第1291話  そんな心配は無用

「いやいやいやいや、それは駄目だろう! 世の人々が信仰する女神様の足の下がダンジョンって、絶対にダメだろう!?」

 俺の考えっておかしくないよね? 神社の下がロボの格納庫ってだけでも大問題なのに、それが迷宮化してるって駄目だろ!

「何でじゃ? それの何処に問題があるのじゃ?」

 えっ? 俺の認識が変? 元日本人の考え方って、どっかおかしいのか?

「えっと…僕も、ちょっとおかしく感じるんですけど…」「う~~~ん…私もぉ!」

 ほら、ユズキもユズカもおかしいって思ってるじゃん!

「トールヴァルド様、何がダメなのですか?」

 モフリーナまで…?

「いや、何か神聖な湖の地下にあ…いや、ダンジョンって、どことなく神様を冒涜してる様な気がせん?」

 悪の秘密組織って言いそうになったよ…あぶな! んな事言ったら、絶対にボーディは激怒する。 

 うん、間違いない。

「トールさま、それの何処が冒涜なんでしょうか? 詳しく教えて頂いても宜しいですか?」

 あれ? 元第4王女殿下のメリルまでそう考えるの?

「確かにこの場所の上には、湖とネス様が居られますが…それって、単にトールさまが先に創っただけですよね?」

 ミルシェまで…そらそうだけど…。

「よくよく考えたら、地下にこの様な施設を創っておいて、冒涜も何も無い気が…」

 おい、ユズキ! お前の言いたい事は分かるが、それでもここをダンジョンにしちゃったら駄目だろ!

「ん~、それ言い始めたらカタコンベなんかのツアーとか、死者を冒涜しまくりよねぇ…」

 それと一緒にしていいのか、ユズカよ。確かにあれは俺としてもちょっとどうかと思うけど…。

「かたこんべぇ?」

 変に語尾を伸ばすんじゃありません、もふりん君!

「かちゃきょうべぃが何かは知りませんが、そもそもトールさまは、どの様なダンジョンにするのか説明を受けましたか?」

 おぅ! 確かにマチルダの言う通りだ。俺は何の説明も受けてねぇ!

 ってか、カタコンベの原型どこいった?

「う~む…トールさまの言いたい事は、何となくわからないでもないが…裏庭の一画は、すでにダンジョンの一部では?」

 た、確かにイネスの言う通りだ!

 忘れてたけど、あの地獄門が置いてあるとこは、すでにダンジョンの一部だった!

「もう少し…詳しく…話を聞くべき…かな?」

 …ミレーラさんの仰る通りかもしれませぬな…。


「うおっほん! もうそろそろ話をしても良いか?」

 俺達がゴチャゴチャやってるのを、どうやらダンジョンマスター御一行様は、落ち着くまで待っていてくれた様だ。

「あ、ああ、うん。ここをダンジョン化するって事を詳しく説明してくれるか?」

 俺の男のロマンがダンジョンになるんだから、ちゃんと説明を聞かなきゃね。

 こら、誰だ! 今まで忘れてたくせにとか言ってる奴は!

「まあ、そんなに難しい話ではないぞよ? そもそも、ここの設備ではロボットのメンテナンスには色々と不足しておる」

 ……まあ、俺は箱を創っただけだからね…。

「なので、まずは色々な資材とメンテナンス要員をここに送りたいのじゃ。それならば、ダンジョン化してしまった方が早かろう?」

「確かに…。つまりは裏庭に地獄門を置いた時みたいな感じか?」

「地獄門とは酷いのぉ…。あれは天国へ繋がる扉じゃぞ?」

 天国への扉…って、ボブ・ディランの名曲じゃないんだから、やっぱ地獄門でいいや。

「流石に巨大ロボや資材を、パンゲア大陸から運搬する姿を誰かに見られるのは避けたいからのぉ。あと、メンテナンス要員はゴブリンにコボルトじゃ。こっちも人目に付かぬ様、直接パンゲア大陸とここを行き来させたいのじゃ」

 なるほど、確かにそれはそうかもしれない。

「ゴブリンとコボルトがメンテナンス出来るのか?」

「…そう調整して造った…」

 ボーディとの会話に割って入って来たのは、マッドサイエンティストにしか見えないモフレンダ。

 そうか…ゴブリンとコボルトを魔改造したのか…そうですか…。

「話が逸れたのぉ。要は、利便性を向上させる為に、ここをダンジョン化させて欲しいと言っておるのじゃ。そうすればついでにウルスラグナもここに持ってこれるぞよ?」

 利便性の向上と言われると反対し辛いな。

「トールさま、是非ともダンジョン化して頂きましょう!」

「な、何でマチルダは乗り気なんだ?」

 いきなりどうした?

「私だけではございません。たった今、嫁会議で満場一致でダンジョン化は採用されました」

 へっ? と俺が振り返ると、嫁ーずは全員が頷いていた。

「ど、どうして?」

「トールさま。お義母さまより、王都のお邸ではウルスラグナ専用の倉庫を建てたと伺っております。ですが、この邸では裏庭に放りっぱなしでカビが生えそうです! ですので、この機会にダンジョンマスター様方に、こちらへ移動して頂いた方がよろしいかと思います。そうすれば裏庭も広くなりますし…」

 メリルの言葉を一言で言い表すと、つまりあれは邪魔って事ですね…。

「あ、ボーディさん…1つお聞きしたい事が…」

「何じゃ、ミレーラよ?」

「ダンジョン化って…ここが本当の意味のダンジョンになて…わけじゃない…ですよね?」

 ミレーラの言いたい事は何となくわかるぞ?

 ダンジョンって聞いたら、普通は不気味で恐ろしい場所で、命のやり取りが日常的に起きる場所ってイメージだもんな。

「無論じゃ! あくあまでも利便性向上の為であって、関係者以外は基本立ち入り禁止じゃからな」

 ボーディがそういうと、嫁ーずは全員が、『ほっ』と安心した顔になる。

「そもそも、この大陸のモフリーナのダンジョンだけでなく、妾やモフレンダのダンジョンからあっちの大陸のダンジョンに数え切れぬほどの冒険者を送り込んでおるが、誰も踏破出来ておらんのに、これ以上ダンジョンを増やす理由がない。じゃから、そんな心配は無用じゃよ」

 そう言うと、何故かニカッ男前に笑い、白い八重歯をキラリと光らせたボーディ。

「お前は三鷹瞬か!?」

『??』『ぶふぉ!』

 渾身の俺のツッコミだったが、嫁ーずは意味が分からず首を傾げ、ユズユズ夫婦は盛大に噴き出していた。

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