第6話「海の街マリンズ」

 前回、火花はいつの間にやら違う大陸へと移動していた。


「でかああああああああああああああああああああいえやああああああああああ!!!!」


 思わず街中で叫んでしまった。やはり海辺というのは貿易で発展するものか。至る所にさまざまな店が並び、さまざまな種族がいる。昼時(寝過ごした)ということもあり賑わいを見せていた。


「ご主人様、元気になられてよかったです~」


「心配かけてごめんね?洗濯までしてもらっちゃって」


「いえいえ!火花様のためですから!」


 すると私が泊っていた宿屋から声をかけてくるものがいた。


「おーい魔族の姉さん!」


 声をかけてきたのは緑色の肌のゴブリンだった。


「なんですか?てか私は魔族じゃ」


「ご主人様、ここは人間がいない場所。嫌われている場所なので魔族で通した方がよいかと」


「オッケーミャノン。はい、私ですか?」


「目が覚めたなら声をかけてくれよなぁ。隣大陸のグリーンバース、街で助けてくれた恩を返したいんだ!あの時俺っちは仕事でやらかして人間に殺される一歩手前だったんでさぁ」


「火花様、このゴブリンさんがここまで運んでくれたんです」


「わぁおマジ!?私、東雲火花!お礼はここまで運んでくれただけで十分だよ。てかこちらこそお礼を言いたいくらいだよ」


「俺っちはルプーア。世界中を回る商人ゴブリンさ。命を助けてもらって運んだだけってんじゃあ釣りが合わねえってもんでさ!商人ゴブリンの名が泣きますぜ!よけりゃあ明日の朝までこの港街、マリンズを案内しますぜ!」


「そんなに気にしなくてい」


「あぅ」


 途端、私とミシロちゃんのお腹は空腹だと絶叫した。


「素直なお腹でよいこって!よっしゃ!昼の飯代と次の街への旅費は俺っちが持ちますぜ!おーっと、断っても意地でも食らいつきますぜ?」


「ふふ、ならお言葉に甘えちゃおうかな。まずは一番料理がおいしい店に連れて行ってほしいな!」


「がってんでさ!この街で一番の飯屋ってんならレジィナの店って決まってら」


 ルプーアの案内のままついていくと一際賑わいを見せる店があった。


「ここがレジィナの店でさ。特に海鮮物と酒はこの大陸一良い物がそろっている」


「へー、私まだ未成年なんだけどな。まぁそれは元の世界のことだし」


「火花様、みせーねんってなんですか?」


「ん?あぁ気にしないで。さぁてお腹すいたからおすすめ全部持ってきて!」


「よっしゃ!じゃんじゃんもって来い!このルプーアの恩人に最高の酒と料理だ!」


 瞬く間に美しい海鮮料理と酒が準備された。別に飲んじゃってもいいよね?いいんだ!


「火花さん、乾杯の合図を頼みますぜ?」


「え、えーと、この良き出会いと料理に、かんぱーい!」


「かんぱーーい!」


 初めてまともにお酒を飲んだが、小さいころいたずらで舐めたビールとは違い、喉をとおる炭酸と不思議な味わいがとても美味しい。料理も魚や貝などがとても新鮮で、最高に美味しかった。ふと丸い揚げ物に気が付く。


「これなんだろ?」


「あー、それはここの街の名物で魚汁団子(うおじるだんご)でさぁ。魚の旨み汁が詰まった揚げ物で、奥歯でがっつり噛んでくだせえ。奥歯ですぜえ?」


 私は少し奥歯の手前で噛んでみた。途端凄まじい勢いで魚の旨みが口の中を支配して口から爆発のように溢れる。


「んはぁっ!?」


「はっはっは!だから言ったじゃないですかい!」


「何だこれぇ!ンまいなあッ!はいミシロちゃんも、あーん。」


「あーん。ほぇあ!?」


 ミシロちゃんも口から旨み汁が飛び出した。


「どうれ俺っちも、ごはぁ!?」


「あはははははは!何だこれッ!ほんとンまいなぁぁぁあーーーッ」


「私も食べたいですぅあああ!なぜ私は指輪なのかぁあああぅ!!」


 三人で笑いながら食べ、飲んでいると美しい褐色の女性がテーブルへやってきた。細身に薄水色のドレスが映える。


「わぁ、ダークライトエルフです!」


 ーご主人様、この女性はダークライトエルフという種族で、ライトニングエルフとは対となる存在です。ライトニングエルフは雷の竜の加護により魔力が強いですが、このダークライトエルフは闇の竜の加護により肉体が戦闘向きなのです。しかし気性は物静かで、やるときはやるってタイプです。はぅあ!すごく好みの女性です!あの金の眼でゴミを見るような目線で睨まれたい!ー


 ミャノンが私の脳に直接声をかけてきた。こんなこともできるんだ。途中指輪を外して無視した。


「あら、可愛いライトニングエルフちゃんだこと。さて、聞いたわよ。守銭奴とまで言われるルプーアが魔族におごるなんて珍しいじゃない?」


「おおレジィナ!なんせこのお方は俺の命の恩魔族だからな!しかもこんな華奢な成りしてとびっきり強いってんだから驚きさ!人間の街一つ壊滅させちまったのさ!」


「あら、凄いわね。でも魔族なんてもう何年も見てなかったわ。まだ生き残っていたのね」


「あ、あはは。あの、この世界の人間は私の世界、じゃなくてブルーサファイアを襲おうとしているんですよね?」


「えぇ。そうらしいわ。空を見たでしょ?あんなものが逆に人間を一つにしてしまったの。」


「どういうことですか?」


「いざ滅びが目の前に現れた途端、人間は協力し合い助かる道を探し始めたの。でも自分勝手。他の種族や命を見捨ててブルーサファイアへ行こうというのだから。」


「まさか、人間だけ移民しようと……?」


「みたいね。だからこの大陸には必要最低限の軍備と、見捨てられた貧困の人間しかいないのよ。中には物好きな破滅主義者みたいな研究者がギリギリまで残るとか言ってるみたいで、人の消えた街に残っているようだけれど。私達はほら、異種族同士であまり争わないから。」


「生き残りたくは…ないですか?」


「できることなら生きていたいわ。楽しくこうやってみんなと料理を食べて、歌って、騒いで、死んでいきたいわ。そこに人間は、もういらないかも、ね?」


 悲しく笑うその眼は心底人間に愛想を尽かしているといったものだった。


「さ、辛気臭い話はやめて今夜は楽しんでちょうだい?一曲プレゼントするわ」


「おぉ!レジィナの歌がタダで聞けるたぁ今夜はツイてますぜ火花さん!」


 私はそのまま一日中飲み食いし、初めて酔うという感覚のまま夕暮れと共に宿屋へと戻った。翌日、私は二日酔いが吹き飛ぶような事件に巻き込まれる。

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