第253話 精霊さん怒る
皆は順調に冬虫夏草付のゾンビを倒して燃やしてるようなので、俺は萌やし農家さんを助けに行くのだ!
決して上手く言ったわけではない! 上手いけど、意図したわけではないのだ!
萌やし農家さんへと、魔の菌糸を伸ばすカズム、許すまじ!
やっぱ、俺って上手いかも…
『いいから、さっさと行けーーー!』
怒られた…珍しくサラに怒られた…
『いや、マスター…真面目にやってください。地下都市の様な密閉空間に胞子撒かれたら、目もあてれませんよ?』
ナディアも正論で俺を追い詰める…
『だから、マジでさっさとしろって! あんた地下都市の人を見殺しにする気か!?』
分かってるよ…そんなでっかい声で念話するなっての。頭の中がガンガンするから。
んじゃ~カズムちゃん、いっきますよ~!
俺は全力で地を蹴った。
目の前に立ちふさがる冬虫夏草付ゾンビは、すれ違いざまに切って捨てる。
火の精霊さん、風の精霊さん、灰になるまで燃やしておいてね~。
何物にも俺の進撃は邪魔させない! ただ只管真っすぐに愚直にカズム本体へと前進!
徐々にその姿が明らかになるカズム…うん、キノコ怪人その物だな。
あと10mって所で、急ブレーキをかけて止まって観察してみたが、見た目チョロそうなんだが何やらヤバそうな香りが…
これって松茸の香りじゃねーか!
ヤバいってもんじゃねーぞ! あいつは高級食材か!?
だが、容赦はせん! 見た目は食える様に見えないからな…
地面からひょろっとした胴体(?)が伸びて、真っ赤な傘は正にベニテングダケその物だが、傘の部分には全周を見渡せるほど無数の目玉が付いている。
柄にくっ付いてるつばっていう部位は、まるで垂れ下がる触手。
口はどこにあるのか分からんが、キショい!
地面に広がる菌糸が微妙に脈打ってるのが、さらに輪を掛けてる感じだな。
よ~し、渾沌が大好きなカズム君…君には俺のとっておきをプレゼントしようではないか。
んっしょっと…リュックから取り出したるは、じゃじゃーーん! 対カズム決戦兵器『全部すいとーる君1号』だ!
すいとーる君と、好いトール君を掛けている訳では、断じて無い…ごめん、掛けてます。
『だから…何度も言ってますが…』
あ、ごめんなさい。すぐ始末しますから、怒んないでサラ…
この『全部すいとーる君1号』は、俺が敵と認識した物体を、魂のエネルギーも含め全部吸い取ってくれる優れもの。
小型だが圧倒的な吸引力と、その軽さで操作も楽々! しかもコードレスなので、どこでも使用可能!
塵や埃などの異物と魂のエネルギーと空気を、強力な遠心分離サイクロンによって分別できるうえ、吸引した空気を清浄化して排出する、人にも環境にも優しい仕様となっております!
つまりは、ハンディータイプの掃除機やね。
こいつをカズムに向けて、スイッチ・オン!
んで、ついでに…誰にしよっかな…アーデ、ちょっとこっちおいで~。
『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん!』
アーデ、どこでそんな言葉を覚えたのだ?
駄目だぞ~良い子はそんな言葉を使っちゃ。
『でも、たまにマスターが使ってますよね?』
うぐっ! 痛い所を突いてきたな…
ま~それはいいとして、俺のリュックに刺さってる『全部すいとーる君』の2号~4号を皆に配ってね。
『これですか? どうやって使うのでしょう?』
えっと…俺の手元見て…そうそう。ここの所を伸ばして、敵の灰に向かってここのスイッチを入れるだけ。
『えっと…こうですか?』
そうそう、良くできました。人には向けない様にね。
止める時は、スイッチを切るのを忘れずに。
あのゾンビを燃やしたら、全部吸い取っちゃって。
別に燃やす必要ないけど…燃やさないと、腐った肉とか血とかが、この透明の部分でグルグル回って、気持ち悪くなるから。
『了解しました!』
んじゃ、各チームに配って、使い方を教えてあげてね。
よし! これでミニ・カズムの処理も大丈夫だな。
さてと、本体をさっさと吸い込んじゃいましょうかねぇ~…
って、こいつ無茶苦茶抵抗しやがるな? すんごい引っ張られる!
もしかして地面に菌糸伸ばしてるから、それで踏ん張ってるのかな?
んじゃ、土の精霊さ~ん! 水の精霊さ~ん! 俺の足場以外のこの辺の土を、液状化しちゃってください!
どろどろのぐちょぐちょにして、菌糸を引っこ抜きやすくしてちょー!
え? 菌糸ぐらい引っこ抜いてくれる?
大地を汚染するキモイ菌糸は、排除するって?
普段、昭和初期の土木工事会社の親方みたいな土の精霊さんが、めっちゃ怒ってる…鶴嘴やスコップ持った精霊さんが、何時の間にやら大集結。
え、全部掘り返すから、吸い取ってくれって? お任せください、親方!
もの凄い数の土の精霊さんの指示に従って、これまた大量の水の精霊さんが協力して、菌糸の欠片すら残さず掘り返していく様は、そりゃもう筆舌に尽くしがたい物がある。
土の精霊さんが固く締まった大地をサラサラの砂状にしたと思ったら、即座に水の精霊さんが菌糸を水で包んで拘束。
どんどん掘り起こされていくそのカズムの菌糸は、横方向だけでなく下へも向かっていた様で…あ、地下都市危ないって言ってたもんな…。
風の精霊さんもやって来て協力、カズムをどんどん地面から空へと持ち上げる。
カズム本体も、何かアワアワ慌ててる様に見えるけど、もう遅い!
広く深く頑丈に根を張っていた菌糸は、見事に地面から分離され、憐れ掘り起こされて宙に浮かぶカズムは、ラピ〇タのラストシーンの様にしか見えない。
精霊さん怒らしたら怖いな…。
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