第695話  最重要区画

 扉の先にある部屋は、壁や天井だけでなく調度品までもがほぼ白色で統一されていて、さながら病院の様だった。

 いや、実際の地球の病院は白っていうか淡色系の壁とかカーテンになっていて、白い巨塔なんてイメージは古いんだけど。

 最近では、ナース服だって紺色や臙脂色や緑色って具合に、とてもカラフル。

 病院というと白ってイメージするのは、もはや中高年齢層だけなのかもしれない…あと、アダルティーなでーぶいでーの中とか…。

 とにかく、部屋の証明は明るく、淡いグレーやクリーム色の調度品とかは、真っ白に見えるぐらいだった。

 清潔感と妙な神聖っぽさが出てて良いのではないでしょうか。

 ここって結局のところ、ダンジョン大陸を統治するための王様を製造する場所。

 つまりは、一種の実験室とか研究施設みたいな物なんだから、汚いよりもは良いはずだ。


 な~んて具合に俺が他愛も無い事を考えていると、

「皆様、ダンジョンの最重要区画の入り口へようこそ」

 モフリーナが、とんでもない事を口にした。

「さ、最重要区画だと!?」

 驚いた俺が叫ぶと、

「はい。この先の部屋には、私、モフレンダさん、ボーディ様の所有するダンジョンコアが据え置かれております。この先が襲撃されてコアを破壊されますと、私達は消えます。それゆえ、最重要区画の入り口と申し上げたのです」

「いやいやいやいやいや! そんな所に人を招き入れるなよ! 俺達が場所を誰かに漏らしたらどうすんだよ!」

 そんな機密情報を俺達に言うなんて、危険すぎるだろ!

 例え身内であろうとも、絶対に言うべき事柄じゃない!

「え? 別に誰かに言っても大丈夫ですけれども?」

「へっ、何で?」

 ばれたら襲われるだろうがよ、コアが!

「いえ、先程の扉を通り抜けた時に、ここに転移いたしましたので…正確なこの部屋の座標は分からないと思います」

 マジか!? 転送って、妙な感じに一瞬なるはずなのに、気付けなかった!


 ちょっと待てよ…ここは頭の良さそうな人に確認してみるか。

 おーーーい、リリアさんや~い!

『はいはい、何ですか?』

 ここの正確な座標ってわかるの?

『それがですねえ…どうやったのかは分りませんが、座標情報が読み取れません』

 ほう…リリアさんでも分からないと?

『その言い方には、ちょっと引っかかるものがありますね…まあ、いいですけど。どうもこの部屋は、一定のアルゴリズムで次元を変えている様です』

 なんか理解が追い付かなくなってきた…

『あのダンジョンマスターのみが知り得るコードを用いて、特定の乱数テーブルを参照した三次元座標を計算してその都度座標を変えている様です』

 あ、もういいです…難しすぎて理解できません。

『実際には、そこに時間軸を…って、もう分からないのですか? まだとっかかりに過ぎないのですが?』

 ごめんなさい。もう全然わかりません!

 つまり、誰かにこの部屋の事を言った所で、ここに独力でたどり着く事は出来ないって事でいいのかな?

『実に簡単ですが、そんな風に思っていただいて大丈夫かと』

 りょうかい、りょーーーーかい!


「なるほど…その様な最重要区画へと、我が家一同を招待してくれたという分けか。モフリーナ、礼を言う。ありがとう」

 こんな時は素直に頭を下げるべし! 処世術とはそういうもんだ。

「いえ、お気になさらず。さて、それではもう少しだけ先へと進みましょう。皆が待っていますので」

 そう言えば、我が家のメンバーがやけに静かだなぁ…っと、考えて振り返ると、

「真っ白…」「どこでしょうかねえ?」「な…何ですか、ここは…」「こういう色使いの部屋も良いですねえ」「目が…目がぁぁぁ!」 

 嫁ーずは、辺りをキョロキョロ。

 ってか、イネスよ…そのネタはどこで仕入れたんだ?

「病院?」「馬鹿ね、柚希。これはラボって言うのよ」

 ユズユズは放っといて、

「この部屋はのんだべ?」「見くとぅなまでんかいしぃるね!」「掃除のえらいだない?」「目のチカチカしゅるばい!」

 ドワーフメイド衆は、何言ってるのか分からん。

「……………」

 ナディアは、何で無言なのかな? まさか、寝てる?

 ま、どうやら全員何ともないようだし、さっさと進みますかね。


「それじゃ、モフリーナ。先を案内してもらおうか」

「はい、畏まりました」

 先を促すと、真っ白な部屋の中を音もたてずに歩き始めた。

 その背中を見ながら、俺はただついて行くのみ。

 もう、ここまで来たら覚悟は完璧に決まりましたからね。

 付けてやろうじゃないか、すんばらしい名前を、王様とやらに! 

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