第871話  俺は関係ない

 結局、コルネちゃんの鬼の追及により、父さんの悪事は全て白日の下に曝された。

 俺は、何とか父さん達に巻き込まれずに、この場をやり過ごす事が出来た。


 しかし、何だねえ…コルネちゃんが父さんを追い詰める姿って、やっぱり血の影響なのかな。

 母さん、そっくりだ。

 ユリアちゃんは、この先どうなるんだろう?

 直接的に血は繋がっていないのは、当然ながら当たり前の事なのだが、遺伝子的にコルネちゃんがベースなんだから、母さんのアレヤコレも引きついでいる可能性は、非常に高い。

 しかも、母さんやコルネちゃんの常に側に居るわけなのだから、その影響たるや絶大だ。

 今はただコルネちゃんの真似っこしているだけの可愛い幼女だが、将来的にはどうなる事やら。

 もし、母さんの様になったら…我が家の3大巨頭となり、俺や父さんのアルテアン家での立場は…最下位!?

 やばいやばいやばい!

 ユリアちゃんだけは、俺がしっかりと育てなければ!


 うむ、俺が食事もお着換えも風呂も手取り足取りしっかりと教え込んで、俺色に染め上げよう!

「お兄さま…先程から、何をブツブツと呟いているのですか? それに、私が何ですって? ユリアちゃんをどうするですって?」

 えっ?

「おにいちゃん、ねんねのときのおはなしもしてくれる?」

 おお! それは勿論…あれ?

「…トール…父さんが言うのも何だが…全部口に出てるぞ…」

 んぉ!?  

「…伯爵様。私、どうフォローして良いやら…いえ、出来ませんな…」

 はっ!?

 コルネちゃんにユリアちゃん、父さんにセルバスさん…皆揃って何言ってんの!?

「どうやらお兄さまにも正座が必要な様ですね」

 コルネちゃんの鋭く尖った先端を持つ氷柱の視線が、真っすぐに俺に突き刺さった。 

「え、俺が正座って…どうして?」

「ユリアちゃんが、将来お母さまの様になったら、何でしたっけ、鬼の追及? 私がお母さまにそっくりだと、何か問題が?」

 えっと…。

「お風呂にまで一緒に入る気ですか…ユリアちゃんと。これは、お母さまとお義姉さま方にも報告した方が良さそうですね」

「正座させて頂きます!」

 母さんだけでも怖いのに、そこに嫁ーずが加わったら…ここは素直に怒られておいた方がいいかも。

 ってか、さっき無心になれってい自分に言い聞かせたはずなのに! 

 何でこうなった!?

「では、改めてお話し致しましょうね。お父さま、お兄さま。あ、セルバスの事情聴取は終わったので、お仕事に戻っても構いませんよ。ご苦労様でした」

 俺と父さんはがっくしと首を垂れ、セルバスは申し訳なさそうに立ち去ろうとして、盛大にこけた。

 正座で足が痺れたんだね…。

 この世界の人って、基本的には地球の欧米人っぽいから、アジアの文化である正座には耐性ないもんね。

 そう言う俺だって、この世界の人に転生したんだから、あんまり耐性があるとは言えないけど。

 痺れる足を引きずりつつ、セルバスが執務室を出て行くと、コルネちゃんは改めて俺と父さんに向かってニッコリ笑い、

「では、続きを始めましょう」

「はじめまちょう!」

 コルネちゃん、怖いよ…。

 ユリアちゃんは、まだ真似っこ続けるのね…。


 その後、長い時間を俺と父さんは正座で過ごす事となった。

 コルネちゃんのお説教は、とてもコワカワイかった。

 正座さえなければ、もっとコルネちゃんの説教は受けても良いかも…とか、考えてはいないよ?

 ホントダヨ?

 あと、いけない兄妹でのSM関係が始まりそうとかも…考えて無いったら無いんだからね!

 要らん事考えてたら、せっかく正座から解放されたってのに、また逆戻りになりそうだから、そんな事は絶対に考えてません。

 さて、正座と説教の辛く長い時間を乗り越えた俺と父さんは、応接室に場を移してソファーで向かい合っていた。

 勿論、コルネちゃんとユリアちゃんも付いてきたのだが、ユリアちゃんは限界が来たらしく、コルネちゃんの膝の上で夢の中。

 俺も膝枕して欲しい所だが、ここはグッ…と我慢の子。

 セルバスとメイドさん(父さんを警戒中)が、お茶を運んで来てくれ、それぞれの前に並べられた。

 何だか、滅茶苦茶に口の仲が乾燥していたからか、ちょっと熱めお茶ではあったが、即座に唇を湿らせた。

 父さんも同じだったらしく、お茶を口にして、ほっとした顔をしていた。

 ちなみに、コルネちゃんは、もの凄い優雅にカップを口元に運んでいたのだが…その仕草は、本当に母さんそっくりだ。 


「コルネは、本当に母さんに似て来たなあ」

 ちょっと落ち着いた頃に、父さんがぽつりとそんな事をポロリと口にした。

「赤みがかった明るい金髪とか琥珀色の瞳は父さん譲りだけど、確かに仕草とか口調とかは、母さんに似て来たよねぇ」

 それについつい応えてしまった俺は、悪くないと思う。

「お母さまに? それは嬉しいですね。お母さまは、何時までも若々しく美しい、正に社交界の華ですから」

 コルネちゃんは、少しだけ嬉しそうに微笑んだが、

「そうだな。確かに容姿は俺に似たかもしれん…」

 そう言った父さんの視線が、コルネちゃんの成長途上のある部分で止まる。

 だから、それを止めろっての! バレバレだぞ。

「お父さま…今、どこを見てそう仰いましたか?」

 ほらみろ! コルネちゃんの頭にまた角が生えて来たじゃねーか!

「う”ぇ”!?」

 変な声でてるぞ、父さん。

「もう一度、お説教が必要みたいですね。そこに座ってください」

「いや、俺はもう座ってるし…」

「床に正座に決まってるでしょう!」

 馬鹿な父さん…もう、俺は関係ないからな!

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