第525話  父さん、ガンバ!

 俺の嫁達による恐怖の説教予告という、大きな犠牲を払い、何とかメリルの怒りを抑える事が出来た。

 でも、原因は俺じゃ無いと思うの。

 誰か…と言うか、王族は全力で助けてくれたっていいと思うんだけど…とばっちりを恐れて、全員が黙っていた。


 さて、ここでこの食堂に集まった王族の皆さんを、ちょっとだけご紹介しよう。

 陛下と第一~第三王妃様と、メリルの兄弟5人・姉妹6人。

 昔、紹介した時よりも弟が2人増えて、妹が2人増えたそうだ…陛下、王妃様に搾り取られてるなあ。

 んで、先代の陛下…つまり先王陛下と妃様1人。

 先代には4人の妃が居たそうだが、2人はすでに他界していて、残る1人は領地に居残りだとか。

 次に陛下の弟が2人と同伴されている奥様が各1人。

 他家に嫁いでいる姉が1人と、その旦那。

 陛下にはまだまだ沢山の弟・姉・妹が居るそうだが、面倒なのでいちいち覚えてない。

 とにかく、陛下が長男で、兄が居ないという事は理解した。

 あとは、毎度おなじみの内務を取り仕切る大臣を兼任する宰相さん。

 第二王子が副大臣として、内政のと将来の国王を支える為に、この大臣さんにくっついて勉強中。

 ちなみに前任の軍務大臣は、お馬鹿な暴走の末に罷免されていて、今は脳筋の第三王子がやっている。

 同じく脳筋な父さんが副大臣なのだが、そこそこ優秀な参謀的ポジションの人も居るそうだ。


 つまり、この場には沢山いるって事だ。

 はっきり言って、面倒くさいので名前は聞く気も無いし、憶える気も無い!

 そんな大勢を黙らせるメリルって、やっぱゴッド母ちゃんの称号を受け継ぐに相応しい女だと思う、うん。

 まあ、横から突き刺さる鋭い視線は、今だけは無視しよう…だって、もう俺の説教タイムは決定なんだから…ちょっとぐらい説教のネタが増えたって、今更だし…ねえ…。


 ってなわけで、とにかく変な空気になった食堂の雰囲気を変える為に、父さんが意を決して切り出した。

「陛下…発言をしても宜しいでしょうか?」

 父さん、ガンバ!

「ん? ああ、ヴァルナルよ…そんな堅苦しい言葉遣いは不要だ。何か言いたい事でもあるのか?」

 陛下、もしかして気絶してた?

「ええ、実は此度の戦に関してです」

 そ、そうだよ、父さん! その為に王城まで来たんだったよな。俺もすっかり忘れてたよ。

「お、おお…そ、そうであったな。この場で良ければ話してくれんか?」

 ん~この場で…食堂だし、メンバーこれで良いのか? 一応、内務と軍の大臣さんが揃ってるけど。

「ええ。詳細は追って場を設けて頂き説明したいと思いますが…まずは、簡単な展望から…アルテアン伯爵よりご説明を」

 おーーーーーい! 俺かーーーーい!

 まあ、脳筋の父さんだからな…良いよ、ここは息子が一丁頑張りましょうか。


「え~只今、アルテアン侯爵にご指名いただきました、トールヴァルド・デ・アルテアンでございます。此度の戦に関しまして、簡単にお話しさせて頂きます」

 俺が立ち上がり、そう口上を述べると、全員が俺を黙って見つめた。

 陛下も小さく頷き、先を促した。

「では、ご説明いたします。まず、この戦ですが…グーダイド王国とアーテリオス神国の連合軍が負ける事は、100%ありません」

「はっ?」「へっ?」

 俺の説明に、ちょっと声を漏らしたのが誰かは知らないが、まあ吃驚したんだろう。

 何たって、敵軍は15万。対する連合国軍は、せいぜい5~6万ってとこ。

 刀を振りまわしていた戦国時代とか、騎馬が走り回っていた中世ヨーロッパだったら、絶望的な戦力差だよね。

 でも、ここは異世界なのだ! そしてトール君は、神の使徒(自作自演)なのだ!

「先ほどもアルテアン侯爵がお話ししました通り、詳細は別に場を設けて説明させて頂きますが、この図面を元に簡単にご説明いたします…ナディア、例の物を」

「マスター…こちらに」

 呼ばれるのを待っていたかのように、ナディアがそっと新しく創った地図を俺の元に持って来る。

 うん、一度でいいから、「例の物を…」って、言ってみたかったんだよね。

 ちなみに、ナディアもアーデ、アーム、アーフェンも、全員美しい羽根を見せつける様に、小さくぱたんぱたんと動かしている。

 これは俺の指示だけど、やっぱ神様の眷属を従えてるってのを見せつけたいじゃんか。

 

「失礼します」

 陛下のすぐ近くまで行く…うっ…親類が山盛り居る…めっちゃ注目されてる。

 ともかく、ナディアが持ってきてくれた大陸地図を、王族の皆さんに見える様にテーブルに広げた。

「さて、これは女神ネス様の眷属である、妖精族の4人が作りあげた、この大陸の詳細な地図でございます」

 何が始まるんだ? と、俺の動きに注目していた王族の皆さんが、

『なんと!』

 ふっふっふ…驚いてる驚いてる。

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