おかしな二人

ピート

第1話 おかしな二人

「なぁ、智、頼みがあるんやけどな」

「断る!」

「まだ、何も言うてへんやんか」

「敏夫の頼みはロクな事が起きないから絶対にイ・ヤ・ダ!」

「聞くだけ聞いてくれてもええやんか…な?」

「……仕方ないなぁ、特別だぞ?」

「ありがたい」

「で、何だよ?」

「いやな、この俺の類稀な才能を生かす道はないかなと?と、イロイロと考えたんやけどな」

「類稀ねぇ…、で?」

「芸人しかないんちゃうかなと思ったわけや」

「?芸人?…冗談だよな?」

「これが冗談言うてる顔に見えるか?」

「敏夫の存在自体が冗談みたいなモンじゃんか」

「きつっ!智、友人に対してヒドイ事言うなぁ」

「友人と思ってるのは、敏夫だけかもしんないけどな」

「智…泣きたくなるような事サラッと言うなよ」

「で、本題は?」

「冷たいヤツだな…あんな、新年早々コンテストがあるんや」

「何の?」

「話、聞いてへんのか?芸人のコンテストに決まってるやんか」

「初耳だな」

「…ま、それでだな、ネタが必要になってくるやん?」

「才能があるんじゃなかったのか?」

「もちろんだ!だけどな、常人には俺の『笑い』が理解できひんかもしれんやろ?」

「確かに奇人の『笑い』など理解できんだろうな」

「あのなぁ…俺はひたすらボケに徹するから、ツッコミ役が…」

「断る!!」

「智、人の話は最後まで聞けって、通知表に書かれてたやろ?」

「『敏夫の話はロクに聞かなくていい』というのがウチの祖父さんの遺言だからな」

「祖父さん、今朝ジョギングしてるの見たぞ?」

「気の迷いじゃないか?」

「日本語になってへんしな」

「…帰っていいか?」

「ガキやないやろ?」

「話の本筋をさっさと話さないからだろ」

「…台本はできてるんや」

「一人でやるのか?」

「大丈夫、最高のパートナーがいてるからな」

「…最低のコンビになりそうだな。…で、頼みってのは?」

「予選があるんや。課題は取調室なんやけどな」

「ベタベタだな」

「課題だからな」

「それで?」

「俺は容疑者になるから、智に刑事役をやってほしいんや」

「本読みか…台本は?」

「アドリブでええよ」

「ハッハァ~ン、わかったぞ。…前置きの長いヤツだな。で、何やったんだよ?」

「へ!?」

「自首するつもりなんだろ?取り調べの練習なんかしても意味ないと思うぞ?」

「いつ俺が犯罪を犯したんだ?」

「二日ぐらい前に、幼等部の女の子と手ぇつないで帰ってたじゃないか。営利誘拐か?……!!まさか、敏夫、イタズラ…」

「知ってるとは思うが、それは妹の聖だぞ?」

「妹?確か猿みたいな顔だったと思うが?」

「いつの話だよ!それじゃ産まれてすぐの頃じゃねぇか」

「DNA鑑定をすべきだな…まさか赤ん坊を取り換えるだなんて…」

「俺の話を聞けよ!」

「聞いてるよ。刑事役なんだろ?フフフ…」

「何で、コブシを握り締めてるんだ?」

「はぁ~暴力刑事かぁ…気が乗らないなぁ」

「顔が全然困ってへんしな。…どっちかいうたら喜んでる顔やないか」

「殴りたくないんだけどなぁ…リアリティを求める以上仕方ないか」

「わぁーー!待て!違う!そうやない!!」

「…つまらん」

「ふぅ~」

「やるのか、やらないのか、どっちなんだよ?」

「何で、智が主導権握ってるんや?」

「フン、やっとその気になったか」

「会話かみ合ってへんしな」

「グチャグチャとうるさいヤツだな…刑事役だな?わかったよ」

「…始めから言うてるやんか」

「お前か?自首してきたっていうのは?」

「は、はい」

「で、何やったんだ?」

「…そ、その三丁目の事務所荒しです」

「あれか、……じゃぁ、調書を取るから、虚偽の申告をしないようにな」

「はい」

「名前は?」

「…俺の名前じゃ平凡なんだよなぁ」

「何か言ったか?」

「い、いえ…え~と、ご、ゴウダ、ゴウダタケシです」

「ゴウダタケシ?…どっかで聞いたような名前だな?」

「知らないんですか、刑事さん?ジャイアンですよ、ジャイアン!いかにも悪さしそうな名前でしょ?」

「冗談言ってるなら、この場で拳銃が暴発した事にして射殺するからな?」

「い、嫌やわぁ…そんなん冗談言うわけないやないですか」

「で、ジャイアン、どうやって侵入したんだ?」

「ジャイアンって、刑事さん?」

「ゴウダタケシなんだろ?ジャイアンでいいじゃないかよ。嫌ならブタゴリラって呼ぶからな」

「藤子キャラにこだわる必要はないと思うんですけど?」

「いちいちうるさいヤツだな!ジャイアンのクセに生意気なんだよ」

「ジャイアンのくせにって…」

「そうやって、普段のび太やスネオをいじめてるじゃないか」

「いや、刑事さん、別人やしね。アレはマンガやし…」

「自分でジャイアンって言っただろ?」

「刑事さん…すいません」

「何だよ?嘘なんて言ったら、この場で射殺するからな」

「なんでもないです」

「で、どう侵入したんだよ?」

「窓ガラスを割って…」

「窓?本当にそうだったか?」

「…裏口をバールで抉じ開けて入りました」

「うん、うん、そうだよな。で、侵入してどうした?」

「事務所の中を物色して…」

「本当に物色したのか?」

「……」

「物色された形跡はないらしいんだがな」

「勘違いしてました。金庫を運び出しました。…何でもいいんですけど、銃口、こっちに向けるのヤメテもらえませんか?」

「一人でか?」

「聞いちゃいねぇ……はい、一人で運びました」

「…ずいぶんと力があるんだな……あ!!ドラえもんが共犯だろ?」

「マンガとゴッチャにしないでくださいよ」

「だって、一人で金庫運んだんだろ?」

「えぇ」

「三丁目の事務所荒しだよな?」

「…はい」

「金庫の重量だけで、200キロあったそうだが?」

「こう見えて力あるんですよ」

「…スモールライトだろ?」

「はい?」

「どこに隠したんだよ?…ポケットの中か?」

「け、刑事さん?」

「ドラえもんはどうしたんだよ?…まさか、殺害したのか?ジャイアン!お前殺人まで犯してたのか?」

「やってないって」

「素直に言っちまえよ」

「……」

「…わかったよ。カツ丼食うか?」

「ベタやねぇ」

「何だよ!カツ丼じゃねぇのかよ!おいおい、まさか…『田舎のお袋さん泣いてるぞ』とか、言ってほしいのか?」

「そういう事じゃなくて」

「歌えって事か?」

「違う!!」

「……敏夫、お前ちっともボケてないじゃないかよ」

「智がボケまくるからやんか!」

「才能がないって事だ、あきらめろよ。骨は拾ってやるから」

「言葉の使い方間違ってるぞ」

「うるさいなぁ。そんなんだから、いつまでたっても敏夫って呼ばれるんだよ」

「俺の名前なんだから、ええやないか」

「それで満足なのか?だから、お前はいつまでたっても敏夫なんだよ!」

「いや、生まれ持った名前やしな」

「現状で満足してていいのかよ?敏夫のままでいいのか?皆に敏夫、敏夫って呼ばれるんだぞ?恥ずかしいとは思わないのか?」

「涙ぐむなよ!俺の名前は、そんなに恥ずかしいのかよ?」

「…あのなぁ、だって敏夫だぞ?考えてもみろ!敏夫であるが故に敏夫って呼ばれるんだぞ?いいのかよ、そんなんで!」

「当たり前の事やんか」

「何て事だ。お前がそう呼ばれる事を諦めていただなんて…」

「あきらめてへんしな」

「わかった。今日、たった今からお前はジョニーだ」

「呼ばんでいい」

「あきらめるなよ、ジョニー!」

「嫌がらせか?」

「やっと気付いたのか、ジョニー?」

「俺をどう見たってジョニーにはなれへんやろ?」

「わかったよ。…セバスチャンならいいか?」

「敏夫でええと言うてるんや!」

「つまんないヤツだな、わかったよ…敏夫……はぁ~~」

「人の名前呼んだ後に、大きなため息つくなよ」

「ため息もでるさ。だって敏夫だぞ?幼なじみのお前を敏夫と呼ばなくちゃいけないだなんて…」

「いいかげんにしろ!」

「…怒った?」

「これ以上続けるならな」

「敏夫のクセに怒るとは…」

「はぁ~、何が悲しくてそこまで言われなくちゃいけないんだ?」

「あきらめろよ。仕方ないだろ?敏夫なんだからさ、な?」

「肩を抱いて慰めるな!」

「嫌なのか?」

「……」

「大晦日だぞ?なのに、自分家でこんな馬鹿げた会話をしてて、悲しくはならないか?」

「そう言う智はどうなんだよ?」

「フッ…野暮な事は聞くなよ」

「約束があるのか?時間は大丈夫なのかよ?」

「…約束はしてないけど、年越しを二人で過ごすのは事実だな」

「そっか、悪かったな。変な事に時間使わせて」

「もういいのか?」

「あぁ、早く行ってやれよ」

「じゃ、夕食でもオゴッてもらおうかな?」

「はいぃ?何で俺がオゴらにゃならんのだ?」

「…その頭の回転の悪さが理由だな」

「なんや、見栄はってたんか?」

「はぁ~~…敏夫、やっぱり敏夫と呼ばれるだけの事はあるな。…仕方ない、今日のところはケンタッキーで勘弁してやるよ」

「結局、俺のオゴリなのか?」

「食後のコーヒーぐらいはゴチソウしてやるよ」

「缶コーヒーだろ?」

「おしいな、紙コップのヤツだ」

「で、俺はケンタッキーなのか?」

「当然だろ?」

「…わかったよ」

「じゃ、早く行こう」

「腕を絡ませるな!胸が当るだろうが!」

「……バカ」

「何か言うたか?」

「言うてへん…早く行こっ」

「今年も智と二人で年越しかよ。…いい加減、その口調は直すべきやと思うぞ」

「うるいさいなぁ、敏夫は…」


二人は歳末で賑わう街へとくりだした。


Fin

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