第305話  大嫌いだ!

 深夜ではあるが、瀕死のドワーフメイド衆を救うため、我が家の面子を食堂に緊急招集!

 あ、コルネちゃんは寝てていいからね。良い子はおねんねの時間だから。

 って事で、コルネちゃんを除くメンバーに集まってもらいました。

「皆さん、我が家のドワーフメイド衆が瀕死の状態です!」

 そう言うと、全員が大きく目を見開いた。

「と、トール様、一体何が…?」

 メリルが震える声で俺に訊いてきた。

「まさか、敵襲ですか!? 今すぐ救援に向かわねば!」

「何だと! アルテアンに喧嘩を売った奴がいるというのか! トール、大至急戻るぞ! 我が家に喧嘩を売るという事の愚かさを、その身をもって知らしめねばならぬ!」

 武闘派のイネスと父さんが興奮気味に立ち上がる。

「ああ…みんな無事ならいいけど…」「…トールさま、はやく助けに行きましょう」

 ミルシェもミレーラも心配そうだ。

 この辺りで、俺も内容を言ってない事を、ちょっと後ろめたくなってきた。

 最初に言うべきだよなあ。背中にいや~な汗が流れてる。

「皆さん落ち着いてください。まだ敵の正体もトール様から告げられていません」

「そうよ、皆。トールちゃん、それでどこの馬鹿が攻めてきたのかしら?」

 比較的冷静なマチルダと母さんが、なんとか場を落ち着かせようとしてくれてるんだが…これ、本当の事を言ってもいいんだろうか? めっちゃ怖いんだけど…

「あの、ね? ちょっと落ち着いて。誰かが我が家に喧嘩を売ったんでも、攻めてきたんでも、天災が起きたわけでも無いんだよ」

 ちょっとどもりながらも説明を始めた俺を、何故かみんな冷めた目で見てる…まさか、もう理由が分かったのか!?

「トール様…ものすごく大事な事を話してませんね? わざと私達が誤解する様な言い回しをしませんでしたか?」

 メリル…君の様に勘の良い娘は嫌いだよ…

「トールさまは、絶対に今変な事を考えてました!」

 ミルシェ! 俺は、マジで勘が良すぎる特殊能力持ちは嫌いだよ!

「トールちゃん? あなた…まさかこの母さんを騙したの?」

 認めたくないものだな…自分自身の若さゆえの過ちというものを…

「トールちゃん?」

 ………。

「ごめんなさい! ひっじょ~に紛らわしい言い方をしてしまいました! 許してつか~さい!」

「……それで?」

 ああ、母さんのゴミを見る様な視線が…俺のガラスのハートに突き刺さる…

「あの…怒らない?」

「…トールちゃん? 母さん、今、と~っても握り込んだ拳がプルプルして来たんだけど…」

「はい、お母さま! 言います! 言わせてください! 領内の仕事が溜まりまくって、ドワーフメイドさん達が、捌き切れずに倒れそうです! 助けて欲しいと、ヘ、ヘルプ要請が先ほど来ました!」 

「この、ばかちんがー!」

 母さんの怒りの鉄拳が俺の頭上にナイス角度で突き刺さった。

 身長縮んだ気がする…3cmほど…いや、たんこぶでその分補填できるかも…

「はあ、仕方が無いわね…現状を正確に説明なさい」

「ぁぃ…」

 母さんに促さるまま、俺はドワーフメイドさんからのヘルプ内容を話した。

 もちろん、自主的に正座をしたままで。


「なるほど…確かに恐怖の大王との戦いと、その事後処理で時間がかかっているのは確かです。そのせいで領の政務が滞っているのも間違いないでしょう。しかし、まさかメイド達にそれを任せるとは…トールちゃん、あなたの頭は冬眠でもしてるんですか?」

「いえ、起きてますが…もしかしたら恐怖の大王との戦いに集中しすぎて、何も見えてなかったのかもしれません」

「はぁ…この馬鹿息子はほっといて…誰か、メイドさん達の負担を減らす良い方法はありませんか?」

 もう場を取り仕切ってるのは母さん。いや、仕事が捌ける…もしくはドワーフメイドさんの負担が軽くなるなら、そんな事はどうでもいいけど…。

「あの御義母様。御義父様の領では、お仕事はどうなっているのでしょう?」

「あら、メリル。我が家はね、あらゆる仕事は分散しているの。具体的には各街の責任者が、ほとんどの仕事をしてくれてるわ。主人の所に届くのは、あの人のサインが必要な物とか、最終チェック関連だけよ。優秀な我が家のメイドだけで事足りてるわ」

 そうか、父さんの領は複数の街や村があるんだから、街長とか村長とかが、そりゃいるわな。 

 それに言ってみれば民間企業が大多数を占めてて、アルテアン伯爵として行ってるのは、そこへの投資がメイン。

 俺みたいに直接経営じゃないから、規模と人口が大きい割に仕事量が少ないのか…

 俺の所はたった一つの街だけど、半分以上の商会や工房は俺が直接経営に関わってる。そりゃ仕事量が違うか。 

「なるほど、理解できました」

 メリルも同じ考えに行きついたらしい。


 くそ! 前世の異世界のチートな知識があっても、政治や経済なんか学校の社会で習った事ぐらいしか知らねーよ!

 なんでラノベとかの主人公は、内政チートとか出来んだよ! お前ら前世で政治とかに関わってたのかよ! 農業チート? お前ら農家さんなめとんのか! 

 知識チートなんざ、よっぽどその道に精通してなけりゃ、異世界でどう考えても出来るわきゃねーだろーが! 社会の酸いも辛いも甘いもしってる前世アラフォーのおっさんでも、そうそう上手く領地を経営する知識なんて、持ち合わせてねーよ!

 俺はこの異世界って現実を、今、生きてるんだ!

 ご都合主義の異世界ファンタジーなんざ、大嫌いだ!

 

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