第一章 ~『桜木の復讐心と誤解の始まり』~
『視点変更:桜木サイド』
「振られてすぐに教室には行けませんね……」
桜木は一人になれる場所を探していた。ずっと片思いしていた相手に振られた悲しみを吐き出すために、人目を気にせず泣きたい気分だったのだ。
「屋上が良いかもしれませんね」
生徒たちが近寄らない穴場スポットを思い出し、階段を登る。
「杉田くんと屋上で昼食を食べたことを思い出しますね……」
そもそも隠れスポットとしての屋上は杉田に紹介された場所だった。てっきり封鎖されているとばかり思っていたので、鍵が開いていたことに驚かされたものだ。
「私が手作りしたお弁当を美味そうに食べてくれたんですよね……ふふふ、苦手なピーマンも引き攣った笑顔で食べてくれて……本当に楽しい時間でした……っ……」
階段を一つ登るたびに楽しかった記憶が押し寄せ、涙腺を緩くする。屋上に着くまではまだ泣けないと、必死に涙を堪えて、階段を登り切った。
「あれ、先約がいるのでしょうか……」
いつもは閉ざされているはずの屋上への出入り口の扉が開かれていた。隙間から様子を伺うと、そこでは二人の男女が抱きしめあっていた。
(こんなところで逢引きでしょうか……あれ、でもあの男子生徒……)
女子生徒は背を向けているため顔が分からないが、男子生徒には見覚えがあった。というより彼の姿を見間違えるはずがない。
「す、杉田、くん……」
頭が目に映る光景の理解を拒む。だが桜木の頭の良さが裏目となり、一つの可能性を思い浮かべてしまう。
「まさか私が振られたのは……他に好きな人ができたから?」
手は震えだし、我慢していた涙も止まらなくなっていた。ポタポタと涙が頬を伝う。
「うっ……ぐすっ……あ、愛していたのに……こんなのあんまりです……」
仮の恋人でしかない二人であったが、心は通じ合っていると信じていた。しかしそれは桜木だけが抱く錯覚だったのだと、残酷な現実によって教えられる。
「もしかして……私とデートしてくれたのも、本命の恋人との練習台として利用するためだったのでしょうか……」
だとするなら、それはあまりにも残酷な仕打ちである。デートのたびに心躍らせ、どうすれば杉田が喜んでくれるだろうかと苦心した日々は、練習台としての価値しかなかったのである。
「ぐすっ……許せません……杉田くんと……まだ彼のことを諦めきれない自分自身が……ッ」
浮気にも似た行為をされても、杉田のことを愛していた。だからこそより一層悲しみが深くなる。
「いいでしょう。私を捨てるのなら、幸せになってください。でもいつか私を捨てたことを後悔させてみせます!」
運動も勉強も美貌もより高みを目指す。そして彼は数年後に後悔することになるのだ。なぜ自分はあれほどに素晴らしい女性を捨てたのかと。
「それに私にはラノベ作家としての経歴もあります。今以上の売れっ子作家になって、歯がゆい思いをさせてみせます。それこそがあなたへの復讐になるのです!」
桜木は復讐を誓い、階段を降りる。その瞳からは涙が消え、代わりに覚悟の炎が宿っていた。
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