第276話 ファンタジーだから…
盆地の地下に広がる巨大な洞窟は、所々にある太い柱状の奇岩によって、天井が支えられている様だ。
この空間を支える為に、まるで計算されて配置された様な柱は、何とも都合良すぎに思えるのだが、そこはファンタジーだからの一言で片付けて良いものかどうか、実に悩ましい。いや、これこそが自然の驚異なのか?
とにかく、そのおかげで天井はみた感じではしっかりとしていて、簡単には崩落する様には思えない。
「ほ~…」「ふ~ん?」「へ~!」「おぉ!」「ふむふむ…」と、この洞窟を歩き回れば歩くほど、この空間は奇跡的な確率で形作られた場所なのだと、感動すら覚えてしまった。
さて、ではこの空間で生活する人達の家はどうなっているのかというと、天井を支える柱を家の中心としたドーナツ状の石造りの家になっている。
つまり、天井を支える柱=大黒柱って感じかな? いや、日本家屋じゃないから大黒柱というのも変だけど。
この洞窟を形成しているのと同じ材質の岩をブロック状に加工して、それをドーナツ状に積み上げている様だ。
確か中国に客家土楼っていう円形の集合住宅があったけど、あっちは本当にドーナツ状。
目の前にあるのは、ドーナツの穴に、この洞窟の天井を支える柱がぶっすりと刺さった感じなので、違うと言えば違うんだけどさ。
んでもって、この石造りの家は、3階建てになっている様で、一つの柱について4ブロック…柱を真上から見て90度ごとに区切られていて、4家族が住んでいるという。
つまりは、3階建ての住居が長屋風に丸く繋がってる…面白い構造だった。
井戸は無いのだが、所々に地底湖…では無く泉かな? ってぐらいの、小さな水場が湧いているので、毎日汲むらしい。
んで人の生活では絶対に無視できないトイレだが、公衆便所が造られていた。
この空間はまだまだ下に何層もあるらしく、そこに繋がる直径数十cmほどの小さな縦穴があるという。
それをトイレとして利用しているらしいのだが…下の層には誰も住んでないの? と思って聞くと、住んでないんだって。
ヒカリゴケは、この階層にしか無く、下の層に持ち込んでもすぐに死滅するらしくて、この階層以外は住みにくいんだって。
はて? 下にもまだ空間が有るんだったら、あの泉の水はどっからくるんだろう?
まあいいか。深く考えない様にしよう…だって、ここってファンタジーなんだもん! それが答えなのだ!
水とトイレは分かったけど…こんな岩しか無い場所で、火はどうしてんだろ? 薪なんて無いんじゃね?
そう思って住民に訊ねてみると、なんと燃える石があると言うではないか! それは石炭か!?
「それって、黒くて固い石ですよね?」
もしもそうなら、この地の特産品になるぞ! っと思ったりしたのだが…
「え? 違いますよ。この石です」
そう言って、住民の奥様が見せてくれたのは、お盆みたいな丸くて平らな白い石。これナニ?
「これは、洞窟の下層に住んでいる、ぬめぬめぐにょぐにょした生き物の死骸です」
ちょっと言い難そうに説明してくれたが、どうやら皆さんが排出した汚物やゴミを食べている生物らしい…って、スライムじゃん!
そう言えば、この世界ってファンタジーなのに、定番のスライム見た事なかったよ!
こんなとこに生息してたのか。しかも生きてる内は汚物処理して、死んだら石になって燃やされるとか、めっちゃ便利な奴!
「ふむ…やはり時代はスライムか…」
何気ない俺の呟きに、
「すらいむ?」
ミレーラが首を傾げてた。
「あ、いや…ぬめぬめぐにょぐにょしてて汚物とか何でも食べちゃう生き物で、そういう名前のがいるんだよ」
「へ~! さすがトールさまは物知りですね!」
感心されちゃった…めっちゃ尊敬の目で俺を見てるし…何だろう、この恥ずかしさは…。
「この生き物の名前はタイサイって名前です。ほとんど動かないんで、ちょっと見には石に見えるんですけど…」
あ、名前あったんだ。奥さまが親切にも教えてくれた。スライムじゃないんだ…まあ、あれは地球での名前だもんな。
へ~、タイサイね…たいさい? まさか、太歳!? あの中国の伝説の、地中に住むと言われている怪物?
確か旧日本軍が塹壕掘りの最中に掘り起こして呪いで部隊が全滅したとか、始皇帝が求めた不老不死の妙薬の正体だとか言われてる謎生物じゃ無かったか?
あ、でも確かあれは実は変形粘菌だったとかいう奴が正体だった気がする。
変形粘菌って何だか良くわからんが、アメーバみたいな感じの動画を見たことあったなあ…
む? 粘菌…もしや恐怖の大王が地下に菌糸を伸ばしてたのは、菌繋がりとかで?
ん~どう考えても関係なさそうだな。
しかし残念だ。ファンタジー世界なんだから、万能生物スライムには登場して欲しかったなあ…
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