第1100話  てぃん?

 嫁ーずとナディア率いる妖精チームの奮闘努力により、ほんの2時間ほどでヒナとミヤにある程度の常識を教え込めた。

 ある程度と表現したのは決して間違いでは無く、主に母さん対策を徹底して叩き込んだから。

 本当に必要な一般常識に関しては、日々誰かが強制的に知識を詰め込むと、メリルから説明を受けた。

 激しい戦闘…ではなく、勉強が終ったヒナとミヤはぐったりとしていたが、それは仕方ないことだ。

 まさか母さんに対して、言ってはいけない事をうっかり言っちゃった…なんて事になったら、そっちの方が大変である。

 今の様に、知識を無理やり詰め込んだ疲れで、頭から煙が出てる方がずっとましだ。

 ましてや、この2人が母さんから色々と責められる事になろう者なら、間違いなく俺も監督責任を問われる。

 つまりは、連帯責任を取らされ、怒りの般若が降臨するのは目に見えている。

 誓って俺はマゾでは無いのだから、怒られて悦ぶような趣味は無い! そんな状況を望んではいないのだ!

 なので、対母さん用の知識を身に着ける事は、この2人にとって必須なのだ。

 俺のためではない…結果的に俺のためかもしれないけど、2人のためなのだ!

 だから、そんな2人を俺は助けたりしないよ?

 復活したら、別次元で待機してもらうのでそのつもりで。


「ご主人様…ひどい…」「このうらみ…はらさでおくべきか…」

 だから、俺の事をご主人様とか呼ぶなよヒナ。

 ってか、ミヤはうらみ念法使えたりするの? 

 ぐったりと地べたに這いつくばるヒナとミヤとは対照的に、もの凄くやりきった感溢れさせている我が家の女性陣は、何故かキラキラと輝いていた。

「ふぃ~、今日の所はこんなもので許してあげましょう」

「ですね、メリルさん。まだまだ覚えてもらわねばならない事も多いですけれど…」

「で、でも…一度に詰め込んだら…パンクしますよ、ミルシェさん…」

「ミレーラさんの言う通りです。後は家に帰ってからでも、じっくりと教え込めばいいのです」

「色々な知識を教えるは良いが、ある程度武技も教えた方が良くないか、マチルダ?」

「確かにイネス様の仰るのは当然ですね。単体で接敵する可能性もありますから」

「「「ナディアさまの言う通りです! 私達もマスターの空手技を覚えましたし!」」」

 女3人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。

 ヒナとミヤを除いても、この場には9人も居るんだから、もう会話が尽きる事は無い。

 俺は壁の染みになって、じっと黙っているのが良いだろう。

 下手に話をふられても困るし。

 そう考えた俺は、黙って外の景色を見て、この場をやり過ごすのだった。

 頼むから俺の存在を思い出さないでくれ…。


 

「むっ?」

 とある森の中で、丸っこくて黄色っぽい巨大な生物のアホ毛がピンッ! と立ち上がった。

「どした?」

「うむ、なんか…てぃん! っと来た!」

「てぃん? お前何言ってんだ?」

「ピンッ! じゃないのか?」

「そこは、やっぱり、こうポーズをとって…ずきゅぅぅぅぅぅん! だろ?」

「そこにシビれる! あこがれるぅ!」

「ヤメロ! それは危険だろ!」

「別にいいじゃねぇか。んで、何がてぃん! っと来たんだ?」

 黄色い巨大生物…いや、誰もが気付いているだろうからはっきりと言うが、つまりは人の背丈ほどもあるひよこ。

 そいつらが、何やらわらわらと集まって話し込んでいた。

「うむ、実はな…何やら予感がしたのだ!」

「悪寒?」「お母ん?」「いよかん?」「羊羹?」「股間?」「最後のは絶対に違うと思うぞ…」

 実にまとまりがない集団である。

「予感だよ、よ・か・ん!」

 最初にアホ毛を立たせたヒヨコが地団駄踏みながら大声で言った。

「「「「「いや、知ってるし」」」」」

 平然とそう断言する他のひよこに、最初のひよこはぷるぷると震え、嘴をカタカタと鳴らしながら静かに怒っていた。

「「「「「んで、何の予感?」」」」」

 ぷるぷるが、終にがたがたにまで発展し、最初のひよこが真っ赤になって怒った。

「お前等のせいで、話が進まないんだろうーがーーー!」


 ひよこが叫ぶこの森は、今日も平和だった。

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