第761話 将来有望そうな少年
「王妃殿下、お待たせして申し訳ございません」
俺と父さんが、入室と同時にそう言って深々と頭を下げたが、王妃様達はにこやかに笑って、
「あらあら、そんな事は気にされずとも良いのですよ、アルテアン侯爵、アルテアン伯爵」
この人は第一王妃だったな。
「ええ、そうですよお二方。私達も久しぶりにメリルとお話をして、楽しい時間を過ごしておりましたから。それに伯爵は私の義理とはいえ息子ですから、そんなに気にせずとも良いのですよ」
この人が、メリルの実母にして、第三王妃様。
「その通りですわ、アルテアン伯爵。この子にとっても、良いお話が聞けたと思います」
お初の少年を隣に座らせた第二王妃様が、少年の頭を優しく撫でながらそう言った。
ほう、退屈な時間で無かったのであれば、それは大変結構なことでございますが…その子誰?
王妃様方の前でちょっと不敬かもしれないけどな。
「ああ、伯爵と侯爵は初見でしたわね。この子は私の妹の子で、名をサンテーリ・デ・ヴァルトネンと申しますの。ほら、サンテーリ、ご挨拶なさい」
う~む、どうやら親戚のお子様…第二王妃様の甥っ子って事かな?
そんなんことを考えていると、ソファーから床に降り立った少年が、俺と父さんに向かって、
「アルテアン侯爵様、アルテアン伯爵様。お二方の御尊名は、かねてより伺っており、かねてより一度お会いしたいと思っておりました。僕はサンテーリ・デ・ヴァルトネンと申しまして、今年で8歳になります。お二方とも、今後ともよろしくお願い致します」
うん、とても一生懸命に挨拶してくれました。
「これはご丁寧な挨拶痛み入ります。私がヴァルナル・デ・アルテアンで御座います。陛下より侯爵位を賜っております」
「お初にお目にかかります、トールヴァルド・デ・アルテアンで御座います。伯爵位を賜っておりますが、まだまだ私も未熟者故、その様なご丁寧な挨拶は不要でございますよ、サンテーリ様」
父さんときちんと返礼をし、片膝をついて頭を下げたのだが…少年はびっくりした顔してる。
「お二方とも、お立ちになって楽にして下さいな。まだこの子もこういった場には慣れておりませんので、高名なお二方に跪かれては緊張してしまいますわ」
そう言って、第二王妃様は俺達に席を勧めると同時に、サンテーリ少年をまた隣に座らせた。
うん、まだあどけなさが残るが、将来はかなりのイケメンに成りそうな少年だ。
「それで、実はお二方…いえ、アルテアン侯爵にお話がございますの。よろしければ少しだけお時間を頂けないかしら?」
もの凄くまじめな顔で父さんにそう言う第二王妃様であったが、あのすまし顔は絶対何か隠してる。
俺の心がそう囁いている。
いつも家で見てる嫁達や、子供の時から見て来た母さんの顔と同じだ。
あんな顔の時は、絶対絶対ぜ~~ったいに、何か裏が有るのだ。
俺にはそんな嘘は通じんぞ!
だって、今までさんざん騙されてきたから…母さんにも嫁達にも…。
その後、第二王妃様より、本日の本題が父さんに告げられた。
サンテーリ君は、ヴァルトネン伯爵家の三男坊らしい。
そして本日彼の少年がここに同席したのは…
「それでアルテアン侯爵、この子をあなたの家の末娘…ユリアーネ譲と是非ともお見合いなどいかがかと思って、この場に同席させたんですの。いかがかしら?」
「う゛ぇ!?」
それを聞いて絶叫したのは、誰あろうこの俺だ。
父さんも、
「え、ユリアちゃ…ユリアーネと、お見合…い?」
そう言って、固まってしまった。
王家からの見合いの申し込みとか、簡単に断れるはずもない。
年齢的には…確かに釣り合いが取れてるかもしれないし、見た目は…まあ、将来有望だけど…、そもそもあのユリアちゃんにお見合いだと?
たまに会うと、「おにいちゃ~~~ん!」と天使の笑顔全開で俺の胸に飛び込んでくる、あのユリアちゃんだぞ? 真正面から受け止めたら肋骨が折れそうなパワーのユリアちゃんだぞ?
そりゃ世界で1、2を争う美少女ユリアちゃんだが、もし見合いしたとして、サンテーリ少年の様なごく普通の人とって大丈夫なのか? ケガさせたりしないか?
ユリアちゃんと普通に付き合えるのは、我が家の面々と父さんの屋敷の人ぐらいなもんだぞ?
城付きの騎士でさえ、素手でぶっ飛ばすスーパーウルトラ幼女だぞ?
あんな少年なんか、経絡秘孔を突くまでもなく、指先1つでダウンだぞ?
ま、まあ…まだユリアちゃんには見合いなんて早いし、父さんも断るだろうけど…。
「第二王妃様のお言葉で有れば、サンテーリ殿と我が家の末娘ユリアーネの見合いに関しては前向きに検討したいとは思いますが…王妃様達は、ユリアーネの事をご存じでしょうか?」
あ、そうか。
我が家のスーパーウルトラ超絶美幼女ユリアちゃんの事を、もしかしたら知らないかもしれない!
「存じておりますわよ。何度か訓練場で元気に走り回っております姿を見かけましたから」
ちょっと、第一王妃様、知ってるの!?
ってか、それって元気いっぱいに走り回って周囲の騎士さん達をピチュンしてた時じゃない?
「ええ、私も見かけましたわ。とてもいい笑顔でしたわよね」
第二王妃様!?
それって騎士たちを殴り飛ばして楽しんでたのでは?
いや、ストレス発散出来て嬉しかった時かも!
「そうねえ…私があった時は、コルネリアに手を引かれ後を付いて王城内を歩く、とても笑顔の素敵な可愛らしいお嬢さんだったわね」
第三王妃様! ってか、義母様!
それは、ユリアちゃんが勝手に走り回らない様に、コルネちゃんが必死に手を掴んでるだけだよ!
王城だったら、珍しい物があちこちに有るから、わくわくして良い笑顔だっただけだよ!
今にも走り出しそうなユリアちゃんを、必死になって手を握って繋ぎ止めてたコルネちゃんの顔は見た? 見てないでしょう?
きっと、コルネちゃんの顔…大変な事になってたと思うよ!?
「はぁ…」
父さん、そんな生返事で良いのか?
きっと、お見合いなんかしたら、あの少年死ぬぞ?
嫁ーず…を振り返ると、全員がヤレヤレって顔してるけど、もしかして諦めちゃったのか?
なあ、それてあの少年の死へのカウントダウンが始まるって事だぞ!?
ちょ、誰かなんとか言えよ!
って、俺が言えばいいのか。
「んん…ごほん。王妃様方、ユリアーネへの見合いの申し込み、私共も大変驚いておりますゆえ、ぜひ一度家に持ち帰り、この場に不在の母を交えまして検討させていただけないかと思う次第であります」
どっかの政治家みたいな言葉を吐き出すだけで精いっぱいでした。
もう不敬とか知るか!
※こっそり新作投稿しています。
姫様はおかたいのがお好き
https://kakuyomu.jp/works/16817139558018401730
不定期更新ですが、( `・∀・´)ノヨロシクオネガイシマス!
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