第858話  デザインは俺

「ごほん…話を戻しましょう。この門は、ダンジョンの一画とこの邸を直接繋ぐものであり、私にしか扉は開閉できません。ここまでは良ろしいですね?」

 モフリーナが話を戻して、再確認の為に全員の顔を見まわしながら尋ねた。

 もちろん、それは全員きちんと理解していた。

「そして、この門と扉を破壊したところで、私のダンジョンへと来る事は出来ません。この門と扉は単なる飾りとでもお考え下さい」

 もちろん、これにも全員が頷く。

「この門と扉を通ると言う事は、私のダンジョン領域に入ったと言う事であり、自動的に門の先である私のダンジョンへと転送されると言う事も、ご了承ください」

 まあ、そりゃそうだわな。

「そして、この門と扉を使って、私と…いえ、パンゲア大陸に愛人がいたとしても、トールヴァルド様との逢引に使う事が無い事も、皆様に宣言しておきます」

「オイ、コラマテ! んなことするか!」 

 何をいきなり言い出すんだ、ネコ耳姉ちゃんよ!

『一番大事な事です!』

 俺の叫びに、全員が声を揃えて叫んだ…いや、大事かもしれませんけど、えっと…しませんよ、そんな事?

「大事な事なので、皆様に再度確認したまでです」

 モフリーナのポーカーフェイスは崩れない。

「ただし、パンゲア大陸で問題が起きた時などに、我々ダンジョンマスターや分身たち、教王の3人が、トールヴァルド様にご相談のためこの門を使う事がありますが、それもご了承ください」

 全員が頷く。

 俺の意見って、多分何言っても聞いてくれないんだろうなあ。


「さて、それでは皆さんが疑問に感じている事でもあるでしょうが、この門と扉に関してですが…皆様がお使いになるウルスラグナと比較してあまりにも小さいと感じませんか?」

 目の前にある扉は、塀の高さより少し小さい。

 具体的には、人族の大人の男性の身長より頭一つ分ぐらい高いぐらい。

 俺達の身長の倍はあるウルスラグナでは、当然だがそのままでは通り抜ける事は出来ない。

「しかし、ご安心ください。先ほどもご説明いたしましたが、この門も扉もあくまでも飾りです。足先でも扉を潜れば、同一個体であれば吸い込まれます。大きさも重さも関係ありません。ただ手を繋いだ程度では同一個体とは認識されませんので、その点はご安心ください」

 ドラ〇もんのポケットみたいな感じだな。

 嫁ーずもシスターズも、頭に?マークが何個も浮かんでいるが、まあそのうち体験してみたら分かるだろう。

「言葉では理解するのも難しいでしょう。受け入れ先の整備が完成次第、皆様をお招きいたしますので、その時に体験してみてください」

 俺の考えてた事、モフリーナも言ったよ。

「実際にはウルスラグナ単体では持ち込みできません。搭乗者が私の許可を得ていた場合のみ、転送いたしますのでご注意くださいませ」


「ちょっといいかな?」

 話の腰を折るようで悪いけど、ちょっと疑問があったので質問だ。

「はい、何でしょうか、トールヴァルド様」

「いや、実はな…母さんやユズカも将来ダンジョンに行きたいと言い出すと思うんだが…」

 絶対に言うよな、あの2人だったら。

「ええ、そうでしょうね。無論ですが許可いたしますよ」

「まあ、そうだろうけど…今は、お腹に子供がいるんだよ」

 俺の質問に、全員が『あっ!』と声をあげた。

「つまり、2人共妊娠しているわけなんだが、それって同一個体ってならないよな?」

 1人じゃないさ…だって君のお腹には二人の愛の結晶が…とかユズキなら言いそうだよね。

「ええ、当然ですが、お腹の中のお子様は別個体として認識されますので、今は絶対に通らないでください。というか、取れない様にしております。ご出産されましたら、お子様をお抱きになって2人分で登録いたします。もちろん御母堂とユズカ様とお子様合わせて4人ですね。ご安心ください、後日でも追加登録は可能です」

 そう言うと、嫁ーずが俄に騒がしくなったが、どうした? 

「質問です!」

 ビシッ! 手を上げたメリルへ、モフリーナが真面目な表情を崩さず、「何でしょうか?」と返す。

「もしも…もしもですよ? 妊娠している事に気付かずに扉を通ったらどうなるのでしょうか?」

 あ、そうか…まさか母体だけ転送されて胎児が残され…怖! 想像しちまったよ!

「あ、それは大丈夫です。分り易く言いますと、妊娠していた場合は、そもそも転送出来なくしております。ですので堕胎の心配もございませんので、通れると言う事、すなわち妊娠していないと言う事です」

 あ、そうなんだ…ほっとした。

「難しいお話しになりますが、この世界の女性の卵子の寿命は排卵後約12時間と言われておりまして、性交により射精された精子の寿命は約1日間と言われております。皆様が妊娠を望み願っている事は承知しておりますので、それに関しても色々とアドバイスできると思います」

 え、何その保健体育の授業似た居な知識は!? 

 俺の知ってる地球での知識より、大幅に時間と言うか期間と言うか…短いんですけど!?

「この世界での出生率は非常に低いので、人工を増やしたいパンゲア大陸ではこういった知識に関しては広く流布しております。皆様にも後程、きちんと妊娠への手引書をお渡ししますので、参考になさってください」

 も、モフリーナ、何言い出すんだ! 

 手引書だと!!?? っちゅうか、何でそんな知識持ってるんだよ!

『よろしくお願いいたします』

 ああ、うん…奥様達、とっても喜んでるね…。

 ここで俺が駄目とか言ったら、きっと…ブルブルブル…。


 ところで、俺達の目の前にある木製の門と扉だけど、実はデザインは俺。

 巨匠ロダンの地獄門を元に、人の彫刻は全てダンジョンも魔物にしてみた。

 誰もデザインに関しては、誰にも何の感想も言って貰えなかったけど…。

 デザインが最高! とか、誰か言ってくれないかなあ…さみしい…。

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