第831話  そうしよう!

 まあ、あの竜が凄い神様であるとい事が判明したとしても、それは私とリリアだけがこの世界で知っている秘密である。

 実際には、まだこの世界にその問題の神様である竜の姿はどこにも見当たらないのだから、本筋とは関係ない事である。

 では、本筋の話がどうなっているかと言うと…これが、ごくいつものトールヴァルド邸でのドタバタ喜劇と変わらない。

 はぁ…早くお役目が終わらないかなあ…。


「えっっと、サラはさっきから誰に向かって説明口調で語ってるのですか?」

 日常業務であるソファーでの昼寝の最中に、リリアが私に話しかけて来た。

 こいつは、ド変態なくせに、妙に仕事に対してだけは真面目だ。

 管理局の仕事もそうだが、この屋敷でのメイドの仕事も、日々真面目に熟している。

 今も掃除道具一式を持って、この屋敷の応接室へとやって来た…私が昼寝をしている、この応接室にだ!

 これじゃゆっくり寝れないじゃないか! まあ、静かに掃除してくれるのであれば、特に言う事も無いのだが。

「何を半開きの目で私を見ているんですか? いい加減に仕事をしないと、大奥様にいいつけますわよ?」

 んぉ!? それはやぶぁい!

 大河さんなら問題ないけど、大奥様は危険だ…。

「そう言えば、伯爵様も先ほど何か仰っておられましたわねえ…あっ! そうそう、あのダンジョン大陸でしたっけ? 違ったパンゲア大陸でしたわね、あそこの3人の王の手伝いに誰か派遣するとか何とか…後で私がサラを推薦しておきます」

 な…んだと? 推薦だと?

「何でだよ! やだよ、あんなとこに行くの! むっちゃ真面目な王女とダンジョンマスターしかいねーだろーが!」

「丁度いいではないですか。真面目に仕事しなければ、ドラゴンの餌にでもされるでしょうけれど」

 ドラゴン…って、あの島に置き去りにした竜じゃないよな? 

 モフリーナのダンジョンのあの黒竜の事だよな? 

 アレ、どっかの神様竜と違って、メチャクソでんじぇらすドラゴンだぞ!?

「さって、では私は洗濯でもしましょうかね。この部屋はサラが隅々まで掃除してくれるでしょうし」

 そう言って、リリアは掃除道具を私の前に置いた。

「ちなみに、この部屋の掃除が終わったら、次はトイレですからね?」

 ぐっ…やるしかないのか…だが、トイレなんてどうせ汚れるんだから、てけとーでいいじゃん。

「もしも汚れが残っている様でしたら、推薦してあげますから。水洗トイレだけに」

 こやつ、出来るな!?

「それじゃ、お願いしますね~。ああ、忙しい忙しい…」

 ぱたぱたと足音を残して、リリアは洗濯場のある屋敷裏へと小走りで駆けて行った。

「はぁ…仕方ない、ちゃちゃっと掃除しますかねえ…」

 面倒臭いけど、あんな真面目人間ばっかの大陸なんて行きたくねぇから、仕方ないか…。

 私は箒を手に取り、取りあえず掃き掃除に取りかかかった。

「あ、言い忘れてましたが、部屋は角まできっちり掃除する様に。丸く掃除したら、折檻ですからね?」

 開いたままだった扉から、リリアが顔を出すと、そう言ってまた廊下を小走りで駆けて行った。

 あいつ、何時の間に戻って来たんだ? 

「はぁ………」

 長い溜息を付いて、私は部屋の隅っこから掃除を始めるのであった。



 お、俺は決して第5王女様であるマーリア様とメリルとが勝手にした約束を忘れてたりはしてないぞ?

 忘れるもんか! 忘れたらあの王妃連合の鞭打ち刑が…もう1回ぐらい受けてもいいかな?

 いやいや、駄目だ駄目だ! 

 最中は、ちょっと気持ちよ…い、痛かったんだから! 2度と受けたくないぞ! 

 ホントニ、ホントダヨ?

 冗談はさておき、王家に献上した蒸気機関搭載の小型バギーのカスタムカーを考えなきゃなあ。

 メリルが勝手に約束したとはいえ、あれもCM料の一種と思えば安い物。

 だけど、何の案も持たずにドワーフ親方のところで話し込むと、また興が乗って長時間あーだこーだしそうだから、ある程度の案は練っておかねばな。

 とは言え、王家に献上したのは、ユリアちゃんが持つきつねさん号とはちょっと形状が違う。

 基本、操縦席は1人乗りだ。

 地球でお馴染のオフロード用の4輪バギーそっくりで、ハンドルはバイクと同じ形状できつねさん号の廉価版。

 対してユリアちゃんのきつねさん号は、助手席もある2人乗りで車と同じく丸いハンドルが付いている、高級仕様。

 どちらも悪路走行に向いているとはいえ、これが大きく異なる為、どっちをベースにするべきかが問題かもしれない。

 きつねさん号などマーリア様は見た事が無いのだから、王家に献上したバギーをベースにすれば良いような物だが、もしも王都にユリアちゃんが帰った時に、きつねさん号をマーリア様が見たらどう思うだろう?

 ううむ…ここは一層の事、きつねさん号をすっとばして、コルネちゃんのくまさん号をベースにしちゃおうか?

 王都って基本的に走破性能が必要な程には道も荒れてないし、そもそも王女様が車を運転して王都外に出る事も無いはずだから…嫁のうさぎさん号やコルネちゃんのくまさん号と同等品にしとくか。

 うん、そうしよう!


 ところで、今度の車には、何て名前にすべか?

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