第48話 頑張った結果・・・?

模擬戦闘試験大会から通常授業、日常に戻ったと錯覚していた俺だったが、ファナル先生の一言で現実を突きつけられていた。


「来週から座学の試験を行いますから、皆さんきちんと備える様に」


「はーい!」


クラス中が元気よく返事する中、俺は頭を抱えた。

初等部の試験なんだから楽勝だと思うだろ?算数ならまだギリついて行ける。

だけど地理・歴史や魔法学基礎Ⅰとか意味わからねぇ、大体日本の歴史や地理さえ危うい俺がどうして異世界の地理や歴史を学ばないといけないんだ!!


…………言われなくても解ってる、この世界で生きてく以上覚えとかないといけないんだろ?いつ役に立つかなんて知らないけど知ってても損は無い。

それに試験で良い点とれば、ミューレさんやオーズさんが喜んでくれるかもしれないからな。

真面目な奴=頭の良い奴ってイメージがあるから頑張らねーと。

それで少しはサリアも見直してくれたら良いんだが、それは高望みし過ぎだな。


「――――――という訳でマリー!頼む!俺に勉強を教えてくれッ!!」

「何が”という訳”なのか知らないけれど、元々その約束だったでしょう?」

「そういう訳だからマリーちゃん!私にも勉強教えて下さい!!」


「………モアの方は、本当にどういう訳なの?」


俺がマリーに頼んでいると、すかさずそこにモアがやって来て俺と同じようにマリーを拝んでいた。

マリーもあきれ顔だ。


「マリーツィアさん御一人ではご負担でしょうから、この私も教える側に回って差し上げてもよろしくてよ!?」


この間の一件以来、俺たちとつるむ様になったイザベラが尊大にやって来た。

あれからイザベラは前の髪形をすっぱりと止め、基本ポニーテールに固定して気分でヘアアレンジを楽しんでいるようだ。


「本当か!?助かる!ありがとうな!」


俺はイザベラの手を取って深く感謝すると、


「ま、また貴方という人は、淑女レディに気安く触れないようにと何度言えばわかりますのよ、もぅ………」

「……ルシードは私だけじゃ不満?」


イザベラが何やら頬を赤く染めて、ごにょごにょ言ってたんだがマリーの不機嫌そうな声に阻まれて聞こえなかった。

つーか、声だけじゃなく顔も何か知らんが不満そうだ。


「マリーだって自分の勉強とか、研究とかあるんだろ?ニーアさんから学業優先って言われてるとはいえ、全部俺たちの勉強を見る時間に充てるのは申し訳なさすぎるんだよ――――――」


”マリーは俺と違って期待されてるからな?”なんて卑屈な言葉が出そうになって、それだけは慌てて呑み込んだ。

何で俺、こんな事言おうとしたんだ?


「うーん……………そういう事なら御言葉に甘えさせてもらうけど、解らないことがあったら遠慮せずに訊いてね?」

「あぁ、勿論だ。頼りにしてる」


いつの間にか機嫌も直ったらしいマリー、俺の焦りには気付かなかったようだ。


「問題ありませんわ!私が二人の勉強を見て差し上げますもの!」

「えー……でもイザベラちゃん教えるの下手くそだからなー………」


威勢よく今にも高笑いしそうだったイザベラだったが、モアの容赦ない一言でばっさり斬られて泣きそうになっていた。

イザベラ、強く生きろ。


「それで場所はどうするの?自習室も図書室もこの時期いっぱいになるだろうし」

「それならマリーちゃんのアトリエで勉強しようよ!私行ってみたい!」


「「…………」」


モアが無邪気な発言に俺とマリーはそっと目を逸らして沈黙した。

あそこは確かに他から邪魔はされないだろう、けどあの腐海を乗り越えて行くのは大丈夫なんだろうか?俺はまぁ良いにしても、モア………はまだギリ大丈夫か?けど見るからに良いとこの御嬢様のイザベラが耐えられるだろうか?

マリーもそれを考えていたらしく、


「私のアトリエは………その……ちょっと散らかってるから」


やんわりと断ろうとしてた。

つーかマリーよ?ちょっと!?あの腐海をちょっとと表現するのは間違ってると思うぞ!?

そんな良い方だとモアにもイザベラにも真実が伝わらねーだろ!!


「モア!悪い事は言わないからアトリエだけは無しだ!あそこは初心者が足を踏み入れて良い場所じゃねぇ!!」


あれは一種のダンジョンアタックに近い。


「またまたー。だってマリーちゃんの部屋だよ?大丈夫だよ!」

「そうですわ、あまり女の子の部屋を悪く言うものではありませんわ」


俺は二人の為を思って言ったんだが、聞き入れてもらえなかった。

あぁそうだよな?マリーは普段からしっかりしてるもんな………想像もしないよな。

何でマリーもちょっと心外だみたいな顔してんだよ?


「………………これから片付けるもん」


頬をぷくーっと膨らませてねるマリー。

しゃーねーな、俺も手伝うか。

流石に友だちを危険な場所に立入らせるわけにはいかねーし。


「………じゃあ一時間後、二人はアトリエの前に来てくれるか?」

「一時間後?それにルシードくんはどうするの?」

「俺は………ちょっとした用事があるから、それが終わったら行くよ」


マリーの名誉を少しでも守る為に二人に嘘を吐く。

一時間で足りるか…………?せめて入り口から勉強するスペースくらいまでは片付けておきたいな………。




オーズさんに今日は放課後訓練を勉強が終わってからで良いか聞きに行くと、


「学業も大事である!」


そう言って、試験が終わるまでは放課後訓練は無しになった。

その代わり朝練の量を少し増やす事で調整するそうだ。


快く了承を得られた俺たちはモアとイザベラと一旦別れ、俺とマリーはアトリエの前に来ていた。


「ごめんねルシード……あれから私なりに少しずつ片付けていたんだけど………」


そう言いながらマリーが恥ずかしそうにアトリエのドアを開いた。

………前見た時と似たような光景が広がっていた。

正直何処が前と変わっているのか全然わからねーんだけど?

でも何故かマリーは気付いて欲しそうな期待した目で見つめてくる。

ここで解らない、変化が見られないというのは簡単だが、それではマリーの頑張りを無視する事になっちまう。

それだけは避けないと、マリーに片付けを継続してもらう為に――――――。


そう思って俺は再度アトリエの中に目を凝らす……………あー、まさか……?


「前に来た時よりも、足の踏み場が若干大きくなってるような…………?」


気がする。

そう、そんな気がするだけだ。

でも俺の言葉にマリーはぱあっと満面の笑顔を見せた。


「さすがルシード、きっと気付いてくれると思ってたッ!!」


俺の手を両手で握るマリーはとても嬉しそうで、とてもじゃないがまぐれだとは言える空気じゃない。

俺はそのまま黙って居る事にした。

褒めて褒めて!って感じのマリーに、俺は「頑張ったな」としか言えなかった。


それからすぐにアトリエの片付けに取り掛かるも、俺とマリーの二人でもこの腐海の攻略は難しい。

すぐに奥や上から物が転がって押し寄せてくる。

このアトリエ………動くぞ、なんて言ってる場合じゃない。

終わりの無いテト〇スをやってる気分だ。


急場凌ぎでどうにかこうにか、溢れかえる物を普段使っているらしい一番奥にある研究室の中へと二人がかりで押し込む。

仕上げにその研究室の扉をマリーの防御魔法で固く封印すると、俺たちは揃って大きく息を吐きその場にへたり込んだ。


「アトリエの床板をこんなに見るのも久しぶり………」

「これからは自分で片付けてくれよ?」

「鋭意努力します」

「それ絶対しねーヤツだ………」


俺たちは頑張った。

そう、頑張ったんだ。

足の踏み場が予め用意されている状態から、とりあえず何処を踏んでも大丈夫な状態へ。

いつ雪崩で生き埋めになってもおかしくなかった周囲も、物が雑多に積み上げられてる程度に変貌を遂げた。

俺にしてみれば充分な劇〇ビフォーアフターだ。



その後、勉強しに来た二人がアトリエの中を見て硬直したのは言うまでもないよな。

けど、頑張ったんだよ…………。

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