第1154話  土下座

「とりあえず、黙って私の話意を聞いてくれません?」

 ふむ、そう来たか。

「俺に喋るなと? いいだろう、今後一切お前とは話をしないと誓おう!」

「そうじゃねーよ、この馬鹿野郎! 私の話が終るまで、ちょっと黙っとけって言ってんだよ!」 

「何をプンスカ怒ってんだ? 更年期障害か?」

 情緒不安定な奴だなぁ…。

「だから、黙って私の話を最後まで聞けって…言ってんの…に…もう、やだ…この人…うわぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁっぁぁぁぁん…」

 あ…これはガチ泣きだ。今までの微妙な涙じゃない、マジモンの涙だ! 

 こりはやぶぁいかもしれん!

「あ、あ~…サラ? ちょっと落ち着こう。落ち着いたら、ちゃんと話を聞くから」

「…本当?」

 う、上目遣いの潤んだ瞳…だと!? 

 良く見れば…いや、良く見なくとも、こいつは元々見た目だけは美少女。

 そんな奴がこの格好とか反則だろうが!

 まあ、普段のこいつを知ってるから、俺の心が揺らいだりはしないんだけど。

「うむ、マジで聞くから、ちょっと落ち着け」

 俺の言葉の真意を測っているのか、じぃ~~っと俺を見つめていたサラだが、鎧で俺の表情なんか見えるはずもない。

 しばらく俺を見つめ(鎧越しに睨めっこだ)ていたサラだが、『はぁ…』とため息一つ吐いて、涙をゴシゴシ袖で拭った。

 ハンカチ持って無いの?  ってか、鼻水まで袖で拭うのかよ! 

 そういや、昔の田舎の子供の服は、袖が鼻水とかでカピカピになってる奴いたなぁ。

 ま、そんな事は今はどうでも良いか。

 俺がどうでも良い事を考えている間に、またもや『すーはーすーはー』と呼吸を整え始めたサラであった。


 どうにか呼吸も落ち着き、漸く振り出しに戻った…あれ? さっきも振り出しに戻らなかったっけ…ま、いっか。

 ガチ泣きで乱れた服の裾を直して、また座り直したサラは、真剣な目で俺を見つめた。

 そして、やっとこ今夜俺の寝室に忍び込んだ用件を切り出して来た。

 ここまで長かったなぁ…。

「…大河さんが話の腰を折りまくって横道に逸れまくったからでしょ…」

 何故に俺の心の中を…まさか、また声に出てたのか!?

「もう、心の声が駄々洩れな大河さんの事はこの際おいておきます。今夜こっそりここに来たのは他でもありません。先ほども言いましたけど、私とリリアが輪廻転生管理局と、一切の通信が出来なくなったという事が発端です」

 発端? 

「私とリリアのボディが、管理局製だって事は知っていると思います」

 まあ、ボディの入れ替えに立ち会ったから知ってる…思い出したら、結構グロかったけど…。

「あくまでもボディが管理局製と言う事で、私達の中身というか本体は管理局にあります」

 それは知ってる…うん。

「管理局と通信が繋がっていた時は、時たま本体に戻ったりもしてました」

 ……それはアバター的な感じなんだろうか? 

「ですが、通信が途絶してしまったので、管理局に戻る事が出来なくなりました」

 いつか通信復活するんじゃね?

「このまま何年も通信が途絶していると、このボディの寿命が来ます。新しいボディの部品も素材も通信が復活しないと手に入れる事が出来ませんので、やがて私とリリアは動けなくなるでしょう」

 何か、急に真面目モードになって来たな。

「通信が出来なくなった原因は不明ですが、私とリリアの考えは一致しています」

 ほう?

「私達は局長に捨てられたのです!」

 な…なんだと!? 捨てられた…だと?

「なので、ボディの寿命が来たら、このボディの中身である精神体は管理局に戻る事も出来ずに、消滅するでしょう」

 あらら、意外とシリアスな内容のお話ですなぁ…。

「なので、その前に…どうか大河さんの御力をお貸しください!」

 ガンッ! と音がするほどに額を床に打ち付けて土下座したサラ。


 どうやら嘘は言って無い様だ。

 だって、今までにこんな弱々しいサラの姿なんて見た事無かったからな…。

 これは、ちょっと真面目に考えるとしますか。 

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