第103話 隣国の陰謀2

部屋の奥に、魔物の気配があった。奥の部屋に続く扉を開けると、中にはコボルトの魔道師=コボルト・メイジが居た。


コボルト・メイジは持っていた杖をコジロー達に向け魔法を放とうとしていたが、魔法が放たれる前に、背後に転移したコジローの次元剣が敵を両断していた。




魔物に子供を産まされた人間の女は、殆どの場合、出産時にほとんど死んでしまう。魔物の子を宿した場合、子は臨月になると腹を破って出てきたりするのである。


外科的手術で魔物の退治を取り出すことができれば助かるかも知れないが、この世界は魔法の世界であり、あまり外科的治療などの技術は発達していない。


そうなると、ここに居る女達は全員死を待つしかないという事である。腹を食い破られる前に殺してやるのが情(なさけ)だろうか?とリヴロットは言ったが、コジローが待ったをかけた。


コジローは、最近進化した自分の能力であれば、もしかしたら助けられるかもしれないと、リヴロットとリエに自分の考えを説明し、女達をとりあえず外に運び出してもらった。




洞窟の外では、コボルトの死体を冒険者と騎士達が集めて積みあげている。


少し離れた場所に女達を寝かせ、コジローは女達の胎内を空間認識で確認する。


これは、転移魔法がまた進化したことで可能になった能力である。透視するように、空間内の位置関係が把握できる。これは、転移の魔法を使う際、壁の中などに転移してしまう事故を防ぐために、事前に転移先の状況を確認する術式が開発され、発達したのである。


この能力がより高度なレベルになると、実際に転移せずに転移先の状況をしる事ができるようになる。それはまるで、バックヤードに居ながら、マジックミラーで表の世界を透かして見ているような感覚である。


そう言えば、ゼフトに地球に連れて行って貰った時にも同じような体験をした。亜空間に存在するゼフトとコジローは、物質の世界にいる地球の様子を別の次元の空間から透視するように見ることができたのであった。




寝かされた女性の胎内の状況を把握したコジローは、胎児だけを外に転移させた。転移先はコボルト達の死体の山の上にした。


取り出された胎児はピクピク動いている。気持ち悪いのでなるべく見ないようにしていたが、チラと目に入ってしまうのはどうしようもなかった。。。


女達全員の胎内の異物を転移で除去した後、騎士団が連れてきていた治癒魔法使いが女性たちを治療した。それにより意識を取り戻した者から、女達がどこから連れてこられたのかが判明した。


女達は、隣国、バネダス共和国の革命政府によって捕らえられた反政府勢力の女達だったのである。




胎内の異物を排除し治療を受けたことで女達の命は助かったが、酷い目にあった心の傷まで癒える者ではない。女達は騎士達に保護され、街の保護施設へ収容されることとなった。


その後、その女達の事情聴取で明らかになったのは、どうやらバネダス共和国は、魔獣を使って敵国を攻撃する手段の開発にともなって、魔獣を大量に人為的に生み出す研究をしているとの事であった。


それの報告を受けたウィルモア伯爵は怒りに震え、挙兵の準備を始めたのである。




そして、バネダス共和国は、魔獣を使ってカデラック帝国内のウィルモア領に攻撃をしかけてきたという事になる。実は今回のコボルトの事件も、まだただの実験でしかなかったようであるが、隣国が危険な実験を隣国の領土内で行うのは、敵対行為以外の何者でもない。


兵を準備したとはいえ、即座に攻撃を開始すると言う事ではない。まずは国を代表して領主からバネダス政府に正式に苦情を申し入れる。その対応如何によっては戦争に突入するかも知れないという事である。


辺境伯という立場は、隣国との国境を守る貴族の爵位である。隣国からの侵略を受けたら、それを撃退する義務があるのである。そのために、非常に強い権限を与えられている。防衛のためであれば、王の許可を待たず挙兵する権限が与えられているのである。




その後、領内の兵力が集められ、戦争の準備が進められていく。


領内の冒険者からも兵士が募られる。冒険者に徴兵の義務はないが、参加した者には報酬が支払われるし、戦功によっては騎士への登用や爵位などを貰えるケースもある。そうでなくとも、国も守るという意識の高い者が多いので、参加する冒険者は多い。


コジローにも領主から協力要請があったが・・・



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