第646話  こりゃ駄目だ…

 皇都のゾンビにヒルコにテスカトリポカと、遥か遠くの空の下で行われていた、我が家の総力をあげた戦いの一部始終を、父さんと2人がかり(ほとんど俺だけど)で説明と報告した俺達は、労いの言葉を2人から頂き、ほっと息をついた。


 まあ…結局のところ、ここの兵隊さんは、あの悍ましい化け物の姿を見ていないんだから、後程この偉いさん2人から色々と説明されたところで、現実味は無いだろう。

 実際にあの化け物山クラゲを見た両軍のトップだって、倒した場面は見てないんだしね。


 何て事を考えていると、べダム首長から、

「使途殿は、またもやこの世界を滅ぼしかねない怪物を相手にしていたのだな…。そして最終的には、地下深くに封印したと」

「ええ…それも全て女神の御導きです」

 もう何でもネス様の~で通した方が楽だ。

「つまりは、その化け物は地下の世界に、今だ存在すると言う事なのだな。女神様がおられる天の世界とは真逆な地の底の暗い世界に」

 ん? 

「我がアーテリオス神国に伝わる太陽神様の聖文通りであるな」 

「聖文?」

 って、キリスト教の聖書とか、ユダヤ教の正典とか、イスラム教の啓典の様な物だろうか? 

「使途殿は御存じない? そうか、女神様と言葉を交わせる使途殿には、その様なものは不要と言う事か…」

 何やらべダムさんがぶつぶつ言ってるけど、全部聞こえてるからね?

「いや、失礼。実は、我が国に古くより伝わる、太陽神様の聖なる言葉や歴史を綴った聖文という物があるのですが、そこにこの様な文があるのですよ。その内容とは………」

 と言って、滔々と霊験あらたかなお言葉がずらずらと語られた。

 まあ、内容なんて軽く聞き流していた俺(罰当たり)な訳だが、どうにも聞き逃せない言葉があった。

「……そして、神々は御自らお住まいになられる光の国と、我々が住むこの地の国と、悪を成す者が住む暗黒の国を創りたもうて、それぞれ住分けさせることに……」

 この部分が、ちょっとだけ引っかかった。

 流石に元聖騎士さん。宗教関係は勉強済みって事らしい。

 つまりは、この世界の宗教にも、天国と地獄とかきっちりとあるんだなぁ。

 そう言えば、呼び方は違えど、地球でも多くの宗教で天国とか地獄ってあったよなあ。


 何故か語っている内に興奮してきたのか、べダムさん立ち上がって、

「そして、使徒トールヴァルド殿とアルテアン卿は、この地の国に害悪となる化け物を、暗黒の世界に送り封印した! これは聖文に、新たな歴史を刻むときが来たのです! 広く我が国に流布せねばならない、一大事です!」

「「いやいやいやいやいやいや!」」

 俺と父さんは慌てて両手をフリフリ、全身全霊で否定した。

「おお、それはいい! わが国でも、この功績は讃えるべきだ!」

 ウェスリー王子まで、便乗して来た。

「「いやいやいやいやいやいや!」」

 もう、俺も父さんも顔だけでなく全身汗でぐっちょり濡れながら、全力で拒否!

 だって、そもそもヒルコは精霊さんと管理局の力がほとんどだし、テスカポリトカを地の底に落したのなんて、ボーディとカジマギーのダンジョン作成能力のおかげだぞ?

 俺達が讃えられるような事なんて、これっぽっちもしてねーから!

「そう謙遜なされるな、使途殿。きちんと功績が皆に伝わる様に教会関係者に書かせますし、私が自ら校正しますので、どうかご安心ください」

 べダムーーー! 俺達はさっきから、拒否ってるだろうが!

「うむ、トールヴァルド伯爵、並びにアルテアン侯爵の全功績と此度の最悪の神の敵との戦い…帰国したらすぐに本にしよう! そうだ、戯曲にして…いや、芝居にして舞台で演劇とするのも良いな…陛下にお伺いをたてねば…」

 この馬鹿王子がーー! そんなの陛下の耳に入れたら、喜んで実行するだろうがーーー!

「おお! それは良い考えだ、王子殿下! 是非ともわが国でも舞台にしよう! わが国には良い劇団がおりましてな…」

「ほう、それはそれは! 我が国にも相応しい劇団が…どうですかな、いっそうの事、使途殿のこれまでの人生を3部作ぐらいに分けて公演するというのは?」

「いや、4部作ぐらいにして、両国で交互に公演すれば、人の行き来も増えるかもしれませぬ」

「なるほど! そうすると、部隊を見たい者達は両国間を行き来する事になって、税収も増えると…しかし交通は…」

「そこはアルテアン卿のところの大型蒸気自動車で定期便を…」

「なるほど、そこでも税収が…」

「「ふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふ…」」

 俺達をネタに、勝手に2人で盛り上がって居ました。

 こりゃ駄目だ… 


「なぁ…トール…アレ、どうする?」

 青い顔した父さんが俺にきいて来たけど、んなもん答えは1つしかないだろう。

「父さん、諦めよう…おれはもう、諦めた…」

「そっかぁ…」

 父さん、天を仰ぎ、目を閉じた。

 ってか、あの不思議電波娘、ポリンちゃんの話はどうなった!?

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