第1012話  後でゆっくり

 人差し指の腹で上あごの内側を探るってのは、やっぱりエッチぃ感じがするな…。 

 微妙に濡れた口中を人差し指でまさぐ…じゃない、口中のスイッチを探していると、何やら微妙なぽっちが有ることに気付く。

 これがスイッチなのかな? っと、少しだけ力を込めて押してみると、カチッと何かが嚙み合ったような感触が指先に伝わった。

 どうやらこれが正解だった様だと、ほっとして指を幼女の唇の間から抜き取ろうとした瞬間、俺の右手がガッシ掴まれた。

 ギョッとして右手に目をやると、幼女の両手が俺の手を掴んでいる。

 しかも、うっすらとその両目が開き、俺を見つめているではないか!

 目覚めた瞬間に、どこの誰とも知らぬ男が口の中に指を突っ込んでいる…そんなの絶対に背筋がざわつく程に不愉快この上ないだろう。

 周りからは完全に不審者に見えるはずだ!

 この場の全員は事情を知ってるから、そうは思わないかもしれないが…。


 だが、こりゃいかん! 領民に見られでもしたら 

 すぐに指を抜かねば…っと、俺が指をその艶やかな赤い唇から引き抜こうと力を込めたのだが、何故か幼女の両手はがっしりと俺の手を掴んで、自らの口にぐいぐいと引き付ける。

 しかも次の瞬間、「…んちゅ…んん…ちゅくちゅく…んは…んちゅ…」と、俺の指に吸い付き始めた。

 いや、もしかして舐め回してるのか? 周囲の視線が、めちゃくちゃ痛いんだけど…。

 俺が縮こまり、周囲の女性陣が顔を赤くしたり眉間に青筋を立てたりしているも、少女の吸い付きは一向に止まる気配がない。

 それどころか、今では目を瞑って夢中で俺の指に吸い付いている。

 赤ちゃんがミルクを飲むために哺乳瓶に吸い付いてるみたいだな…。

 妙に力の強い横たわったままのミヤに手を掴まれ、指をしゃぶられ続けながら、俺はぼへっとそんな事を考えていた。


「んちゅんちゅ…ちゅーちゅー…」

 まだ目を閉じて夢中で俺の指に吸い付いている、黒い着物の黒髪美幼女ミヤ。

 終わること無いその吸い付きに、ボーディが少しじれてきたのかちょっとだけ強めに声を掛けた。

「おい、ミヤ。もうそろそろ、そ奴の指を放してやれ。一向に話が進まん!」

「んちゅ…んちゅ…にゅ?」

 両目をはっきりと見開いて俺の顔をじっと見つめた後、ボーディへと顔を向けた。

 ボーディの顔が怖かったからではないと思うが、視線を互いに逸らさず見つめ合ったままではあったが、やっとこさ俺の手を掴む手の力を緩めてくれた。

 ようやく手が動かせるようになったので、俺はミヤの口から指を引き抜こうとするのだが…手を引くと何故かミヤの顔も一緒に付いてくる。

 俺の指を逃すまいと、唇に力を入れている様だ。

 えっと…放してくれないかな?

「こら、いい加減にしろ! もう登録は済んだじゃろうが!」

 流石にこれにはボーディもオコなご様子で、声を荒げた。

 怒られても、涙目で俺の指を咥えたまま、いやいやと頭を振るミヤ。

 すると、モフリーナが俺の片手で俺の手を掴み、もう片方の手でミヤの頭を掴んだ。

 えっと思う間もなく、一気に力を込めて俺の手をミヤの唇の中から引っ張り出したモフリーナ。

 その時、ちゅぽんっと音がしたが、そこは聞かなかった事にした方がいいのかな?

「時間もないのですから、さっさと放しなさい。そんなにトールヴァルド様の指が美味しいなら、後でゆっくり舐めればよろしい!」

 うん、モフリーナさん…何を言ってるのかな? そんな事を言うから…ほら見ろ、ミヤがほんのりと頬を染めて俺の指を凝視してるじゃないか! なんか、めっちゃ嬉しそうだし! 変な誤解を生むだろうが!

 背筋に悪寒を感じて振り返ると、嫁ーずだけでなくナディア達の視線までもが俺の指に集中してるし!

 どうすんだよ、これ! まさか、後で全員が俺の指を舐めに来るとかないよな! 

 引き抜いた指がちょっと濡れててふやけてる様に見えるけど、まさか君達これを舐めたいのか!?

『………』

 俺の心の声が伝わったのかどうかは分からないが、食堂は沈黙に包まれた。

 濡れそぼった俺の指先に注目している。 

 むろん、俺の目の前のミヤもじっと見つめている…どうすんだ、このおかしな空気?

 すると、そんな空気をぶち破るべく、勇者が声を…いやさボーディが声をあげた。

「お主…そんなに見つめておるが、まさかミヤの舐め回した指を咥えたいのか?」

「んな事思ってねーわ、ぼけー----!」

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