第947話  勲民と貴民

 どうやら俺は父親になったらしい。

 いや、正確には、これから父親になる…なのかな?

 とにかく、メリルとミルシェにお腹の中には、俺の子供が宿ったって事だ。

 確かにヤル事ヤッてれば、そりゃいつかはこうなるのも当然だ。

 ただ、ちょっと覚悟というか現実味が無いというか、この世界は妊娠率が低いって聞いてた事もあるし…。

 その…何だ…、ちょっと驚いちゃったんだ。

 覚悟が足りないってのは、その通りだと思う。


 俺も妻を娶った男だ。

 しかもその妻は5人もいる。

 伯爵として家を初代と立ち上げたんだから、当然ながら子供は必要だ。

 この世界の貴族制ってのは、俺が地球の歴史なんかで知っている制度とはちょっと違う。貴族の長子が、そのまま家督を継げるかっていうと、それはNOだ。

 簡単に貴族って言い方をするが、この世界の貴族とには二種類存在する。

 則ち、勲民と貴民だ。

 勲民とは、元は平民であった者が、国に対して何らかの貢献が認められ、国王陛下から何らかの役職を与えられ、貴族議会への参加を許された者の事を指す。 

 こう言うと勲民は貴族と違うようにも聞こえるのだが、基本的に真面目に役職を熟していれば、必ず生涯年金付きの爵位を頂ける事になっているので、貴族と同列に見做されるので、平民はまずここを目指す。

 貴民とは、勲民から爵位を与えられた者や、爵位を持った家に生まれた子供達の事を指し、誰もが知るお貴族様の事だ。

 だからと言って、子供が簡単に爵位を継げるわけでは無い。

 これにも厳しい審査の様な物が有り、貴族会議で承認を得て、初めて爵位を継ぐことができるのだ。

 承認が出なかったら? そりゃ、有無を言わさず勲民に落される…と言うのが建前だ。

 そう、建前なのである。

 教育制度の整っていないこの世界では、識字率がそもそもかなり低い。

 四則演算なんて、識字率の低い平民には、ほぼ無理な事だ。

 昔、転移してきたばかりのユズキとユズカが、父さんの邸の使用人試験に合格したのは、ひとえに日本の義務教育のおかげであろう。

 あの時の試験内容と結果を見せてもらったのだが、計算問題は四角の面積が出せればほぼ合格ってレベル。

 貴族の子供であれば、そこそこの教育を受ける事が出来るので、それぐらいは当然出来る…真面目にやってれば。

 だけど、貴族家の生まれってだけで、変なプライドを持っている馬鹿な子供であれば、議会も承認しない。

 昔、ぶっ潰した近くの男爵家に居た馬鹿息子と娘なんか、遠からず干されていただろう。

 そもそも、貴族の爵位ってのは、それその物に生涯年金が付録でついて来るので、実際にはポンポンと数を増やせない。

 まあ、日本の議員数みたいなもんだ。

 だから、腐った貴族なんてのは、さっさと潰されるのだ。

 基本的には、大した能力ももたずに貴族家を継いだ様なガキは、必死に根回ししたり賄賂や接待攻勢で何とかして家の存続をしようとしているようだが、爵位を狙っている勲民や貴族家の子供達は、そういった事も見つけ次第議会へと密告する。

 議会で告発された貴族は、取り調べの後、問題が発覚すれば例外なくお家取り潰しのうえ、最悪極刑まであり得るのだ。

 貴族であり続ける為には、真面目に生きねばならないのだ。

 なので、実際には貴族よりも裕福な暮らしをしている平民も多くいる。

 大工房や大商会のトップとかだな。

 下手に貴族になると、間違っても議会に告発される様な事は出来ないので、周囲に気を使いっぱなしだ。

 意外と家を継がなくてもいいと親に言われて、喜ぶ貴族の子供も多いとか。 

 それだけ貴族も大変なのだよ。


 ちなみに、そう言った理由から、王家の血を引く一族であっても、必ず公爵様に成れるって事は無いんだ。

 どっかの家に空きが出なければ、ずっと生まれた家の御世話になる事になる。

 王族であっても、この辺は他の貴族と一緒であって、特別扱いはされない。

 ただ、王位継承権の第一位…王太子/女だけは次代の王となる事が決まっているが、これも議会の承認が必要。

 例え現王が強硬に推そうとも、次代の王にそぐわないものは議会の承認も得られないってわけだ。

 ま、そもそも議会に参加するために、それぞれが必死で頑張って来た者達だ。

 駄目な奴に貴重な年金付きの貴族の家の相続権など認めないから、簡単に却下する。

 だからこそ、王族だけでなく、家督を継ごうとする貴族の子供達は、幼い頃から死に学問や剣術などに打ち込むのだ。

 

 おっと、話しが逸れた。

 一応、俺はこの伯爵家の初代当主である。

 なので、俺の後を継ぐ子供はそこそこ数が必要だ。

 また、子供達にはしっかりと教育をせねばならない。

 家督を継ぎたくないと言い出されればそれまでなのだが、継ぐ継がないの意思がはっきりするまでは、しっかり教育していく必要があるのは間違いない事だろう。

 勿論、学があって困る事など無いはずだ。

 むしろ、学が無くて困った事なら、俺の経験上いっぱいあったけど…。

 家督を継がないなら、商売させたっていいし、他のそこそこいい家に婿や嫁に出すのも有りだ。

 家同士の繋がりだって強くなるだろうし、将来の孫の教育だってより良い物を与えられるかもしれない。

 だからこそ、子供は沢山必要なのだ!


『では、5席の内の2席に空きが出来ましたので、私達から2人が補充要因として順番に寝室にお邪魔いたします』

 …ナディア君、何を言ってるのかな?

『メリル様、ミルシェ様からの許可は頂いておりますが?』

 …えっと、許可貰ったの?

『はい! 勿論、他の奥様方からの許可もばっちりです!』

 …マジか…。

『あと3人の奥様も妊娠されましたら、我々妖精族で寝室を埋め尽くします!』

 …えっと…。

『ご安心ください、マスター! ちゃんと先の人魚さん騒動の時に、しっかりと見学をさせて頂きましたので、知識は十分です!』

 君達、確かにいたよね…寝室に…しかも、超至近距離のかぶりつき席で見てたね…。

『4人でしっかりと研究しました!』

 そっか、勉強熱心なんだね…。

『お任せください! では、早速今夜から寝室にお伺いいたします!』

 それはちょっと待って欲しいかな…うん、ちょっとで良いから…。

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