第722話  くんかくんか

 ホワイト・オルター号を無事に練兵場の真ん中に着陸された俺は、慌ててタラップを降ろしてキャビンから飛び出した。

 それは勿論、無事に着陸していたのを見てはいたが、コルネちゃんとユリアちゃんが心配だったから。

 飛行中は妖精さん達の最強シールドと精霊さんの強力結界に護られているはずだから、2人に怪我なんてあるはずないのは分り切っているのだが、やはりお兄ちゃんは心配なのです!

 2人の降下中に妖精さん達は姿を消していたし、精霊さんは一般人の目には元々映らない…というか見えない。

 とは言え、あの美しい精霊さんの羽は、きっと上空では陽の光を受けてキラキラと輝いていただろうし、それを多くの騎士さん達は見ていただろう。

 まあ、それも空を飛ぶ魔法の副作用的な物として受け取っているかも知れないが。

 それとも同じく降下中のホワイト・オルター号の巨大な姿に視界を奪われ見ていなかったかもしれないけど。


 飛行船を降下させながら外を見ていると、2人は騎士さん達の側に無事に降りて、その中の1人の騎士さんに駆け寄っていた。

 真っ黒で禍々しい鎧と巨大な両手剣を背負った特徴的なその姿は、間違いなく父さんであるヴァルナル・デ・アルテアン侯爵その人でああり、俺とコルネちゃんの実父であり、ユリアちゃんの義父である。

 あ、ユリアちゃんは本当の父親だと思ってるよ。もちろん母さんの事も、実の母親だと思っている。

 その様に記憶を操作したからであり、この事は家族と王家と、ごく一部の人しか知らない。

 まあ、侯爵家の家族構成なんてものは、そうそう一般人が知る機会も無いので、すんなりユリアちゃんは我が家の一員として世間では認められている。

 最近では城付きの騎士さん達に、超絶魔法と超絶パワーを兼ね備えたスーパー幼女と認識されているそうだが、これも変身後に魔法が大得意なコルネちゃんと、巨大な剣を振り回す筋肉馬鹿の父さんが側に居るからか、だーれも変に思って無いそうだ。

 ま、女神ネス様の使徒である俺と巫女であるコルネリアの妹であり、神子であるユリアーネ。

 多少、常識から外れてても、あの一家の子供ならそんなもんか…って感じなんだろうな。


 タラップを駆けおりた俺は、一直線にコルネちゃんとユリアちゃんの元へと走った。

 いや、俺の視界から強制排除していたが、黒い鎧の父さんが2人の後ろに立ってたそうだ。

 そんなオッサンよりも、可愛い可愛い妹達を抱きしめねばならない! 

 すでに変身を解いた2人に駆け寄り、まとめてぎゅっっと抱きしめた俺は、

「危ない事しちゃ駄目じゃないか!」

 ちょこっと怒ってみたが、2人からは、

「お兄さま、あれぐらい危ないわけが無いではないですか」

「あぶなくないよー?」

 きっぱりと言い切られてしまいました。

「トールよ…久しぶりだな」

 視界から排除していたはずの父さんから声が掛かる。

「あ、うん…久しぶり」

 現在、俺の視界は愛妹で占められてます。もちろん、くんかくんか臭いも堪能中。

 この幸せな時間を、父さんなど視界に入れて壊されたくないので、一瞥もくれてやる気は御座いませんが、なにか?

「いや、トール、こっちを見ろって!」

 五月蠅いよ、オッサン!

「母さんが待ってるから、すぐに屋敷に行くぞ。おお、皆も元気そうだな」

 俺の後ろからやって来た嫁ーずを見た父さんが何か言ってるけど、無視だ無視!

「お義父様もご健勝そうで何よりです」「お久しぶりです、お義父様」「お…お元気そうで…なによりで…す」「ご無沙汰しております、お義父様」「是非、お時間ある時に一手ご教授ください!」

 うん、メリル、ミルシェ、ミレーラ、マチルダ、イネスも順に言葉を返していたが…イネス、それは何か違うと思う。

 ま、どんな顔して言ってるのか見てないから知らんけど。


「お兄さま、恥ずかしいので、もう放してください」

「おにいちゃん、ちょっといたいよ?」

 おお、我が最愛の妹達から、そんな言葉を聞くとは!

「コルネちゃん、恥ずかしくなんて無いぞ~? ユリアちゃん、痛かった? もっと優しく抱きしめるね」

 と、俺が言うや否や、

『そういう問題じゃない!』

 嫁ーずどころか、父さんも、周りの騎士さんも、一斉に口を揃えてそう言った。

「え~? でも、この世界の法律にも、愛する妹は時と場合に関係なく、抱きしめて良いって書かれてるじゃん!」  

『絶対にそんな法律は無い!』

 またもや全員が口を揃えてそう言った。

 そっか、無いのか法律…んじゃ作ればいいかな、ネスの強権でもって。

「トール様が何を考えてるのか想像は付きますが、駄目ですよ?」

 俺が言い出す前に、メリルによって止められてしまった…しくしく…。


「ところでトールよ、あの後ろにふよふよ飛んでいるのは何だ?」

 キャビンから降りて来た嫁ーず、ナディア、天鬼族3人娘の後ろを、ふよふよ飛びながら付いて来たもっち君を、父さんは不思議そうな顔で指さして俺に尋ねて来た。

「ん? ああ、もっち君」

 そんな質問に答える暇など、俺には無いのだ!

 今この瞬間は、妹達を心行くまで堪能しなければ!

『だから、それを止めろ!』

 そんな俺に、またもやこの場全員が声を揃えて言った。

 

 何で声が揃ってるんだろう? どっかにカンペでもあるのかな?

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