第1350話  番外)寿命が尽きる日

 青年と少女と少年の頑張りもあって、生き残った3匹の猫たちは日々少しずつではあるが大きくなっていった。

 残念ではあるが、死んでしまっていた2匹は裏庭に丁寧に埋葬した。

 少女と少年が、青年に少し遅れて夏休みに入ったものの、部活のせいでなかなか昼間は子猫達の面倒を見る事が出来ない。

 その代わりに、夕方ごろからは青年がバイトに行くので、子猫達の面倒は青年の妹弟と両親が見る事となった。


 子猫達がすくすくと成長し、両目がしっかりと開く様になった頃、3匹に名前を付ける事となった。

 全身が黒い毛並みで4本の足の先だけが白いソックスの様な模様の雌には、安直だがクロと名付け、同じく黒い毛並みだがお腹と鼻先が真っ白な雌猫にはハナ。

 遺伝的に同じ親から生れたと考え難い茶トラで一番小さな雄にはプチ。

 名前を付けられた3匹は、すくすくと成長した。

 最初は飼う事に反対していた兄妹達の両親も、子猫の可愛さに負けてしまったのか、次第に積極的に構う様になっていた。


 夏休みも終わり、3兄妹の学校が始まると、青年が猫達に関わる事も減ってしまったが、それでも帰宅をするといつも猫達を撫でまわして抱きしめる。

 無論、青年よりも早く帰宅する少女と少年も、これでもかと甘やかした。


 季節は巡り、やがて冬になると、また兄妹は長期休暇に入る。

 この頃には、猫達の体重もかなり増えていた。

 大きくなった猫達を前に、家族は重要な決断を強いられる時が来た。

 それは、家で飼うならば絶対に必要と両親が主張する、避妊、去勢手術。

 幸いなことに猫達は今まで感染症とは無縁であったが、そろそろこれも必要。

 ならば、出来れば一緒に出来ないかと、青年が良く世話になった動物病院に相談した所、同時にするにはリスクが大きいので、次期をずらした方が良いとの回答。

 ならばと、まずは12月下旬に予防接種を行い、副反応などの心配がなくなるであろう翌年に手術を行う予定をたてた。

 

 動物病院では猫達が注射を嫌がり暴れ、手術ではその冷たい雰囲気に怖がったりもしたが、3匹は全ての予定を無事に終了した。

 避妊去勢手術後の傷を舐めたり掻いたりしないようにするため、3匹にプラスチック製のエリザベスカラーを付けられた時の世の終わりのような顔で落ち込む猫達を見た家族全員が苦笑いしたりしたのも良い思い出かもしれない。


 やがて、猫達を家に迎えて1年が経った…。

 この頃には少しずつ猫達にもはっきりとした個性が現れ始めた。

 家族が家に居る時は、クロは少女に、ハナは何故か父親に、そして茶トラのプチは青年にべったりと寄り添う日々。

 特に青年が大好きなプチは、青年が学校やバイトや道場で指導で不在時には、彼ののベッドで帰りを待ちつつ丸くなって寝る日々。

 去勢によってホルモンバランスか崩れた為かどうかは分からないが、一番小さかったプチは、今では一番大きく太っていた。

 もうプチでじゃなくデブじゃね? っと末の弟が笑った。

 

 青年に一番懐いていた茶トラでちょっとぽっちゃり気味なプチ。

 通称プッちゃん。

 この猫は思っていた。

 いつまでもこの大好きな青年と共に居たい…と。

 どうしてそんな気持ちになったのかは分からない。

 だけど、確かにそう考えていた。

 青年が結婚をして家を出る事になった時、絶対に付いてくと離れなかった。

 彼の妻にはあまり懐かなかった。

 別に嫌っているわけでは無い。

 だが、大好きな青年が取られてしまった様な気がしたから、ちょっと意地悪しただけの事だ。


 そして…やがてプッちゃんにも寿命が尽きる日が来た。

 青年だけでなく、彼の妻も子供達も、皆が涙を流した。

 最後の最後に、プッちゃんは青年に向かって前足をほんの少しだけ伸ばして力なく『にゃ…』と鳴いた。

 そして、静かに両目を閉じた。

 プッちゃんの目は、もう二度と開かれる事は無かった………。


 青年…大河芳樹の目には、涙が溢れていた…。

 

 

 

 

 


 

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