第535話  精霊さん、GO!

 迎撃用最終決戦攻性防壁、その名も…何にしよ?

 名前なんて特に決めてはいないけど、建築予定地はこの地で間違いない。

 さてさて、それでは俺が地図に引いた防壁とは、一体どんなものなのか?

 この地に張った本陣と言う名の天幕での簡単な打ち合わせにおいて、陛下や軍務大臣、べダム首長達、アーテリオス神国の重鎮達に概要だけは説明だけはしていたのだが、改めて現場で皆さんに説明いたしましょう。


「では、今から防壁を作成いたします。まず私の居るこの場所を起点として、左右この角度で防壁を斜めに造って行きます」

 両手を前方に約45度の角度をつけて左右に広がる様に伸ばしながら、説明をします。

「そしてさらにその防壁の完成地点から、また基準点をずらして同じ角度で防壁を作成しますが、この時基準点となる三角形の頂点は進軍できるように開けておきます」

 ま、言ってみたら漏斗みたいな形だね。

「それを合計4層作ります。つまり最後方の防壁と合わせると合計4層ですね」

 ちょっと大変だけど、まあ頑張りますよ。

「それぞれの防壁は、左右の山脈沿いに回廊を設けて、防壁上を兵が行き来できるようにします」 

 つまりは、左右からも有利な頭上から弓を射る事が出来るってわけだね。

「防壁の高さと厚みは最初にご説明した通りですので、計算上だけですが、数千から1万人ほどが防壁に上がる事が出来ます」

 そもそも数万対数万が、ガチでぶつかり合う様な戦争ってまず無い。

 そんな広大な土地があるなら、さっさと畑とかに開墾されてるだろう。

 ってか、そんな大規模戦闘になるって事自体が、もう馬鹿野郎が指揮してるって証拠だよな。

「最後方の最終防壁は、現状では出入り口は御座いませんが、改築が可能な様にしておきますので、戦後にご用命があればすぐに改築いたします」

 戦争の事だけじゃなく、戦後の人の行き来も考えなきゃね。  

 いつまでも俺がこの場に居るわけじゃ無いんだから。

「最後に、最終防衛ラインのこちら側…つまり、神国側ですが、井戸や宿舎というか休憩所も建築いたします。休憩所は30人部屋で…えっと500室ぐらいでしょうか。交代で使ってください…ただ、雑魚寝になってしまいますが、そこはご容赦ください」

 休憩する部屋だって、水場だって必要だよね。


「さて、何かご質問は御座いますか?」

 集まった面々に向かって、そう尋ねると 軍務大臣が、

「まさか、休憩の為の部屋を造ってもらえるとは…非常にありがたい。交代制にすれば人数的にも何の問題も無いな」

 べダム首長は、

「いや、特には無いのだが…防壁とやらの建築には、一体どれほどの時を必要とするのか、教えて頂けないだろうか」

 うん、当然の質問を有難うございます。

「そうですね…徹夜で作業いたしますし、構造も単純ですから…多分、3日目の朝には完成しています」

 俺の回答に、あんぐりと大口開けて驚く神国の重鎮さん達。

「あ、敵の矢が当たらない様に、頭上を覆う屋根とか細かい部分は完成後になるので、そこはもう少し時間をください」

 あんぐりが止まりませぬ。ついてに涎も止まりませぬ。きちゃない!

「さ、流石は使徒殿だな…うむ、委細トールヴァルド卿に任せよう」

 神国のお偉いさん、もう考える事を放棄して、べダムさんの言葉にただ頷くだけになっていた。

 

 本当はさ、小さなシールドを何個も防壁上に並べたら矢なんて怖くない。

 もっと言えば、この渓谷というか山間の土地をシールドで覆えば簡単なわけよ。

 でも、それだとか女神の力を乱用しているとか悪用しているとか、変な噂が流れるかもしれない。

 それじゃ、いかんのですたい!

 時間を掛けてでも、人の手で再現できる物を造る事が大事。

 味方にも敵にもそれを見せつける事が大事。

 そして、魔法で造ったんだよってアピールが大事なのだよ。

 一応、俺は魔法が使えるという事になっている。

 それは、女神ネス様より賜った物では無く、俺自身の持つ力と世間一般には広まっている。そんな力を持つ者だからこそ、女神の使徒となった…って思われてるわけだ、建前では…ね。

 魔法は何で使えるのか…ってか、そもそもアレが魔法かどうか怪しいが、とにかくネス様とは切り離された力でこの防壁を造ったのだと、世間様に知らしめるためにも、極力シールドとか最終兵器女神の神罰は出したくない。

 とは言っても、そもそも精霊さんと仲良しこよしってのが、チート臭いんだけど。

 あと、何だかんだ言っても変身しちゃうけど、そこは目を瞑ってもらうしかない。

 すでにホワイト・オルター号で兵員輸送しちゃってるし、今更感がハンパ無いな。

 それに、俺の装備だけは自前って事になってるんだけど…嫁とか妹達とかユズユズの装備って、基本的に神具だからなあ…。

 ま、戦争を早く終わらせる為に特別に許可されたとか何とか、後付けの良い分けでも考えようかな。

 また空に女神を出現させても良いし、何とかなるべ!

 いや、別に女神の力を誇示したいわけじゃ無いから、出来るだけしないよ?

 

 うっし、とのもかくにも建築開始だ!

「では皆さん、私より前に出ないでください。ここを基準点とします。私の前に出ている騎士さんとか居ませんよね? …うん、そうですか。では、建築開始します!」

 精霊さ~ん、出番ですよ~! 

 この場の誰にも見えてないけど、今俺が見ている敵さんが来る方向には、ずらりと整列した精霊さんが、視界いっぱいに居る。

 え~各精霊さんの棟梁さんは、先日見せた図面を覚えてますか? あ、暗記してるんだ。

 では、話が早い。

 俺の立っている場所の5mほど先を起点として、工事を開始してください。

 強く固く高く暑く、如何なる攻撃をもってしても破壊できない様な、頑丈な防壁ね。

 きっと周囲の人達には、魔法を行使するために、俺が黙って前方を睨み付けて集中している様に見えるのだろう。

 実際は全然違うんだが、まあ他人に何て思われたっていいや。

 俺はすっと右手を上に上げ、それを勢いよく振り下ろした。

「では、建築開始!」

 魔法の呪文してはしまらないけど、とにかく開始だ!

 精霊さん、GO!

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