になるくらい延々と説教された。
朝一出発の馬車に乗り、シルヴィオは帰郷していった。
モアとイザベラもそれぞれ荷物を抱えて、馬車へと乗り込む。
「ルシードくんも里帰りするんでしょ?」
「あぁ。俺は近くだから最後の方の馬車だ」
故郷が離れている者たち程朝早くの馬車に乗り、近場の者は後の時間の馬車になる。
それ以外だと迎えの馬車が来たりするらしいのだが、この学校の権威を振り翳すのを良しとしない校風に遠慮してそれをするのは極少数だ。
「モアは宿題をちゃんとやる事!」
マリーは此処が家みたいなもんだから、今日は皆を見送る役だ。
「心配ありませんわ!この私が、”やってない”など許しませんもの!」
イザベラが堂々宣言すると、モアがうへぇ~って顔をした。
その気持ちはちょっとわかる。
互いの家が仲が良いらしく、休みの間もちょくちょく会うのだそうだ。
その度に「宿題は!?」とか言われると思うと、辟易する。
二人の乗った馬車を見送り、俺の乗る馬車が乗り合い場に姿を見せる。
俺と一緒にオーズさんもエンルム家で過ごすので、同じ馬車に向かうと、
「オーズさん、また会える日を心待ちにしております」
「うむ。リズも息災で――――――」
今にもキスしそうな甘い空気が立ち込める。
周囲の生徒全員がさっと視線を逸らして気を利かせてあげている様子にほっこりしていると、
「ルシード、早く戻って来てね………?」
「出来れば遠慮してぇなぁ……」
それを見ていたマリーが影響されたのか似たような事を言うけど、戻って来てね?って学校にって事だろ?あーでもあの家に居ても疲れるからこっちの方が気楽なのか……?
そんな事を考えてると、マリーに頬をつねられた。
俺とオーズさんはマリーとリズ先生に見送られながら、故郷へと帰った。
相変わらず良く揺れる馬車だったが、来た時よりも幾分ダメージが少なかったように思うのはちょっとは強くなったって事なのかもな?
「ルシードよ。あの学校はどうであるか?」
馬車の中、オーズさんのそんなざっくりとした質問に、
「とても楽しくて充実しています!」
これは嘘じゃなくて即答できた。
オーズさんも俺の返事に満足そうに「うむ!」と大きく頷いた。
もうすぐ家が見えてくるので馬車から見ていると、エンルム家の屋敷の前に出迎えの人が出て来てくれているようだった。
マーサ、サリア、エドガはわかるけど、俺よりも年下だろう二人の女児が一緒だった。
ミューレさんはまぁ仕方ないにしても、当然のようにロイさんが居ないのは「あぁ、やっぱりか」と思った。
そして馬車はゆっくりと屋敷の前に停まり、俺とオーズさんが馬車を降りると同時に二人の女児が、
「「おかえりなさいませ、ルシードお兄さま」」
練習したんだろう、揃った動きで恭しく頭を下げたのだった。
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