第784話  忘れちゃったかな?

 長いトンネルを抜けると、そこは俺の領地への入り口。

 決して雪国とかでは無い。

 まあ、そもそも雪が積もった事など無いし、雪景色なんてものは、高い山の天辺ぐらいにしか無い分けなんだが。

 このトンネルを抜けて、ネス湖が一望出来る瞬間がとてもきれいなので、コルネちゃんに頼んでユリアちゃんを起こしてもらう。

 結局、トンネルの中は、ほとんど寝てたな…ユリアちゃん。

 あ、母さんも寝てたけど…まあ、母さんは寝かせておこう。

「なぁにぃ…おねえちゃん…」

 おっと、ユリアちゃんが起きた様だ。

「もうすぐお兄さまの領地に着きますわよ。このトンネルから出た時に見える景色が最高だから、ちょっと起こしたの」

 そう言って、コルネちゃんはフロントガラスの向こうを指さす。

 それに釣られる様にユリアちゃんが前を向いた瞬間、トンネルを抜けて太陽の光の中へと俺達は飛び出した。


 眼下に広がる陽光をキラキラと反射するネス湖の湖面。

 もちろん、すぐに衛士さん達の立つ街門があるのだが、それでもその門を通して見える絶景は、何度見ても飽きないものだ。

 ユリアちゃんも、「うわぁ! うわぁ~!」と、大興奮。

 母さんもゴソゴソと起き出して、席の間から景色を見ている様だ。

 ちなみに、まだナディアは寝てるようだ…結構、神経図太いな、こいつ。

 

 衛士さんは、俺の顔を見ると、何も言わずに敬礼。

 まあ、俺は街のトップでもあるし、そもそも彼等の上司にあたる訳だから、顔を知らないわけが無い。

 取りあえず対応してくれた衛士さんには、ご苦労様と声を掛けつつ、今夜の数人分の酒代程度のチップ(賄賂じゃないよ?)を握らせておいた。

 手の中のチップを見て、とてもにこやかな笑顔で俺達を見送ってくれた衛士さん達に、コルネちゃんは小さく上品に、ユリアちゃんも元気いっぱいに手を振った。

 母さんの顔を見た瞬間、衛士さんが滅茶苦茶緊張しちゃってたので、思わず俺は苦笑いしちゃったよ。

 街門を通り抜けると、温泉スパリゾートの中にある街道を、またしゅぽしゅぽとのんびり車を走らせ、て領主館を一路目指す。

 色とりどりの温泉街の土産物屋さんに目を輝かせ、右見て左見てと忙しいユリアちゃん。後でゆっくりと街を案内してあげよう。

 そう言えば、ダンジョン体験できるアトラクションもあるけど、あそこにか行かない様にさせなきゃな。

 ユリアちゃんが全力だしたら、アトラクションが無茶苦茶になる。

 前も本物のダンジョンでワイバーンとか一方的にボコってたんだから、絶対に偽物には行かせないてはいけない。

 もしも暴れたいというなら、嫁ーずとコルネちゃんで、また本物のダンジョンにでも行かせるとするか。

 モフリーナに迷惑かける事になるけど、そうで無きゃこのスーパー幼女に街ごと破壊されかねんからな。


 街を抜けてネス湖の湖畔を横に見ながら走ると、ネス湖に突き出す形で建つ俺の屋敷の全貌が見えて来る。

 さすがカリ〇ストロの城をイメージしながら創った俺の屋敷だけあって、ユリアちゃんにも大好評。

 コルネちゃんが、「あそこで暫く暮らすのよ」と教えてあげると、またもやジッタンバタンとユリアちゃん大興奮。

 いや、ユリアちゃん…あんた来た事あるでしょうに…。

 確か目覚めて最初に連れてきたのが、俺の家だったでしょ? 忘れちゃったかな?

 いや、正直に言うと、俺も忘れちゃってたんだけどさ。

 まだ子供だからねえ。

 もしかして王都暮らしが長すぎて、俺の家とか忘れてても不思議じゃないけどさ。

 あ、コルネちゃんも、それに思い至ったのか、ちょっと微妙な顔してる。

 いや、単に暴れるユリアちゃんのヒップ攻撃で太腿が痛いだけなのかな?

 まあ、もうすぐ着くから、ちょっとだけ我慢してね。

 

 そのまま蒸気自動車は俺の屋敷の門を通り、玄関前の噴水っぽい物があるロータリーを時計回りに進み、玄関前へ。

 そこには、俺達を出迎える為に、屋敷の全員が勢揃いしていた。

 蒸気自動車を降りた俺が、後部座席に座る母さんをエスコートしつつ降ろしていると、ナディアは反対側から降りてきた。

 コルネちゃんとユリアちゃんの座る助手席のドアを開けて、5人で玄関前へと進むと、メリルが真ん中で優雅に頭を下げて言った。

「ようこそ、トールヴァルド城へ!」

 メリルに続いて残るメンバーも、

『ようこそ、トールヴァルド城へ!』

 と、声を合わせて歓迎の言葉の大合唱。


 いや、待てって!

 いつの間にこの屋敷に名前が付いたんだよ!

 しかもトールヴァルド邸じゃなく、何で城なんだよ!

 城は不味いよ、城は!

 確かに城をイメージして創ったけども、城って言っちゃ不味いでしょ!

 せめてトールヴァルド邸にして下さい、マジでお願いします。

 こんなの聞かれたら、俺が陛下に怒られちゃうから、マジ頼んます!




※こっそり新作投稿しています。

 姫様はおかたいのがお好き

 https://kakuyomu.jp/works/16817139558018401730

 不定期更新ですが、( `・∀・´)ノヨロシクオネガイシマス!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る