二十五夜  スタートライン

「ここが、東京かでっかいな。流石は首都」

ピースは現れた丸の内のオフィス街を見て叫んだ。

「モノリスみたいな摩天楼が立ち並ぶ大都会だな」

「セントラルやテラみたいだな。俺らの住んでいる郊外の田舎町よりも発展している」

フーガとピースは巨大な日本国の首都の都心を見て感動していた。建物だけでなく、周りを行き交う背広姿の会社員や着飾った若い学生たちや旅行者たちに見惚れていた。

「流石は首都だな。色々な人がいるな」

「何を呑気なことを言っているの?ピースもフーガも、私たちは異世界観光しているわけじゃないのよ。ラッシェオとルルちゃんやハスちゃんがこの広い町のどこにいるかわからないのよ」

ユリが脳天気な二人に喝を入れる。

二人は「そうだった」と反省する。

「私たち以上に彼の方が不安は大きいわ。ねえ、インドラ君」

「ティアさん、フーガさん、ピースさん、ユリさん、この度はお手数をかけて申し訳ありません」

四人の後ろにいる青緑色の髪と鋼色のフレームの眼鏡の青年がいた。

そう、ハスの彼氏のインドラだった。

あの雨の夜に彼女とはぐれて気が付いたら、都心の渋谷センター街にいたのだ。しかも周りの人に自分の姿が見えないのだ。必死に彼女の名前を呼んだがおらず、誰も答えてはくれない。

異世界と言うのはすぐに理解出来たが、自分の無力さに涙した。

「ハス…」

だが…それは悔し涙ではなくこれまで互いに支え合ってきた恋人を理由もなく失ったからだ。

それからも、あっちこっち探したが彼女はいなかった。足が壊れるまで探した。

「結局、ハスは見つからず途方に暮れていた時に皆さんと再会出来て良かったです」

「一刻も早く、ハスさんとルル、ラッシェオくんを助けないと」

まずは、東京駅周辺を探してみた。

ホテル、漫画喫茶、カフェ、コンビニ、お風呂屋、フィットネスジムなど人が集まりそうな場所を五人は捜索した。

しかし、手がかりは何も得られなかった。

「だめか…これ以上探しても何もないな」

東京この町は広いし、大きからな…丸の内と呼ばれるこの地区以外にも若者の町、渋谷に原宿、新宿、池袋もあるし、娯楽の町秋葉原に中野、専門店街合羽橋や古の町浅草やら上野、深川、神田など二十三区と呼ばれる都心の町がいくつもあるからな」

「もう、ヘトヘト」

日比谷公園のベンチに座り込む五人、こうしている間にも子供たちや恋人が心配でたまらない。

怪我をしていないのか、食事はしているのか、きりがないか考え込んでしまう。

「この香り…まさか…」

インドラの鼻に何か覚えのある匂いが舞い込んだ。

それは、大切な人のお気に入りシャンプー「サクラの華」の香りだった。

「ハス」

インドラが叫ぶ。

すると、尚樹になっているハスが彼の声に気付いた。

「インドラ…?」

振り向いた先には、霊魂の状態だが離れ離れになっていたが彼と出会い、尚樹の身体から分離した。

「インドラ、もう会えないと思ったよ」

「ハス」

ルルも敦子の身体から抜けて、ラッシェオと両親たちと再会した。

「ルル」

「ラッシュオ」

「ルルちゃん」

「お父さん、お母さん、おっちゃん、おばちゃん…ただいま」

六人も互いに涙を流して抱き合った。

「心配かけて」

「本当に、おてんば娘、今度いなくなったらおしおきするんですからね」

ティアが泣きながらルルを抱きしめた。

「お母さん…ごめんなさい」

ルルは安心したのか母の胸の中で号泣した。

ラッシェオは隣で見守っているとユリが上から包み込むように抱き込んだ。

「それ、ママから離れないように」

「母さん、よせやい」

恥ずかしがる息子は顔を紅くするが、母子は心から安堵していた。

「ほら、パパも」

ユリがピースの手を引っ張るとシュバルツ家は親子三人で抱き合った。

やがて、八人の男女は敦子と尚樹が正気を取り戻したのを確認した。

「敦子」

「尚樹さん」

「ここまで来てくれたのか?」

「うん、尚樹さんと離れたくない」

「敦子」

ルルとハスが間借りしていた前後の記憶は消えているが、二人は東京に、憧れの地に辿り着いたのだ。

二人はこの先に困難が待ち受けていると思うが、スタートに立てたのだ。きっと、どんなことも乗り越えられると八人は思った。

尚樹と敦子はその足で新宿に向かい、兼ねてから用意していた新居に向かった。

場所は新宿御苑近くの小さなマンション、そこが二人の愛の園になるのだ。

(なんだかんだと良かったね)

(インドラ兄ちゃんとハス姉ちゃんに再会出来たしな)











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