第609話 それではご一緒に
*新作始めました。
闇を照らす陽の如く 断罪の刃
https://kakuyomu.jp/works/16816927861644288297
良かったら、読んでみてください。
ヒルコは、漸く自分が結界に閉じ込められた事を理解したのだろうか? 少しだけ動きが激しくなって来た。
いや、そんな知能はあいつには無いはずだ。
昨夜、このヒミコとの決戦を前にして、事前に管理局のデータベースから生態に関して出来るだけ多くの知識を、サラに色々と引っ張って来てもらっているのだ。
それによると、このヒルコには、おおよそ知性と呼べるような物は無い。
本能の赴くままに動いているだけなのだと言う。
生物を捕食するのは栄養素を補うためであり、生存本能に基づく物なのだという。
乾燥…つまり、乾季に種の様な状態になるのも、体表面積を小さくして表皮を硬い殻にする事で、水分の蒸発を防ぐためであり、やはりこれも生きる為。
穴を掘って中で獲物が落ちるのを待つのも、ひたすら省エネに徹しているから。
もう、とことん自らが生きる為だけに生きているという、変な生物なのだ。
そんなおかしな生物だが、蟲たちに寄生されたがため、食欲というか餌の捕食にだけは積極的になった様だ。
多分、ヒルコの動きが激しくなっているのは、単に生き残る為にシールドの穴を探しているのだろう。
もしかすると、何の知性も無く徹頭徹尾省エネを貫くこのおかしな生物に寄生してしまったあの蟲達は不幸だったのかもしれない。
今は、ひたすら獲物を求めて皇都へと突き進んでいるのだから、ダンジョンマスターの思惑とも全く逆になってしまっている。
だが、幾ら知性が無いとはいえ、手当たり次第に生物を捕食するこの危険な生物を、俺は生かしておくわけには行かない。
ってかさ、何でこんな危険な生き物が皇都の側に居たってのに、誰も気が付かなかったんだろうな。
もし気が付いていたら、ヒルコを討伐する事だって出来たはずなのに。
まあ、この世界の文献にもほとんど載って無いような珍しい生き物だから、気が付かなかったのかもしれないが。
ヒルコを閉じ込めたシールドに向かい、俺はその歩みを速めた。
そして、半球状になったシールドにたどり着く頃には、俺は全速力で走っており、俺は一気にそれを駆けあがる。
時速にしたら、体感で80km/h近く出てるんじゃないだろうか?
確か100mを10秒で走ったとして、36km/hだよな?
前世では走れるわけ無かったけど、なんとなくその倍以上は速い気がするんだよ。
気の所為かなぁ?
とにかく、ほぼ垂直の最下部から一気に駆け上がり、頂点にたどり着居あた俺は、半透明な結界から真下のヒルコを見る。
うん、真上から見ても全然わからん。
だって巨大すぎて、視界いっぱいに赤色の半透明なゼリー状の山にしか見えない。
ただ、そのゼリーの中に…滅茶苦茶白い蟲がぎっちり詰まってる。
触手があるとはいえ、どうもあまり伸ばす事は出来ない様で、よ~っく見たら足の短いクラゲの様だ。
うん、観察終わり。
いくら見てても、結局はこいつが何なのか、全然わからん! という事がわかっただけだな。
さっさと燃やすとしよう。
俺が創ったメタンハイドレートと石油を不思議パワーで合成した、新型の燃料が封じ込めてあるカードを取り出した。
カードを…えっと、あ! あった、あった。
何故にカードなのかというと、これは実はヒルコの物だからだ。
つまり、俺の手を離れたカードが、ヒルコに接触した瞬間に、元の状態に戻るように創造したってわけだ。
さて、このシールドの1カ所には、このカードを通過させることが出来るポイントがあるので、そこからあのゼリーの山の頂上に投下。
カードがゼリーに触れた瞬間、ソレはドバッ! っと、大量の可燃物質へと変わり、ゼリー本体をしとどに濡らした。
ってか、量が多すぎたかな? 結界下部が燃料の池みたいになってる。
お次は、火の精霊さんに着火をしていただく。
俺はちょっと危ないので、退避いたしましょう。
結界ドームからの帰りは、ドでかい滑り台。
角度は凶悪そのものだけど…とにかく、さっさと地面に降りる。
メタルガードを装着してるからできる荒業だ。
んで、地面に着いたら、とっとこ離れて…っと。
んじゃ、火の精霊さんスタンバイ!
風の精霊さん、水の精霊さんも準備は良いかな?
土の精霊さん…は、すでにあいつの真下を含めて周辺の土壌を固めてくれてるのね? OK! それを維持してて下さい。
さあさあ、どちらさんも準備はよろしいですね?
それではご一緒に唱和願います。
いきますよ~?
「震え〇ぞハート! 燃え〇きるほどヒート! おおおおおっ…刻〇ぞ血液のビート!」
俺の魂の叫びを合図に、火の精霊さんが燃料に点火!
直後に至近距離にICBMが撃ち込まれたかの様な爆音と、真っ赤に燃え上がる紅い炎が結界の内部を蹂躙した。
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