第549話  まだまだ子供だなあ

 いつもの我が家のメンバーが大集合した、ホワイト・オルター号。

 きちんと偵察という名目で、フライトの許可は取って来た。

 だって、夜も遅くにこんな巨大な飛行船が飛び立ったらおかしいからな。

 

 昔なら夕飯を食って、家族で〇時だよ全員集合! のエンディングを見ている様な時間。

 つまりは9時ちょっと前って事だ。

 真っ白で巨大な飛行船は、ゆっくりと音もなく空へと舞い上がった。

 この世界には航空法なんて物は無いから、飛行船に航空灯や位置灯なんて物は無い。

 いくら真っ白で巨大な飛行船だとはいえ、星明りしかないこの世界の夜空では、高度数百メートルほど上昇すれば、非常に視認は難しくなる。

 星の光が遮られたりするから良く見れば分かるんだけど、それでも星明りの中飛行船の底部は影になるから、まあ見難いのは間違いないだろう。

 いや、ほんとにこの月の無い夜空って違和感バリバリだなあ…転生して17年も生きて来たのに、まだ地球基準で考えてるからなんだろうな。

 

 なんて事を考えながら、コクピットの窓から外を眺めつつ、ぼけ~っと考えていた。

「お兄ちゃん…まだ明かり点けたらだめ?」

 そんな俺にコルネちゃんが話しかける。

「ん? もしかして怖いのか?」

 室内の明かりは全て消してもらってるから、船内は真っ暗。

 何だ、12歳になったとはいえ、暗闇が怖いとかまだまだ子供だなあ~。

「そうかそうか、仕方ないなあ。お兄ちゃんが寝るまで一緒に居てあげるよ」

 ちゃんと添い寝してあげるから、怖くないよ~。

「え、別に怖くないから、いいよ。おトイレとかが不便だな~って思っただけだから」

 …お兄ちゃんの添い寝は不要と? そ、そうか…成長したなぁ…でも、

「ユリアちゃんは怖くて部屋で震えてないかな? きっとお兄ちゃんと一緒に寝たがってるんじゃないかな~」

 そ、そうだよユリアちゃんなら、きっと今頃怖くて震えているはず…

「え? お母さんと一緒に寝ちゃったけど?」

 ………。

「そ、そうなんだ、母さんとね…それなら安心だね…はははは…」

「私もお母さんと一緒に寝るね~。お仕事頑張ってね~。おやすみなさ~い」

「う、うん…ありがと…おやすみ…」

 母さん人気者だなあ…ちくしょう!

「「ぷっ!」」

 おい、サラ、リリアさん。陰からコソコソ除くな! そして笑うな!

「「どんまい!」」

 うるせ!


 妹に添い寝を拒否されて、ささくれてしまった心のまま、俺は真っ暗な食堂へと足を運んだ。 

 すでに食堂には嫁5人とナディア達4人、そして父さんにユズユズが待っていた。

「みんな、お待たせ」

 そう声を掛けながら食堂へと入ると、俺に続きサラとリリアさんも続いた。

「では、今から本作戦の肝心要の仕込みに付いて話したいと思います。取りあえず近くの席に着いて」

 取りあえず、全員に席に着く様にと、声を掛けた。

 食堂の船窓から見える夜空は、ほんの少しの星明かりを反射して、ぼんやりとした光を室内に届けていたので、真っ暗闇の食堂では無くなっていた。

 きっと雲が光を反射しているらしいので、多分かなりの高度まで上昇したんだろう。

 だが、実の所、出発地点からそんなに遠くまで来たわけではない。

 所定の高度まで徐々に上昇した後は、同じところをぐるぐる周っているだけなのだ、

「今回の相手は大軍です。基本的に敵対行動をとる兵達は殲滅する所存です。ですが、直接手に掛けるのではありません」

 まあ、俺が何言ってるのか分かんないだろうな。

「それがこの作戦のミソです。これを見て下さい…あ、暗すぎて見えないか…えっと、ユズキに持ってきてもらった、ダンジョンの欠片です」


 聡い方ならすぐわかるだろう。

 そう、きっとあの大陸を、ダンジョンに改造した時の事を思い出したに違いない。 

 モフリーナに頼んで、出発前にユズキに渡してもらったのだ。

 そして当然ながら、この欠片には、細くて切れない糸が付いている。

 そう、第9番ダンジョンから続く細い糸…実は便宜上、糸と表現しているが、厳密には糸では無い。

 これは、魂のエネルギーを細く細くしたもので、あらゆる障害物を通り抜けてしまうという、ダンジョンの不思議仕様。

 幻〇旅団のマ〇が使ってた、念の糸みたいな物だと思ってもらったら間違いない。

 現在のモフリーナであれば、有り余るダンジョンのエネルギーを使って、この大陸の全てをダンジョン化する事だって可能だろう。

 だが、そうできない理由があるのだ。

 それは、他のダンジョンの存在と、今後発生するであろうダンジョンのためだ。

 ダンジョンの領域というのは、いくらエネルギーが沢山あるからと言って、自分勝手にガンガン広げてもいいと言う分けでは無い。

 そんな事をすれば、他のダンジョンの拡張の妨げになるし、これから発生するであろうダンジョンの場所を奪ってしまい、発生を妨げてしてしまう。

 少なくとも管理局にとってのダンジョンとは、ある種の魂のエネルギーの回収装置でもある分けだし、この世界の人々にとっては、魔石採掘場というかモンスターの狩猟場という側面も持っているので、その成長を妨げるような事は好ましくない。

 例外的に、新大陸の様な所であれば、誰憚る事なく拡張できるのだが…、多くの人々が暮らすこの大陸ではちょっと難しい。

 なので、今回は一時的にダンジョンの領域を、飛び地的に拡張しようという事だ。

 

「トールよ…ダンジョン大陸に付いては聞いているし、保護した者とか殲滅した者とかの話も知ってはいるが…、今度はこんな所と領地を繋げて何をしようって言うんだ?」

 父さんも良く分からない様だ。

 あ、雰囲気で分からないのは、父さんとイネスと…ユズカぐらいか?

 別に隠したいわけでも無いんで、この辺で全容を発表しましょうか。

「うん、実はね…敵対勢力や悪行を行ってるような奴らを、全部あっちの大陸に送っちゃおうと思って。そしてあっちで綺麗さっぱり殲滅するつもりなんだ」


 俺の作戦と言うか案と言うか…意味が理解できないのか、みんな不思議そうな顔をしていた。 

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