第319話 生態系って大切
移住者の入居は非常にスムーズに進んだ。
何たって、殺伐とした不毛な荒野の地下空間と違って、地上の緑は豊かだし地下の住居は最新設備(当社比)による超快適な真っ新なお部屋なのだから、文句など出ようはずもない。
さらに神国からの生活必需品の援助も過剰なまでに押し寄せているので、ここの生活に不満など無いそうだ。
まあ、住んでいればそのうちに色々と不満も出るだろうが、現在満足できているのであればOKとしよう。
神国のお役人さん達も、当分の間この地に駐留してくれる事が決まっているので、問題があれば対処してくれるだろう。
子供達の「チャン(巨大カタツムリ)も来れたら良かったのに…」という寂し気な声には、ちょっと考えさせられる物もあったが、それでもあやつの乗船だけは、断固拒否だ。
それにあんな生物をこの神国に持ち込んで、もしも生態系が壊れでもしたら目もあてられない。
日本も戦中戦後に多くの外来生物や植物を輸入し、気がついたら日本特有の在来種の生態系を壊してしまい、その生存が危ぶまれる事態を引き起こしてしまったりしていた。
一旦壊れた生態系を元に戻すのは、ほぼ不可能に近い。なんせ、食物連鎖が崩壊するわけだからな。
日本と違って、この世界はまだまだ自然豊かな世界だ。
魔物や魔獣と呼ばれる生き物は、魔素の濃い特定の場所にしか生息せず、野生の生物は自分の生息範囲から無暗に出る事も無い。人は人として、魔物は魔物として、野生動物は野生動物として、須らく己の分を弁えた生態系を維持していからこそ、この世界としての生態系の大きな循環を維持できている訳だ。
ま、これを壊す原因ってのは、何時の何処の世でも人の欲望なのだろうけどな。
俺がこの生態系のバランスを破壊する原因になっちゃいかんよ、うん。
子供が悲しむのは心苦しいが、ここは心を鬼にして拒否しよう。
子供達にも、この大いなる大自然の奇跡的なバランスで成り立つ世界を知ってもらう良い機会じゃないか。
うん、そういう事にしとこう…。
これで恐怖の大王戦に関わる全ての出来事が終了したかな?
いや、移住はそもそも余分な事なんだけど、それはこの際おいといて。
べダム首長も、後は任せてくださいって言ってたから、そろそろ家に帰ろう。
このままだとまたドワーフメイドさんが危機的状況に陥り、人魚さんにヘルプを頼まなくてはならなくなる。
これ以上人魚さんに借りを作るのは、よろしくないからな。
「てな訳で、恐怖の大王との戦いに出発してから、すでに25日も経ちました。そろそろ家に帰ろうかと思います」
いつもの如く、食堂で昼食を食べ終わったタイミングで俺はそう宣言した。
「トールちゃん…帰りに姉さんの所に寄りたいんだけど、駄目かしら?」
母さんが何やら言っているが、そこを周るとまた数日必要だな…却下だ。
「母さん、そろそろエステを受けないと不味いと思うよ? あまり期間が空くとお肌への影響… 「帰りましょう!」 …懸念」
被せてきた! 俺の話に、めっちゃ喰い気味で! やはり母さんにはこれが一番効いたか。
「遊びにはまた折りを見て行きましょう。皆も、里帰りしたいかもしれませんが、又の機会にね」
皆は俺の言葉に、にっこり笑って頷いてくれた。良かったよ、反対されなくて。
いや、反対どころか顔や髪を急に気にし出したぞ、女性陣が…一応船内のお風呂で使ってる石鹸類は、エステに提供している高級品を置いてたんだが、あの乾燥した荒野に長くいたからなあ…痛んでるんだろう。
俺には分からんけど(笑)、それを言ったら何を言われるか分からないので、お口にチャック。
小学校の通信簿で両親あてに書かれた先生の俺の所見では、《大河 芳樹君は、授業中に、少々落ち着きがない様に見受けられます。もう少しお喋りを控える様に、家での指導をお願いします》とか書かれてたからな。
いや、これは関係ないか。
兎に角、余計な事は藪蛇になるので絶対に言わないぞ。
お肌や髪の痛みを気にする女性陣は、見て見ぬふりが正しい対処ではなかろうか? いや、そう決めた。
俺は常に学習しているのだ。
だから、こう宣言します。
「では、さっさと家に帰りましょう! 具体的には、本日夕刻に出発です!」
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