第1192話  ダンジョンって?

 ダンジョン…それは、現代地球ではラノベに漫画、そしてアニメや映画など、様々な物語に登場する。

 その多くは、一般的な土地に何らかの理由で発生したりすることが多いとされている。

 発生原因は様々で、負のエネルギーや感情、瘴気などが集まり発生したり、古代の遺物が原因であったり、その地に住む人々に敵対する悪魔や魔族などの勢力などが造りあげたり。

 だが、何故かそのほとんどに共通しているのは、ダンジョンの最奥にはダンジョンの核となる物があり、それが破壊されるとダンジョン自体が崩壊や消滅するという事だ。

 更に、ダンジョンとはおどろおどろしく描かれているのも、また多くの物語に登場するダンジョンに共通する部分かも知れない。

 

 そんなダンジョンではあるが、この星では少々様相が違う。

 まず、ダンジョンマスターと呼ばれる存在は、別にダンジョンに隠れているわけでは無い。

 普通に街の人達と交流していたり、買い物したりもしている。

 まあ、あまりその頻度は高くはなく、時折その様な姿が見かけられる程度ではあるが。

 そして、ダンジョンの中は結構明るい。

 ダンジョンに挑む冒険者と呼ばれる人々が、足元を気にしたりする必要がない程度には明るい。

 更に、冒険者が持ち帰るモンスターの素材は、その多くが魔石である。

 実際には、モンスターを倒せば色々な素材が手に入るのであるが、それを持ち帰るだけの余力がないため、最も高価な魔石を優先して回収しているだけ…と言う、冒険者サイドの事情もあるのだが。

 アイテムボックスや異次元収納などという、超便利なチートスキルなど無い世界。

 大きな背嚢や肩掛け鞄などを持って戦闘など出来るはずもなく、従って持ち帰れる素材にも限度があるからである。

 余裕のある者であれば、毛皮や爪に牙といった素材も持ち帰る事もあるのだが、それらを持ち帰ったとしても、そう高くは買い取ってもらえないという事情もある。

 ダンジョン産のモンスターの毛皮や爪に牙の質は、実は森に生息する獣の方が質が良い。

 なので、無理をしてそれらを持ち帰るメリットが無いのだ。

 実際、森の中に生息する獣であれば、大きめの猪や熊などを1匹狩って、丸ごと持ち帰る事が出来れば、ダンジョン産の魔石を百個程度と変わらぬ値段で引き取ってもらえる。

 危険度的にはどちらも大差ない。

 とは言え、ここ十数年は、ダンジョンでの死者は非常に少ない。

 これはトールヴァルドとモフリーナの間での密約によるものである。


 そもそもダンジョン…モフリーナの目的は、ダンジョンにやって来る冒険者などから、魂のエネルギーを奪う事。

 ダンジョンの中に長く留まっていれば、それだけ多くのエネルギーを回収できるし、命を落とせば丸々手に入れる事が出来る。

 だが、トールヴァルドがモフリーナに提唱したのは、ダンジョンに挑む冒険者は生かさず殺さず、ほんの少しずつ長くエネルギーを搾取するという、ダンジョンとしては考えられない方式。 

 ダンジョンとしてはこの魂のエネルギーによって、ダンジョンの拡張やモンスターの復活、宝箱の中身を造り出す等、様々に活用しているため、エネルギーは沢山集めたいのが本音だ。

 なので、強いモンスターを配置し、入って来た冒険者を軒並み殺そうとするのが、普通であり常識である。

 だが、そんな常識をトールヴァルドがぶっ潰した。

 冒険者からは、細く長く搾取し続ける。死にそうな奴が居れば、回復させる。出来る限り、殺さない。

 まあ、不慮の事故で命を落とす者も居ないでもないが…。

 このトールヴァルドの方針をそのまま実行した所、第9番ダンジョンは冒険者に大人気になった。

 冒険者達は、命の危険がある森での獣狩りよりも、数を熟さなければ儲からないが、それでも命の危険もコツコツと頑張ればそれなりに確実に稼げるダンジョンへと冒険者達が狩場をシフトしていったのは、当たり前の事かもしれない。

 無論、冒険者の数が少なかったりした時には、トールヴァルドがエネルギーを提供してくれていたりするので、収支的にはモフリーナは結構ウハウハ状態だ。


 まだトールヴァルドが幼かった頃、アルテアン領で発生したダンジョンのマスターと友好な関係を築いた事が国王に褒められ、国をあげての第9番ダンジョン周辺への資金投入がなされ、父さんが昇爵したぐらい、国にとってダンジョンとは永続的に魔石を生み出してくれる、生きた鉱山の様なものであり、国にとって超重要施設でもある。

 何より、人がほとんど死なないのが、このダンジョンの重要性を高めている。


 更に、大陸全土がダンジョン化されている、パンゲア大陸までダンジョンマスター達はトールヴァルドに提供してもらっているのだ。

 ダンジョン内に人が住む。そんな事、普通では考えられない。

 だが、現にパンゲア大陸ではそれが行われている。

 すでに万単位の人口が住んでおり、徴収しているエネルギーは一人一人からは微量であっても、塵も積もれば山となる。

 日毎に莫大なエネルギーが、手に入る状況であれば、ダンジョンマスター達がトールヴァルドに恩義を感じないわけが無い。

 特に、ボーディやモフレンダといった、不遇に喘いでいたダンジョンマスター達にとっては。


 余談ではあるが、こちらの大陸に入り口だけ設置しておき、冒険者達をパンゲア大陸へと転送させていたりもするが、これはあまり収支とは関係がない。どちらのダンジョンであっても、得られるエネルギー収入は同じである。


 さて、そんなダンジョンマスター達であるが、普段は何をしているのかと言うと、実は何もしていなかったりする。

 冒険者の魂のエネルギー回収、倒されたモンスターの再生とリポップ、宝箱の配置など…普通はダンジョンマスターが手ずから行わねばならない事まで、完全に自動化しているため、普段は暇である。

 トールヴァルドに提供してもらったエネルギーが、とんでもない量であった事も関係しては居るのだが、普段はかなり時間を持て余しているので、新種のモンスターの開発や、アイテムの研究などをしていたりする。

 そこへトールから持ち掛けられた相談。

 輪廻転生管理局員であるサラとリリアのボディ作成。

 暇人たちは、恩人でもあるトールヴァルドからの依頼に、やる気満々で全て了承。

 近頃、輪廻転生管理局のせいでこの世界に危機が迫っている事もあり、ここで上手く局員を引き込もうと、策を巡らせた。

 そして…別に嘘を吐いたりはしていないが、まんまとサラとリリアを管理局から切り離すことに成功した。

 あとは2人分のボディを作成し、彼女達の体内から回収する予定の管理局製の頭脳や電池などを分析し、近い将来管理局、いやさ管理局長との直接対決への準備を進めるべく、さらなる策を検討に余念がなかった。

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