三十九夜  玄関口の町

「渦潮がでっけーな。ガラスから足下から見られるなんて神にでもなった気持ちだぜ」

ピースの足下には、鳴門市の、いや、火事と喧嘩は江戸の華、渦潮と踊りが阿波の華の巨大な海の神秘に見とれていた。

潮風も気持ちよく、優しい匂いがし、明るい太陽の光と海の光が綺麗だった。

渦の道を観た後、道を歩くと巨大な美術館があった。

「立派な建物だな。中に入ると美術館の中にはたくさんの絵画がある」

ハンディーで調べると、徳島では有名な大塚グループと言う大企業が建てた世界中の名画を複製、陶版画にして展示している。誰でも気軽に見られるのがコンセプトの美術館がある。

「ヨーロッパのイタリアで始まった「ルネサンス」を代表するミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロの三大巨匠の一人が描いた代表作「最後の審判」を全体的に再現したホールがあり、かつて、県出身の有名歌手が年越しライブをしたことがあるか…」

ピースは各部屋を隅々まで見て回った。

「いいところだな。ユリとラッシェオ連れてきてやりたかったな」

周りの家族は、

「ゴッホ先生の作品だよ」

「パパ、きれいなひまわり」

「こっちには、モネの作品もあるわよ」

「ママ、睡蓮のお池行く」

「ハイハイ、行こうね。アンジュ」

「わーい」

(ルルちゃんとティアみたいだな)

「モナ・リザだぜ」

「すごいな。美術の教科書より迫力あるぜ」

「財宝の在処が隠されているのでは?」

「それ、この前の映画だろう」

「うん、でも、フェルメールもいいよな」

「どこかの怪盗なら、両方盗むな」

友達と楽しく芸術に触れて、日頃の悩みや不安を忘れさてくれる。中には、芸術が解決するためのヒントを教えてくれることもある。

「モネの睡蓮や池の庭よかったね」

「うん、百合さん、誘ってくれてありがとう。おかげで悩んでいた小説の続きが書けそうだよ」

「拓君、今度はどうするの?」

「大聖堂も見られたし、大好きなヒロインと迷い込んだ海沿いの白亜の宮殿のイメージが生まれたよ」

「それならよかった。最近、話がかけなくなって、お母さんとお父さん、妹さんや会社の同僚たちとも大喧嘩したって聞いたから、大好きな小説なのに投げ出すなんてダメだよ。せっかく、貴男の大好きな町に素晴らしいものがあるんだから、楽しんで作らないと」

「百合さん」

彼氏の拓は、会社勤めをしながら小説家を目指して書いているが、最近、仕事の失敗で上司にパワラハまがいの指導をされ、同僚たちともぎくしゃくていた。家庭では両親や妹と仕事のことや目標があまりにも夢見過ぎだと言われて喧嘩して居場所がなかった。唯一の話し相手だった弟は結婚して、妻子と遠くの町に暮らしている。古い友達も仕事の転勤、結婚で名古屋、東京に出ていき、連絡を取るのも一ヶ月に一回になって疎遠になって塞ぎ込んでいたのだ。

年上彼女の百合は、そんな彼を心配して、気分転換も兼ねて今日はここに連れてきてくれたのだ。

ピースはそんな様子を見て、

(兄さん、夢も大事だが、帰りを待ってくれる両親や兄弟や仲間がいるなら大事にしろよ。何より、目の前にいる彼女さんは手放すなよ)

コインケースの中に大事にしまっている。浅草で撮影した世界で一番大切な彼女の写真を強く守るように握った。

喫茶コーナーがあったので、少し軽食を食べた。

すると、向かいの席に座っている。

「ヒカルくん、私のラズベリーあげる」

「きらりちゃん、ありがとう。僕もあげるよ。好きなイチゴ」

「わーい」

両親や兄弟、姉妹の前でいちゃつく仲良しな幼馴染カップルがいる。

(ラッシェオとルルちゃんみたいだな)

デザートのサンプルを見て、二人を連れてきてあげたく思うピースだった。

その後、彼はポケットに入っていた車のキーに気付き、駐車場にあるこの世界の愛車に乗り、次の目的地に向かった。

(あれ、俺、運転方法もわかるし、この町の道がわかる。なんでだろう?)

とりあえず、考えても仕方がないのである場所に向かった。

白い装束と笠を被り、錫杖を鳴らした人がたくさん出入りしていた。

「壮大だな」

一番札所の霊山寺の山門を前にピースはまたも心を奪われた。四国八十八か所参りと言われる「お遍路さん」は弘法大師空海が四国を修行して回ったことより始まり、同行二人と言われるのは弘法大師様と常に歩いていると言うのが由来である。

ここは発心の道場、所謂スタート地点だ。ピースは中に入ると池があり、色とりどりの鯉が泳いでいる。

本堂にお参りしに入ると、

「こりゃー凄い」

天井には一面のランタンが飾られて灯りをともしている。まるで、夜の幻想郷だ。

本堂を出て、次は北にある巨大な鳥居をくぐる。

「ハンディーで調べたが、お遍路さんの伝統は千二百年も受け継がれているんだな。次は、ここ大麻比古神社だ」

参道をまっすぐ進むと着物姿やスーツ姿の小さな子供たちが両親や祖父母に連れらて歩いている。

「祭りでもしているのかな?」

掃除をしている女子高生くらいの三人の巫女さんたちに尋ねてみた。

「失礼、巫女さんたち、子供たちがカラフルな恰好で歩いているが、あれは何かのお祭り?」

「今日は、七五三なんです」

七五三とは、

「七歳、五歳、三歳と年齢を迎えたお子さんたちの健康祈願と成長をお祝いをする行事なんです」

「私たちもみんな、あの子達ぐらいにしました」

三人は、スマホに入っている写真の自分たちの七五三の可愛らしい着物姿をピースに見せた。

「美少女たち、ありがとう。うちの息子とお嫁さんになる女の子もいつかここに連れてきてあげたいな」

ハンディーに保存している浅草で撮影した晴れ着の家族写真を見せたら、巫女さんたちは「わおー」と驚いていた。

蛇足だが、社殿の奥にある場所を三人は案内してくれた。

「神社なのに、石造りの立派な橋があるね。大昔の神事をしていた遺跡?」

「いいえ、この橋は百年前に起こった第一次世界大戦と呼ばれる戦争で、敵国だったドイツ軍の捕虜の兵士たちが友好の証に造ってくれたんです」

「捕虜?戦争に敗れて捕まったのにか?」

巫女さんたちは、ある歌を歌い出した。

力強く、壮大な歌声は山々に響いた。

その後、ピースは巫女さんたちが教えてくれた大麻比古神社の近くにある場所へ向かった。

そこは、山あいに造られた白壁の大きな塔を備えた巨大な建物があった。隣には赤茶色の煉瓦造りの建物と二つあり、徳島なのに、外国の情緒があった。

「巫女さんたちが教えてくれたドイツ館はこれか、隣は賀川豊彦先生だったな」

ピースは車を停めて中に入った。

「うん、木で出来た建物…?倉庫か?」

ピースは目の前に現れたバラッケの中に入った。

そこは…








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