四十四夜   残響

「あの時のことは、恐ろしく、今でも思い出すと辛くなる。パイオニアスから来た五人の姉様たちの身に…」

「クレアお姉ちゃんたちが、あんなにも辛い思いをしたことが、今だに後悔してしまうわ」

「…」

五人と出会った白い砂浜で、成長したラッシェオとルルは波音を、彼女たちの悲痛な残響のように聞こえていた。

あの後、五人の美少女たちの身に何があったのか…

そして、恐ろしい魔物たちはどうなったのか、これから、波音とともに時間をあの日、あの時のふ場所へ、戻そう。

“バン、バン”

ラッシェオとピースは、薪を斧やのこぎりで切る。

「よし、薪割り完了」

「やって見たら、楽しいね」

「そうだな」

普段はガスや電気で暖を取れるが、この世界では何もないので、出来る限りの資源やエネルギーを考えて使用することになった。

「ピース、ラッシェオくん、風が強くなったから蓄電は大丈夫だ」

梯子を伝い、フーガは屋根から降りてくる。木の板を回りやすいように削り、十字架みたく四枚を重ねて海から吹く風で回して電気にする簡易的な風力発電を行ったら大成功した。

「近く車の予備バッテリーを使って太陽光に、波と川の流れを利用して水力発電もしよう」

「節電や蓄電も出来るから、こりゃいいな」

ピースとフーガは、自分たちの計画の良さに感動する。

「おじ様方、ラッシェオくん、ご飯出来ましたわ」

「トモエ姉ちゃん」

「おお、武者レディー」

介抱したトモエが、三人を呼びに来てくれた。

「トモエちゃん、ありがとう」

「はい、今日は皆さんが釣ってくれたお魚でお寿司と焼き魚を作りました」

男たち三人は、「やった!!」と男子学生みたいに叫んだ。

今日朝イチに沖まで釣りに行き、釣った魚には高級魚の鯛やクエがいたのだ。

トモエは料理上手なので、それを綺麗に捌いてくれたのだ。ユリやティアも驚く上手な手際でプロの板前さんみたいだった。

「父様に習いましたの」

「トモエのお父さん、武道師範であると同時に高級料亭の花板さんだったね」

「国王様と女王様もよくお忍びでお店に来ていたわよね」

アマとフィナが話す。

花板は修行で道を極めた料理人だ。トモエの父カネミツは、パイオニアの和を極めた「ヤマト」の里では武術と調理術を極めた漢だ。トモエが生まれて間もない頃に病で妻を亡くし、男手ひとつで娘を育ってきた。

「アマちゃんやフィナちゃんたちのご家族は?」

すると、アマの両親は官吏で王宮に勤めている。

「パパが書記官で、ママは女性兵士で副隊長をしています」

「フィナのパパとママはね。町で武器の鎧とか刀とか鉄砲を造る職人さん何だ。フィナたちの武器も作ってくれたんだよ」

「フィナのお父ちゃんとお母ちゃんは凄い武器を国王様たちの軍隊や警察にも卸ているのさ」

ミズキが、飲み物をグラスに注ぎながら言う。

「ミズキちゃんの注ぎ方だけど、上手ね。プロのソムリエさんみたい」

「うん、ミズキお姉ちゃん、喫茶店のマスターみたい」

「あら、そう。でも、こんなの序の口よ」

ミズキは、そう言うと手際良く料理を前菜、メインディッシュ、デザートと丁寧に無駄なく並べた。

さらに、ナイフ、フォーク、スプーン、お箸と順番に並べて、レストランのフルコースのようになった。

「凄いわ!!」

拍手が湧き上がった。

「かっこいい」

「ミズキちゃん、凄いわ」

「ミズキお姉ちゃん、どこで習ったの」

ルルがミズキに尋ねると、

「私のお父ちゃんは、王宮厨師なの所謂お城づとめのコックさん、お母ちゃんはお妃様の庭園を守る庭師なんだ。後、隣の国の高貴な方御用達のバルに兄ちゃんがソムリエしているの」

「ミズキのお姉ちゃんはパティシエだもんね。隣国の王宮御用達の…この前は王子様と北の帝国の皇女様の結婚式でもウェンディグケーキやスイーツで活躍したもんね」

「三人兄弟か」

ミズキは末っ子として育ったが、兄や姉に色々と教わったが、兵士みたいに活躍したい憧れが捨てられずに両親や兄弟を説得して小隊になった。

「ほら、いつまでも騒いでないで、食事前何だから」

クレアが注意する。

ミズキやトモエたちは「はい」となる。どうやら、小隊のリーダーはクレアのようだ。

彼女たちが回復した後から、彼女たちが暮らしていた国、いや、世界がわかった。

やはり、モルディーや地球と同じで別世界で、「アーチェ」と呼ばれる緑と風の恩恵を受けた八つの大陸からなる巨大な惑星。

魔法と科学が共存する世界で、パイオニアス王国はその中にあるナルタ大陸の中央国家で、百五十の小国を纏めている。

クレア、ミズキ、トモエ、アマ、フィナは志願制の女性戦士として教育隊から一緒の仲だった。

「私たちはあの海岸に倒れていたのは先に話した暗闇の女神「ペルセ」の一味が国境近くの海岸で海賊行為をしていたのを征伐するためでした」

暗闇の女神、他にも宵闇の女神、常闇の女神たち三柱がいるが、いずれもパイオニアスを始め人間の暮らす王国などを支配しようと侵略を始めたからだ。

奴らの使う使い魔は暗闇の女神は「クラヤミ」と言うスケルトンやゾンビ、キョンシー、ドラキュラなどのアンデッドやヴァンパイア系のモンスターだ。

宵闇の女神は、カラスやコウモリ、オオカミ、ゴリラやワニなど鳥や獣系を使う。

常闇の女神は、フランケンやゴーレム、ハニワ、サンドマン、ジンと言った機械や岩や砂、炎などを使うとすでに王国の諜報部や親衛隊の調査で判明している。

「三人とも使い魔の属性もバラバラなんだな」

「私たちが戦った海賊団も調べたら、暗闇の女神の操る幽霊船だったんです。だけど、あまりにも強力過ぎて私たちは┅」

すると、アマもフィナもミズキも涙を流したり、体が震え出した。

(よほど、怖かったのだろう)

(まだ、ラッシェオやルルちゃんより、三歳しか変わらないのに)

“バン”

「情けない!!貴女たちそれでも王宮に仕える少女戦士の小隊なの?メソメソ泣いたり、怖かったりして、戦士としてのプライドはないの?」

クレアが机を叩き、怖がるを叱咤した。

「クレアちゃん」

「クレアお姉ちゃん」

さらに、彼女は続けた。

「一度怖がって逃げたらね。ずっと、弱虫で意気地なしなのよ。敵と戦えなくなるのよ。私たちはパイオニアスを守る戦士になった日から普通の女の子じゃないのよ!!」

すると、ティアが優しく諭す。

「クレアちゃん、リーダーとしての責務や責任感は立派だわ。でも、時には逃げたり、隠れてもいいのよ。戦士と言え、まだ年端も行かぬ女の子なんだから」

「そうよ。全部背負う必要はないのよ」

ユリもフォローして言う。

だけど、クレアはそれで一人非難されたと感じたのか、キイとなり、その場を立ち去り、外に出ていってしまった。

「クレアお姉ちゃん」

「クレア」

するとユリたちは(今はソッとしてあげよう)と皆に伝える。

「クレアの両親は三年前に、暗闇の女神に殺されたの」

アマは、なぜ、クレアがあそこまで頑なに責務にとらわれているのか理由を話してくれた。彼女の両親は、元々パイオニアスでは裕福な農園を持つ大地主だったが、クレアの十一歳の年、冬の終わりに暗闇の女神と部下たちが屋敷を襲撃したのだ。

「その日は、クレアの誕生日だったの」

アマとミズキ、トモエはフィナは口をつぐんだ。ルルとラッシェオ、ユリ、ティアは涙を隠しきれなかった。

なんとも辛いのだろう。

誕生日プレゼントが、笑顔でまってくれていた両親が…そんな無惨なことに、ピースとフーガは女神に怒りを覚えた。

「酷い」

「クレアお姉ちゃんがかわいそうだ」

クレアが独りぼっちになった後、フィナの叔父である現総理大臣のハミットが学生時代の恩師夫婦が養子に引き取り、身の上を保護してくれたのだ。

恩師の夫は、軍の親衛隊副官だったので、新しく女性部隊を編成する計画があったのでクレアは志願し、入隊試験を通り、少女小隊を結成した。

「クレアちゃんがお役目に固執するのは、自分を助けてくれたフィナちゃんの叔父様と保護してくれた義両親に恩返しするためだったの?健気だわ」

「僕らと同い年でクレアお姉ちゃんは悲し過ぎるよ。誕生日に…僕が同じ立場だったら…」

部屋中にすすり泣きが響いた。

太陽がやがて西の空に沈み始め、波音が強くなり始めた。

「んじゃ、俺とラッシェオで風車の様子を見て来るな」

「お願いね」

「まかしてよ」

ラッシェオとピースは外に向かう。昼間作った風車の異常がないか確認するためだ。フーガと行こうとしていたがラッシェオが今後のために経験したいと行くことにしたのだ。

ピースとラッシェオは、懐中電灯を魔物たちや悪の女神たちの手先に見つからないように細心の注意を払い確認を行う。風車の音に異音がないか、柱に接続している配電盤や配線が壊れていないか一通りチェックした。

「父さん、大丈夫だよ。どこも壊れていない」

「よし、こっちも大丈夫だ。戻るか」

「うん」

父子は、塔に戻ろうとした時、

「あれ、クレアお姉ちゃん」

「本当だ」

クレアが塔の天辺に近い部屋のベランダで夜の海を見つめていた。しかし、瞳には大粒の涙が浮かんでいるのをピースは気付いた。

二人はこっそりとクレアに温かいココアとクッキーをと一緒に持っていた。

「夜の海風は冷たいから心も身体にも悪いから温めなよ」

ピースが優しく差し出す。

「クレアお姉ちゃん、これ、僕らが地球の徳島で手に入れたれんこんクッキーってお菓子なんだ。よかったら、食べて」

ラッシェオもクレアに渡すと、彼女は閉じていた心が柔らかくなったのか、声をあげて号泣した。

きっと、これまで必死に張っていた緊張の糸を貼り直す気持ちになれたのだろう。

「クレアちゃん…」

“チャリン!!”

すると、彼女の足下に何が落ちた。

「え、これは?」

それは、ペンダントに入ったクレアの家族写真だった。クレアと両親、さらに別の夫婦と小さな男の子が写っていた。

「クレアお姉ちゃんの弟?」

「従弟のトルギス…まだ、六歳なの」

誕生日の惨劇の時、クレアには幼い従弟のトルギスが叔父叔母夫婦とお祝いに来てくれていた。しかし、襲撃に遭い両親たちと友人たち、屋敷のお手伝いさんたちは殺害され、クレアとトルギスはかろうじて助かったのだ。

その後、トルギスは母方の祖父母に引き取られ、同じ王都のエリアに住むことになり、時々、少女戦士隊に入隊したクレアに会いに来てくれていた。

「出動した時、トルギスに行かないでと止められたの。私ともう会えなくなる気がするって泣いて聞かなかったの…もし、この不安が現実になってしまったから、今頃一人で泣いているかもしれないわ」

「クレアお姉ちゃん」

ラッシェオとルルはただ彼女を抱きしめことしか出来なかった。十代の少年少女に取って夜の海の残響はただ虚しく響くだけだった。




























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