最弱召喚士、魔王を倒して運命をみつける物語

プロローグ

　爆ぜる火の粉、肌を焦がす熱風、むせ返るほどの熱気。

　その全てがジリジリと私の肌を、髪を焼いていく。

　これは魔王を焼き尽くす聖なる炎なんてものじゃない。

　人をも焼き殺す、ーーー狂炎だ。

「ーーーんで」

　叫び疲れて、泣き尽くして、掠れた声が零れる。

　私の腕の中で眠るこの人が目覚めることはない。

　白く美しかった彼の頬に、なおも溢れ出る私の涙がいくつもいくつも落ちる。

「なんで、私なんかのために・・・・・・！」

　この涙を拭ってくれる人はもう、目覚めない。

　彼の温もりはもう、どこにもない。

　手に感じるのは彼の温もりではない、燃える火の熱さだけ。

　彼の目が開くことはもう二度とない。

　なぜなら、彼の魂は焼き尽くされたから。

「・・・・・・なんで、なんでこの人を！！」

　憎しみと悲しみと、それを止められなかった自分への憎悪。

　そして、身を焼き尽くすほどの怒りが全ての元凶へと向けられた。

　私は目の前に浮かぶ、自らが召喚した聖火神を睨みつけ、叫ぶ。

　しかし、聖火神はその憎悪を意にも介さず無機質に自身を喚んだ召喚士を見つめ返す。

　少しの沈黙の後、聖火神は重々しく口を開いた。

【彼の者が選択した事】

　淡々と事実を述べるだけの聖火神に、私は最早怒りを通り越した。

　聖火神を召喚しなければ、魔王がいなければ、召喚士が私じゃなければ。

　この人は死なずにすんだかもしれない。

　最期に私の顔を見て、微笑んだ貴方の言葉はあまりにも優しかった。

「私、なにも返せてないのに・・・・・・。貴方に助けて貰ってばかりだね」

　気を緩めばすぐにでも意識を失うほどの灼熱の中。

　私の手が熱さで燃えているのか、そっと触れた彼の頬はひんやりと冷たかった。

　目を閉じれば浮かんでくる彼との思い出に、涙は止まることなく溢れ出る。

　・・・・・・決心はすでについていた。

「ーーーー、ありがとう。私もすぐ、傍に行くから」

　貴方のいない世界で、幸せになる資格など私にはないから。