第880話  何か問題でも?

「そうだ、どうしてコルネちゃんには四次元ガマグチ貸して、俺には貸してくれないんだよ!」

「え? それは貴方様に信用が無いからですけど?」

「大河さんに貸し出したら、何を仕出かすか分かりませんからねぇ」

 俺の心からの叫びは、サラとリリアさんに軽く流された。

 そんなに俺って、信用無い…の? ぐすん…。


『どうも、大河さんは気付いて無いっぽい?』

『ええ、その様ですね』

 サラが半分ぐらいトールヴァルドの心中に疑いを持ってはいたが、リリアは間違いないと返答をする。

 どうやら、管理局局員の二人に対して、トールヴァルドが気を利かせたという事らしい。

『ま、この様子で有れば計画も進めて大丈夫でしょう』

『でも、本当にあの大河さんが気づいてないんですかねえ?』

 以前のトールであれば、管理局の闇に鋭く切り込む思考を見せたのだが、最近はとんと音沙汰無し。

 実に大人しいものではあるのだが、そこが反対に不気味でもある。

『何かに気づいている可能性も無くは無いですが、今の所は静観しているって事でしょうか。まあ、我々の計画に支障が無ければ問題ありません』

 リリアによる説明に、完全に納得は出来ないが、ある程度はサラにも理解は出来た。

『でも、大河さんがこの世界に転生するための受容体を誕生させるために、あんな手の込んだ事をしなくても良かった気がしますけどね』

『それには同意ですね。何も過去にまで遡ってまであんな事をするとは、局長は何を考えてるのでしょうか。時間遡行して過去に干渉するのはリスクが高いのですけれど』 

 どうやら、局長の指示により2人は過去に干渉していた様だ。

『ま、目的さえ完遂したら無ければ大丈夫っしょ! そもそも他の人がどうなろうと関係ないし』

 サラの思考は結構ドライらしい。

『サラの言う事にも一理ありますね。我々は目的の為なら手段を選ぶ必要は無いですから。ま、目的外の大勢の人がどうなろうと、我々には関係ありませんし、そもそも魂はリサイクルされますし』

『転生先が虫けらかもしれないけどねぇ』

 こんな2人の脳内会話を、トールヴァルドが知る事は無かった。


 俺は玄関ホールでのサラとリリアさんとの漫才を終えた後、またまたお仕事を頑張る事となった。

 というのも、何故か嫁ーずが俺を執務室に引っ張り込んで、書類の山の前へと連行したからだ。

 日々の仕事を熟さなきゃ、たまる一方ではあるが、嫁ーずが結構頑張ってくれているので、これでも少ない方だ。

 俺の所に回ってくる仕事ってのは、俺の決済とサインが必要な物ばかり。

 サインって面倒くさい。

 日本の時の様に、ハンコをポンッって押したら終わりにして欲しいよ。

 確か陛下には、国王の玉璽っぽいのが有ったと思うけど、勝手に1領主が真似して作ったらダメかな?

 そうすれば、嫁ーずとかにハンコ渡して楽が出来るのになぁ。

 ところで、何で昨日は優しかったん? という俺の疑問は、何故かこんな時に判明した。

「トール様は、王都では忙しかったのですね…姉上たちがご迷惑をかけたようで…」

 メリルがそう言って、俺へ労いの言葉を掛けてくれた。

「ん? ああ、あの契約の件ね…第5王女様が口を滑らしちゃったせいだけど、まぁ、仕方ないよ」

 確かに元王女様達とのやり取りは大変だった…あっ!

「そうだ、忘れてたよ! 王女様達への車も発注しなきゃ!」

 こんな大事な事忘れてたよ。

「あら、忘れてたんですの?」

 ごめんなさい、色々と考える事が多くて忘れてました。

「トール様、そんな重要な事を忘れたらダメですよ?」

 可愛らしく、俺に『めっ!』としてくれたのはミルシェ。

「うん、面目ない…父さんとの話があまりにもショッキングだったせいで…」

「ショッキング…ですか?」

「王女様達とのお約束以上の内容?」

「ああ、昨夜にコルネさんが言ってたアレですね」

「アレよりショックな事といえば…例の?」

 ミレーラにマチルダが疑問の声をあげ、メリルとイネスが何やら納得していた。

 さては、昨夜聞いたな?

 まあ、どっちにしろ嫁ーずにも関係するだろうから、ちょっと相談してみるかな。


「実は、王都で父さんと昔の戦争に関しての話をしたんだけど、その時に気になる事が有ってね…」

 俺がそう切り出すと、

「トール様、その件でしたら既に確認作業に入っております」

 マチルダがこんなことを言い出したので、

「ほぇ?」

 俺は変な声をあげてしまった。

「ええ、もう手は打っておりますわよ。例の山脈の向こう側を、ナディアさん達とハチさん達にお願いして、徹底的に調査してもらっております」

 メリルがそう説明してくれた。

 ナディア達の姿が見えないのは、そのせいか!

 しかも蜂達も一緒に行ってるって…。

 さっき、クイーンは何にも言ってなかったよな? いや、喋れないけど。

 もしかして、蜂達ってば、俺よりも嫁ーずの方が怖いから、言う事聞いた? 

 どっちも俺の眷属だよね? 

 出かける前に、俺に一言あっても良いんじゃないかな?

「何か問題でも?」

「いえ、無いです。先に手を打ってくれて、本当にありがとうございました!!」

 うん、俺を見るメリルの目ってば、ちょっと怖いかも…。 

 

 

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