第176話  絶賛困惑中

 なかなか出来る男の衛士さんは、この街の治安を護る衛士隊の隊長さんだった。

 7台もの馬車をすぐに準備して、ホワイト・オルター号まで我が家の面々を迎えに行ってくれた。

 しかも護衛に衛士を2部隊も付けてくるなんて、なかなかやりおる。

「隊長さん、これは少ないですが心付けです。どうぞ皆さんの酒代にでもしてください」

 ここで俺もちょっとは出来る男って所を見せておかないとな。

 俺と父さんが、それぞれちょっと多めのお金を入れた皮袋を2つ隊長さんに手渡すと、隊長さんは恭しく両手で革袋を受け取った。

「これはこれは…お心付けありがとうございます。本日の業務が終わりましたら、皆に配りたいと思います」

 キリッとした表情は崩してないけど、嬉しそうだった。

 隊長さんは、衛士の皆さんに向かって革袋を掲げながら大きな声で、

「伯爵さまと使徒様に心付けを頂いた。皆、礼を忘れぬ様に。仕事が終わり次第、手渡す事にする」

 そう言うと、衛士の皆さんは声を揃えて、

「「「「「あざーす!」」」」」

 って、体育会系かよ! いや…肉体労働なんだから、間違ってはいないか…


 街の門前に到着した我が家の面々は、さすがに1部屋で収まる人数では無いので、何部屋かに別れて領主様とのお目通りを待った。俺と父さんは別室にて2人だけ…ちょっと寂しい。


 そう待つ事も無く、領主邸からの目通りの許可が下りたので、俺、両親、コルネちゃん、婚約者ーず、ナディア、天鬼族3人娘の11人で向かう事にした。ちょっと大人数だけど、こればっかりは許してもらおう。

 しかしこれ以上の人数はさすがにまずいので、残りのメンバーは申し訳ないのだがホワイト・オルター号へ戻ってもらう。

 先王陛下への謁見に執事見習いやメイドは連れて行けないし…

 誘拐や暗殺なんて無いとは思うが、あそこなら安全だからな。


 ▲


 そして、只今絶賛困惑中の俺がここにいます。

 

 王城を小さくしたような立派な領主邸(先王陛下の居宅なんだから当然だが)に馬車で案内され、前世で稽古をしていた空手道場にも引けを取らない、めちゃくちゃ広い応接間に通された俺達なんだが、なぜか平伏した人々が目の前に…

「せ…先王陛下、お立ち下さい!」

 あ、父さんは先王陛下の顔知ってたんだ。まあ中央で一番豪華な服着てる人だから、まあこの人だろうとは思ったけど。

「何を言う、アルテアン卿! ネス様の使徒殿と眷属の方々を立ってお迎えなど、言語道断! 先の戦で神聖国に天罰が下ったのを忘れたわけではあるまい! 聖なる女神ネス様の御加護を頂いておるグーダイド王国の先王として、最上級の礼をもってお迎えするのは当然であろう!」

 いやいやいやいやいや! ずらっと土下座されたら、こっちが気を使うから! 

 大体、先王陛下はもう結構なお歳…には見えないな、50歳ぐらいかな? 

 でも床に這いつくばらせて良いわけはない。

「トール…何とかしろ…」

 困り果てた父さんが、俺の耳元で小声でささやいた。

 あ…息を吹きかけるの止めて…ちょっと耳弱いから…

「んん…ゴホン。先王陛下、私は神ではありません。その様に畏まられても困ります。私はあくまでもネス様と皆様を繋ぐ代行者にすぎませぬ。どうかお顔を上げて、お気を楽になさってくださいませ」

 こういう固い人には、こっちが更に下手に出ちゃえば、自然と態度も改めてくれるはずだって事で、俺が先王陛下の目の前に進み出て土下座してみせた。

 そんな俺を見て先王陛下が、めっちゃアワアワしてるけど。

「先王陛下がお立ちにならない限り、私もここから動きません」

 そう言って、額を床に擦り付けたら、慌てて皆さん立ってくれました。

 ふぅ…面倒くさいけど、ネス作ったの俺だから自業自得だよな…でも国王陛下は普通に接してくれるのに、何でだろ? 性格? 年齢? 

 あんまり妄信されても困るな…何か対策が必要か。


 何とか応接セットまで移動して、俺と父さん、先王陛下が対面で座れました。

 やっと落ち着いたよ…挨拶だけのつもりだったのに、疲れたなあ…

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